Disc Review

My Name Is Suzie Ungerleider / Suzie Ungerleider (MVKA/Stella Records)

マイ・ネーム・イズ・スージー・アンガーリーダー/スージー・アンガーリーダー

もう25年くらいずっと“オー・スザンナ”というアーティスト名の下で活動を続け、ジュノ・アワードとかにも何回か輝いている、アメリカ生まれ、カナダ本拠のシンガー・ソングライター、スージー・アンガーリーダー。彼女がこのアーティスト名を返上するとSNSで宣言したのは今年の春くらいだったか。

もちろんこのアーティスト名は、スティーヴン・フォスター作の「おお!スザンナ」に由来するのだけれど。ある程度トラディショナルな米国音楽に関する知識をお持ちの方ならばご存じの通り、ミンストレル・ショーなどで人気を博したこの曲のオリジナル歌詞にはけっこう人種差別的な表現が含まれていて。

とはいえ、この曲が素晴らしい伝統なり郷愁なりを後世に伝える重要なアメリカン・フォーク・ミュージックであることは間違いなく。その辺の意義のようなものとの狭間でさまざまな論議が交わされ、結果、疑問のある歌詞を含むヴァースを省くような形で現在まで歌い継がれてきたわけだ。

ということで、スージーさんも自分の音楽の立ち位置のようなものを明解に象徴するものとしてこの曲のタイトルを自身のアーティスト名に据えてきたわけだけれど。さすがにこのご時世、差別的なイメージをまとったこの曲のタイトルをアーティスト名として名乗り続けるのはどうなんだろう、と。そう思い至って、今後は本名で活動していくことにしたという流れらしい。

そんな、心機一転、本名での第一弾。タイトルまで“私の名前はスージー・アンガーリーダーです”と。まっすぐ来ました。といっても、オー・スザンナ名義で過去リリースしたアルバム群と何かが大きく変わっているかと言えばそんなこともなく。繊細で、かつエモーショナルな彼女ならではの静謐で奥深い世界観を楽しめる新作です。

オープニング・トラック「マウント・ロイヤル」は、オー・スザンナ名義で出た前作、2017年の『ア・ガール・イン・ティーン・シティ』の世界観にも通ずる、彼女の、たぶん実体験を下敷きにした回想を紡いだような1曲で。その穏やかな、鎮静した眼差しがなんとも沁みる。アルバム後半に収められた「ノース・スター・スニーカーズ」という曲にも同じテイストがあって。歌声には憂鬱と歓喜とが矛盾なく共存していて。引き込まれるしかない。

“砕けたカボチャの匂いがまだ生々しく漂う/秋の色すべてがあなたの髪に映る…”みたいな、なんとも不思議な空気感の描写が印象に残る「パンプキンズ」みたいな曲があるかと思えば、たぶんドメスティック・ヴァイオレンスに言及しているのであろう「ディサピア」みたいな曲があったり。

ぼくは今のところストリーミングで楽しんでいるので、詳しいクレジットとかがわかっていないのだけれど。基本、スージーさんの自作曲ばかりらしく。でも、先月出た『アンカット』誌のおまけCDで先行公開されていた「スウィート・リトル・スパロウ」って曲は、カナダのベテラン・バンド、ブルー・ロンドのベイジル・ドノヴァンとの共作。ドノヴァンさんの娘さんのことを歌った曲なのだとか。さらに、スージーさんのほうの娘さんのことを歌った「サマーベイビー」とか「ハーツ」とか、そういう曲も入っていて。子守唄にも通ずる無垢な感触がなんだか素敵だ。

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