Disc Review

Jeb Loy / Jeb Loy Nichols (Timmion Records)

ジェブ・ロイ/ジェブ・ロイ・ニコルズ

この1年ほどは、まあ、世の中の大方のイベント同様、無観客・有料配信という形で東京・新宿ロック・カフェLOFTからお届けしているCRT。毎度このブログでもお知らせさせていただいているので、よくこちらにいらしてくださる方には状況などそれなりに伝わっていることと思うのですが。

間もなく正式に告知できることになるはずの7月のCRT、これまた楽しいことになりそうです。このところCRTでは“新宿シティポップ井戸端会議”なるシリーズを続けていて。前々回が“1980年”、前回が“1981年”、それぞれの年の内外音楽シーンを振り返りつつ、いつものMC3人であれこれ語り倒す…という。そういう企画で好評をいただいております。

その流れで次回、7月10日のCRTのテーマは“1982年”。山下達郎『FOR YOU』、大滝・佐野・杉の『ナイアガラ・トライアングルVol.2』、佐野元春『SOMEDAY』、ポール・マッカートニー『タッグ・オブ・ウォー』、マイケル・ジャクソン『スリラー』などが出た充実の1年のことを、またまたCRT流に語り倒すわけですが。

達郎さん、佐野さんなどが話題の中心になるとなれば、われわれMC3人に加えて、もうひとり、そうしたビッグ・アーティストのサポート・ワークでもおなじみ、CRTには欠かせない“ナガシのサハシ”こと佐橋佳幸をゲストに迎えないわけにはいきません。

てことで、今回はサハシも参戦。彼がUGUISSの一員としてメジャー・デビューを飾る前年でもある1983年のことをわいわい語り倒し、かつ弾き倒す、みたいな。そんなCRTになるかと思います。詳細はほどなく発表しますので、ぜひ本ブログ内の“CRT Info”なり、CRTのSNS(Twitter / Facebook)などをチェックしてください。


という業務連絡を終えたところで、今朝のピックアップ・アルバム。ジェブ・ロイ・ニコルズの新作です。

能地祐子が言い出しっぺになって、サハシ、Dr.kyOn、徳武弘文らの強力な後押しも受けながら1998年にスタートしたCRT(Country Rockin’ Trust)。当時、ほとんど語られることもなく虐げられていた1970年代カントリー・ロックの復権を願って、ラスト・ショー、ホーボー・キング・バンド、細野晴臣&コシミハル、鈴木慶一&博文、かまやつひろし、南こうせつ、佐野元春ら豪華な顔ぶれが勢揃いしたコンサートを催したり、複数のレコード会社の協力のもとコンピレーションCDシリーズ“カントリー・ロックの逆襲”をどかっとリリースしたり。いろいろな活動をしてきたのだけれど。

その最初のコンピレーションCDシリーズを編纂したとき、EMI編(東芝EMIがまだあったころだったんだなぁ…)の1曲としてセレクトしたのが、ジェブ・ロイさんの1997年のアルバム『ラヴァーズ・ノット』の収録曲「ダーク・ハロウ」だった。懐しい。そういう意味じゃこの人もサハシ同様、CRTの立ち上げに重要な役割を果たしてくれたひとり、みたいな…(笑)。

シンガー・ソングライターとしてだけでなく、画家として、あるいは小説家として、様々な顔を持ちながら活動する米ワイオミング生まれのアーティスト。ミズーリ、テキサスなどいくつかの州を転々としながら育った。そのころはラジオで聞いたボビー・ウーマック、アル・グリーン、ステイプル・シンガーズ、ジョー・サイモンなど南部ソウルに夢中だったという。

やがてパンク・ムーヴメントに触発され、1979年、ハイスクールを卒業後、ニューヨークのアート・スクールへ。シド・ヴィシャスやネナ・チェリーらとも交友を持っていたそうだ。さらにヒップホップにも刺激を受け、1980年にはラップ・ソングのレコーディングを行なったこともあるという。

1981年にはロンドンへ。当地のアーティスト・コミュニティで自由な感性を育んでいった。自由すぎて、なにかとすぐ旅に出てしまう癖もあるようで、ヨーロッパ放浪中にたどり着いたスペインに腰を落ち着けていた時期もあるらしい。が、その後、ロンドンに戻り、1990年にインディーズからザ・フェロー・トラヴェラーズ名義でアルバムをリリース。カントリーふうのアコースティック・サウンドにダブっぽい低音が絡む刺激的な音作りで評論家を中心に高く評価されたものの、さらに2枚のアルバムをインディーズで制作したところで解散。いよいよソロ・アーティストとして前述『ラヴァーズ・ノット』でソロ・デビューを飾ったという、興味深い経歴の持ち主だ。

以降、すでに10作以上のソロ・アルバムとかコラボ・アルバムとか、あれこれリリースしている。ここ10年ほどはウェールズ在住。2020年には初の長編小説『スザンヌ&ガートルード』も出版して好評を博した。人里離れた環境の中で、音楽を作ったり、文章を書いたり、アート作品を生み出したり、木を植えたり、野菜を育てたりし続けているのだとか。泰然としているなー。うらやましい。

で、その初長編を書き終えた後、ジェブ・ロイさんは、ヴィンテージ・ソウル系の興味深いリリースを連発しているフィンランドの意識的なインディ・レーベル、ティミオン・レコードのもとへ。満を持して新作アルバムをレコーディングした、と。それが本作『ジェブ・ロイ』だ。所属レーベルに関しても放浪癖があるなぁ…(笑)。

でも、ティミオンとの相性は抜群だ。ティミオンのハウス・バンド的存在であるコールド・ダイアモンド&ミンクとのコンビネーションも見事。北欧クラブ・ジャズ・シーンの担い手、ユッカ・エスコラがホーン・アレンジおよびトランペットで、ワンダ・フェリシアがバック・コーラスで、それぞれいいパフォーマンスを提供している。

ちょっとやさぐれ気味のルーズなグルーヴと、アコースティックな手触りに満ちたソウルフルなサウンドと、メロウなメロディと、深みをたたえた歌詞と…。今回もジェブ・ロイ・ニコルズならではの感触にまるごと貫かれた仕上がり。R&B、フォーク、カントリーなどをごった煮にしながら、ザ・バンドや、良き頃のヴァン・モリソン、レイ・ラモンターニュあたりに通じるソウルフルなサウンドを作り上げている。内向的なつぶやき声も文字通りのストーリーテラーならでは。相変わらず不思議な吸引力がある。

けっして激することなく、静かに、しかしこの上なくソウルフルな情感をぼくたちの胸めがけて届けてくれる。傑作セカンド・ソロ『ジャスト・ホワット・タイム・イット・イズ』に入っていた名曲「サマー・ケイム」とかを思い出させてくれるハモンド・オルガンの涼やかな響きも泣ける。

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