Disc Review

If You’re Going to the City: A Tribute to Mose Allison / Various Artists (Fat Possum Records)

イフ・ユーアー・ゴーイング・トゥ・ザ・シティ〜ア・トリビュート・トゥ・モーズ・アリソン/タジ・マハール、エルヴィス・コステロ、ジャクソン・ブラウン、フィオナ・アップル、クリッシー・ハインド、イギー・ポップ、ボニー・レイットほか

ぼくが個人的にモーズ・アリソンの名前を初めて意識したのは、確か1970年。ザ・フーのライヴ・アルバム『ライヴ・アット・リーズ』を聞いたときだ。シングル・ヒットしていた「サマータイム・ブルース」が聞きたくて手に入れたLPだったけれど、そのA面1曲目に「ヤング・マン・ブルース」という曲が入っていて。

いや、といっても、まだブルースの何たるかなどまるで理解できていない昭和45年の中学生だったから(笑)。なんか、歌詞を1行歌うたびにいちいちブレイクして演奏が止まる変な曲だな、くらいにしか最初は思わなかった。この時期、ハードさを一気に増したサウンドばかりが印象に残った。

アナログLPには、のちにCD化されたときに聞くことができるようになった曲紹介MCとかまったく入っていなかったし。ピート・タウンゼントが書いたオリジナル曲なのかなと思ったものだけれど。クレジットをつぶさに眺めてみると、A面に収められた他の収録曲、たとえば前述「サマータイム・ブルース」や「シェイキン・オール・オーヴァー」同様、これもカヴァーで、作者は“M.アリソン”って人だということがわかった。

特に当時のライナーノーツとかにこのM.アリソンに関する情報はなかったけれど、なんとかそれがモーズ・アリソンという人で、1950年代からジャズ〜ブルース・シーンで活躍する米ミシシッピ出身の白人シンガー/ソングライターだということが少しずつわかってきた。

初めてご本人のアルバムを買ったのは、その数年後。ぼくはもう大学生になっていた。高田馬場の中古盤屋さん“タイム”でだったか、ビッグボックス前で臨時に開催されていた輸入盤フェアでだったか、アトランティックから出ていたベスト盤を手に入れた。「ヤング・マン・ブルース」は入っていなかったけれど、全曲かっこよかった。かっこよすぎた。

自ら奏でる独特の渋いピアノを含むジャズ・トリオをバックに、時には哲学的だったり、シニカルだったり、ユーモラスだったりする歌詞をつぶやくように歌う繊細な歌声。クールで、ヒップで、ぶっとんだ。

とともに、この人自身はけっしてビッグ・セールスを記録したアーティストではなかったけれど、その影響力が計り知れないものだったことも知った。ザ・フー/ピート・タウンゼントのみならず、ジョニー・ウィンター、ジョニー・リヴァース、ジョン・ハモンド、ボニー・レイット、マイケル・フランクス、エリック・クラプトン、エルヴィス・コステロ、ブライアン・オーガー、ロバート・パーマー、ヴァン・モリソン、ジョージィ・フェイムなど、アリソンから多くの影響を受けた後輩ミュージシャンはそれこそ無数だ。

アリソンは2016年、89歳で亡くなったけれど。彼の音楽は今なお、頼もしい同輩・後輩たちに受け継がれつつ生き続けている。そんなことを改めて味わわせてくれるトリビュート・アルバムが今日ピックアップした『イフ・ユーアー・ゴーイング・トゥ・ザ・シティ〜ア・トリビュート・トゥ・モーズ・アリソン』だ。

タジ・マハール、ロビー・ファルクス、ジャクソン・ブラウン、フィオナ・アップル、ベン・ハーパー&チャーリー・マッスルホワイト、クリッシー・ハインド、イギー・ポップ、ボニー・レイット、ラウドン・ウェインライトIII、リチャード・トンプソン、ピーター・ケイス、デイヴ&フィル・アルヴィン、フランク・ブラック、エルヴィス・コステロ、そして娘さんのエイミー・モリソンなどが思い思いのやり方でモーズ・アリソンという素晴らしい才能への愛を表明している。この顔ぶれ、ブルース系からインディ・ロック系、パンク系、シンガー・ソングライター系まで、実に幅広いけれど、それら多彩な音楽性がアリソンの音楽にはすべて内包されていたということだ。

さらにフィジカルにはDVDも付いていて。ポール・バーネイがモーズ・アリソン存命中の2005年に制作したBBCドキュメンタリー『エヴァー・シンス・アイ・ストール・ザ・ブルース』を見ることができる。アリソンの世界の再評価、あるいは入門に絶好の企画だと思う。病気に冒されるなど困難な状況に置かれたプロ・ミュージシャンへの資金的支援を行なう“スウィート・リリーフ・ミュージシャン基金”との連動企画です。

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