Disc Review

The Complete Atlantic/Elektra Albums 1962-1983 (6CD Box Set) / Mose Allison (Strawberry/Cherry Red)

ザ・コンプリート・アトランティック/エレクトラ・アルバムズ1962-1983/モーズ・アリソン

2019年の暮れ、タジ・マハールやエルヴィス・コステロ、ジャクソン・ブラウン、フィオナ・アップル、クリッシー・ハインド、イギー・ポップ、ボニー・レイットらが参加したモーズ・アリソンへのトリビュート・アルバムを本ブログで紹介したときにも書いたことだけれど。

ぼくが初めてアリソンの名前を意識したのは1970年。中学生だったころ、ザ・フーの『ライヴ・アット・リーズ』に収められていた「ヤング・マン・ブルース」の作者としてだった。といっても、当時の日本盤ライナーノーツとかには何ひとつ、その曲の作者である“M・アリソン”についての記述もなく。素性を知るまでにずいぶんと時間がかかってしまった。

本人の歌声に本格的に接したのは、それからさらに4〜5年後。そのときのことも以前ブログに書いたっけ。重複しますが、引用しておきます。

初めてご本人のアルバムを買ったのは、その数年後。ぼくはもう大学生になっていた。高田馬場の中古盤屋さん“タイム”でだったか、ビッグボックス前で臨時に開催されていた輸入盤フェアでだったか、アトランティックから出ていたベスト盤を手に入れた。「ヤング・マン・ブルース」は入っていなかったけれど、全曲かっこよかった。かっこよすぎた。

自ら奏でる独特の渋いピアノを含むジャズ・トリオをバックに、時には哲学的だったり、シニカルだったり、ユーモラスだったりする歌詞をつぶやくように歌う繊細な歌声。クールで、ヒップで、ぶっとんだ。

とともに、この人自身はけっしてビッグ・セールスを記録したアーティストではなかったけれど、その影響力が計り知れないものだったことも知った。ザ・フー/ピート・タウンゼントのみならず、ジョニー・ウィンター、ジョニー・リヴァース、ジョン・ハモンド、ボニー・レイット、マイケル・フランクス、エリック・クラプトン、エルヴィス・コステロ、ブライアン・オーガー、ロバート・パーマー、ヴァン・モリソン、ジョージィ・フェイムなど、アリソンから多くの影響を受けた後輩ミュージシャンはそれこそ無数だ。

アリソンは2016年、89歳で亡くなったけれど。彼の音楽は今なお、頼もしい同輩・後輩たちに受け継がれつつ生き続けている。

この人の場合、プレスティッジ、コロムビア、アトランティック、エレクトラ、ブルーノートなど様々なレーベルを渡り歩きつつアルバム・リリースを重ねてきて。ほぼすべての作品がCD化再発ずみ。すでに廃盤状態の盤も多いとはいえ、地道に中古屋さんとかをあたっていけば、なんとかコンプリートも夢じゃないわけだけれど。それらオリジナル・アルバム群をまとめた簡易CDボックスみたいなやつも、近年それなりに編まれてきた。しかも、けっこう安価で。ありがたい。

なかなかいいとこを手軽に網羅しているなという感じだったのが、ファースト・アルバムにあたる『ブラック・カントリー・スイート』(1957年)をはじめ、『ローカル・カラー』(1958年)、『ヤング・マン・モーズ』(1958年)、『クリーク・バンク』(1958年)、『オータム・ソング』(1959年)、『ランブリン・ウィズ・モーズ』(1961年)というプレスティッジにおける6作に、コロムビアから出た『アイ・ラヴ・ザ・ライフ・アイ・リヴ』(1960年)を加えたオリジナル・アルバム7作の全曲を4枚のCDに詰め込んだリアル・ゴーン・ジャズ編纂による『セヴン・クラシック・アルバムズ』(2015年)(Amazon / Tower)ってやつ。基本的にCD1枚にオリジナル・アルバム2作ずつ、発表順ではなく録音順に収録されていたけれど、『オータム・ソング』だけはCD3から4にまたがっての収録だったりして。ちょっと惜しい感じではあった。

同じ2015年にはエンライトンメント・レコードから『ザ・コンプリート・レコーディングズ1957〜1962:イレヴン・クラシックス・アルバムズ』(Amazon / Tower)という5枚組も出て。こちらは『セヴン・クラシック・アルバムズ』に加えて、コロムビアから出た『トランスフィギュレイション・オヴ・ハイラム・ブラウン』(1960年)全曲と、エピックからのコンピ『モーズ・アリソン・テイクス・トゥ・ザ・ヒルズ』(1962年)に収められた新録音源すべてと、アトランティックからの『アイ・ドント・ウォリー・アバウト・ア・シング』(1962年)と『スウィンギン・マシーン』(1963年)のそれぞれ全曲が加えられていた。こっちのほうがたっぷり楽しめたわけだけれど、収録順がオリジナル・アルバムの発表順じゃなかったりして。こっちもこっちで問題あり、みたいな。

でも、問題はあっても、この辺、特に後者を持っていればわりと簡易に初期、プレスティッジ〜コロムビア在籍期の音源を全部楽しむことができた。まあ、リンクは貼ったものの、どちらも現在、新品での入手は困難になっちゃってるみたいですが…。

で、今回、チェリー・レッド・レコードのサブ・レーベルである“ストロベリー”から出たのが、その後、1962年にアトランティックへ移籍して、さらに1980年代になって同系列のエレクトラへと移った時期までの音源をコンプリートしたCD6枚組だ。収められているのはエンライトンメントからの5枚組にも収められていた『アイ・ドント・ウォリー・アバウト・ア・シング』と『スウィンギン・マシーン』以降、『ザ・ワード・フロム・モーズ』(1964年)、『ワイルド・マン・オン・ザ・ルーズ』(1966年)、『モーズ・アライヴ!』(1966年)、『アイヴ・ビーン・ドゥーイン・サム・シンキン』(1968年)、『…ハロー・ゼア、ユニヴァース』(1970年)、『ウェスタン・マン』(1971年)、『モーズ・イン・ユア・イアー』(1972年)、『ユア・マインド・イズ・オン・ヴァケイション』(1976年)、そしてエレクトラ移籍後の『ミドル・クラス・ホワイト・ボーイ』(1982年)と『レッスンズ・イン・リヴィング』(1983年)まで、ライヴ盤も含む12作。

CD1枚ずつにオリジナル・アルバム2作ずつ、きっちりリリース順に収録されている。再発ディレクターはボブ・フィッシャー。彼によるライナーノーツ付き。レコーディング・データ、パーソネルなども詳細に掲載。エルヴィス・コステロ、ボニー・レイット、ピート・タウンゼント、ジョージィ・フェイム、ヴァン・モリソンらのコメントや、当時の広告、レビュー、記事なども楽しめる。

前述した『ザ・コンプリート・レコーディングズ1957〜1962:イレヴン・クラシックス・アルバムズ』を持っている方が、本作『ザ・コンプリート・アトランティック/エレクトラ・アルバムズ1962-1983』を揃えれば、1987年、ブルーノートへと移籍する前までのアリソンの基本レコーディング音源を一気に、しかもかなりお手軽に、11作+12作からダブっている2作を引いて、実に21作分、とりあえず手元に揃えておけることになるわけだ。

クール。ヒップ。そんな言葉が表わしている本来の感触を知るには絶好のコレクションか、と。

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