Disc Review

Zappa ’88: The Last U.S. Show / Frank Zappa (Zappa Records/UMe)

ザッパ’88:ザ・ラストU.S.ショー/フランク・ザッパ

フランク・ザッパ、アメリカでの最後のコンサート音源、来ました!

1988年USツアー音源。ご存じの通り、11人編成のバンドを率いて行なわれたこのツアーがザッパにとってロック・パフォーマーとして最後のものになってしまったわけで。それだけに過去、『ブロードウェイ・ザ・ハード・ウェイ』(1988年)とか、『ザ・ベスト・バンド(The Best Band You Never Heard in Your Life)』(1991年)とか、『メイク・ア・ジャズ・ノイズ』(1991年)とか、このツアーのライヴ音源で構成された名盤がたくさん出た。もちろんブートも多数。無数。

そこに、さらなる公式リリースが加わったわけだ。今回出たのは、1988年3月25日、ニューヨーク州ユニオンデイルのナッソー・コロシアムでのライヴの模様。『ザ・ベスト・バンド』とか『メイク・ア・ジャズ・ノイズ』とかは複数公演地の音源をコンパイルしたものだったけれど、それに対して本作は基本的に一個所でのライヴ全編がまるっと演奏曲順通りに収められている。もちろん、演奏日によってセットリストがくるくる変わるのはザッパの常だから。今回出たライヴ音源がこのツアーの全貌を体現するものではないのだけれど。やっぱライヴ盤はこういうほうが自然だし、手応えたっぷり。盛り上がる。

冒頭から、ディスク1の12トラック目「ソファー」〜チェイサー的に演奏される13トラック目「ワン・マン、ワン・ヴォート」(大統領選のまっただ中だったこともあり、ザッパはコンサートで有権者登録キャンペーンも行なっていた)までがセット1。チャド・ワッカーマンへのバースデイ・メッセージMCに導かれて始まるディスク1の15トラック目「パッカード・グース」以降、ディスク2の6トラック目「ピーチズ・アン・リガリア」までがセット2。「天国への階段(Stairway To Heaven)」「アイ・アム・ザ・ウォーラス」「ウィッピング・ポスト」というカヴァー3連発がアンコール1。で、さらなるカヴァー「ボレロ」と「アメリカ・ザ・ビューティフル」がアンコール2。

ただ、アンコール1のうち、「天国への階段」と「ウィッピング・ポスト」は別日の音源が使われている。「天国…」が1988年3月23日のメリーランド公演、「ウィッピング…」が1988年3月16日のロードアイランド音源。この2曲って、確かナッソー・コロシアムではドウィージル・ザッパがゲスト参加していたはずなのだけれど、そういう関係もあって差し替えられたのかな。

注目のトラックは、“テキサス・モーテル・メドレー”というタイトルでもおなじみ、「ノルウェーの森(Norwegian Wood)」「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」というビートルズ・ナンバーのカヴァーか。歌詞を思いきり変えて、テレビ伝道師のジミー・スワガートによる不倫・買春スキャンダルを毒気たっぷりに糾弾してみせる。

「ジーザス・シンクス・ユーアー・ア・ジャーク」と「ホエン・ザ・ライズ・ソー・ビッグ」はこのツアーのために作られた新曲。個人的には、地味ではあるけれど、このツアーでよく取り上げられていた“ルーベン&ザ・ジェッツ”もの「ラヴ・オヴ・マイ・ライフ」の収録がうれしい限り。『ティンゼル・タウン・リベリオン』とか『オン・ステージVol.4(You Can't Do That On Stage Anymore Vol.4)』とかで聞けるヴァージョンより好きかも。

演奏は、今さら言うまでもなく、とにかくすごい。バンドも最強。メンバーはザッパ(ギター、シンクラヴィア、ヴォーカル)の他、“あなたの曲ならなんでも弾けます!”と強力アピールして腕尽くで加入したという若きマイク・ケネリー(ギター、シンセ、ヴォーカル)をはじめ、アイク・ウィリス(ギター、シンセ、ヴォーカル)、スコット・チュニス(ベース)、チャド・ワッカーマン(ドラム)、エド・マン(ヴィブラフォン、マリンバ)、ロバート・マーティン(キーボード)。そこにブルース・ファウラーら5管ホーン・セクションが加わる。

前1987年から1988年にかけて4カ月リハーサル。なんでも数百曲のレパートリーが用意されていて、メンバーはライヴ本番中でもザッパから指示があれば即座に別アレンジに対応できるよう、みっちり訓練されたのだとか。すげー。話、ちょっと盛ってるのかなとも思っていたけれど、本作の演奏をこうやって目の当たりにすると、いやいや、本当にそのくらいハードなリハを繰り返したのかも…と思えてくる。

1988年2月から3月までニューヨーク、ワシントンDC、フィラデルフィア、ボストン、デトロイトなどアメリカ東部を中心にツアー。で、本作に収められたナッソー・コロシアムでのコンサートの後、4月から渡欧してフランス、ベルギー、ドイツ、イギリス、スペイン、オランダ、イタリア、北欧各国などを回ったのだけれど。アメリカに戻って南部、中西部、西部を回る前にメンバー間の確執が限界を超えてバンドが空中分解。以降のツアー・スケジュールはすべてキャンセルになってしまった。日本に来るとも噂されていたのに…。

ザッパはこの翌々年、1990年に癌を宣告されてツアー活動から離脱。結果、これが最後のツアーとなってしまった。そういう意味でも本作は本当に貴重な記録だ。

ザッパ財団がオーソライズ。アーメット・ザッパと、ザッパ・アーカイヴ管理人のジョー・トラヴァースがプロデュース。24チャンネルのマルチ・トラック・レコーダー2台をシンクさせた48トラック録音からクレイグ・パーカー・アダムズが去年新たにミックス。やっぱオフィシャルはいい。音がいいもん。ぼくが持っている1988年もののブートとか、音がいいと言われているものでもオーディエンス録音のカセット・マスターだったり、曲ごとにフェイドイン〜フェイドアウトになっていたり、それだとやっぱりわびしいし、ね。

もちろん、他の公演地での音源も絶対にマルチ回して全貌が記録されているはずだから、今後もどんどん出してもらいたいものです。

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