Disc Review

A Jazz Celebration of the Allman Brothers Band / Big Band of Brothers (New West)

ア・ジャズ・セレブレーション・オヴ・ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド/ビッグ・バンド・オヴ・ブラザーズ

活動歴が長いバンド、あるいはメンバーチェンジが激しかったバンドの話で誰かと盛り上がろうとする際、どの時期が好きかを先に言わないと話がわやくちゃになってしまうことがある。

たとえばドゥービー・ブラザーズとか、フリートウッド・マックとか。時期によって、全然別のバンドみたいになっちゃった連中の場合。いつ、誰が、何を歌っていたころのドゥービーが好き、とか。ピーター・グリーンのマックなのか、ダニー・カーワンのマックなのか、ボブ・ウェルチのマックなのか、バッキンガム&ニックスのマックなのか、とか。ちゃんと特定しないと始まらない。

ローリング・ストーンズなんかにもそういう感じはあるし、ベンチャーズも実はそう。バンドではないものの、エリック・クラプトンとかにもそういう傾向があるかな。あと、デヴィッド・ボウイとか、ボブ・ディランとかも…。

そして、オールマン・ブラザーズ・バンドだ。この人たちもちょっとややこしい。活動時期によって、微妙にその音楽性に違いがある。どの時期のオールマンズが好きか、どのアルバムでのオールマンズ・サウンドが好きか…熱心なファンの間ではいつもそんな論議が繰り返されている。

ヒットチャートの戦績など一般的な人気で言えば、ブルージーな持ち味をたたえた最強のリード・ギタリスト、デュエイン・オールマンをオートバイ事故で失った後、もうひとりのギタリスト、ディッキー・ベッツのカントリー感覚を押し出しつつ大当たりをとった1973年のアルバム『ブラザーズ・アンド・シスターズ』以降のサウンドこそがオールマンズってことになるのかもしれない。

が、音楽的に言うと、やはりそれよりも前。セールス的にはまだまだだったとはいえ、デュエインの太く、深いスライド・ギター・プレイを全面に押し立てていたころのオールマンズこそがオールマンズだ。実弟グレッグ・オールマンのゴスペルライクな歌声やソングライティング感覚も本格的に開花した時期。

アルバムで言えば1969年の『オールマン・ブラザーズ・バンド』、1970年の『アイドルワイルド・サウス』、1971年の必殺ライヴ盤『フィルモア・イースト・ライヴ(At Fillmore East)』、そしてデュエインが他界前、途中まで録音に参加していた1972年の『イート・ア・ピーチ』。ツイン・リード・ギター、ツイン・ドラムによる最強のラインアップを誇る時期こそがオールマン・ブラザーズ・バンドの黄金期だ。

と、そんな時期のオールマンズのレパートリーから8曲をピックアップして、なんとビッグ・バンド・ジャズにアレンジしてリメイクするという企画盤が出た。それが今日紹介する『ア・ジャズ・セレブレーション・オヴ・ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド』。プロデュースを手がけたのはアラバマ大学で教鞭もとるマーク・ランター。彼のドラムを中心に、トロンボーン×4、トランペット×4、サックス×6の管楽器セクション、ピアノ、ギター、ベース、パーカッション…という鉄壁のビッグ・バンド編成で初期オールマンズの代表曲を躍動的に聞かせてくれる。

オールマンズの場合、サザン・ロックと呼ばれる米南部本拠のアーティストだけに、そのルーツっぽい面に注目が集まりがちなのだけれど。たとえば同じく米南部に眠る様々な音楽的財産に着目して人気を博したザ・バンドあたりと比べると、志向性がちょっと違うというか。カナダで結成されたザ・バンドの場合、そういう“外”からの眼差しをもって南部音楽へと回帰しててみせたわけだけれど。対して、オールマンズはもともと南部人の集まり。南部の音楽性はすでに身体にしたためいる。それが当たり前。そこで育んだブルース感覚やゴスペル感覚を下敷きに、むしろ他の音楽性、ジャズやR&B、時にはクラシックなどに触手を伸ばす形で独自のサウンドを構築してきた。

そんな姿勢のもとで醸成されたオールマンズ・サウンドだけに、今回のような企画、実はけっこう相性がいいみたい。おかげで、狙いばかりが先走りする企画倒れ盤にならずにすんだ。というか、むしろかなりかっこいい仕上がり。オールマン・ブラザーズ・バンド本体の持ち味を再評価するうえでもいい刺激になりそうな1枚だ。

冒頭2曲、「ステイツボロ・ブルース」と「ドント・ウォント・ユー・ノー・モア」がオールマンズが取り上げたカヴァーもの(それぞれブラインド・ウィリー・マクテルとスペンサー・デイヴィス・グループがオリジナル)。あとはグレッグやディッキーらメンバーの自作曲だ。

曲によってはヴォーカル入り。ルイジアナ出身のマーク・ブロサードが「ステイツボロ・ブルース」と「ウィッピン・ポスト」で、テキサス出身のルーシー・フォスターが「イッツ・ノット・マイ・クロス・トゥ・ベア」と「ドント・キープ・ミー・ワンダリング」で、それぞれソウルフルな歌声を聞かせている。

もちろんオールマンズものだけに、ギターも大活躍していて。マット・ケイシー、トム・ウルフらががんばっているのだけれど。いちばんごきげんなのが「スタンド・バック」にフィーチャーされているジャック・ピアソン。デレク・トラックスが加入する前任としてオールマン・ブラザーズ・バンドに参加していたこともあるピアソンだけに、粘っこいスライドが最高だ。

とはいえ、本作の基本的な聞きどころはゲストではなく主役のビッグ・バンドのほう。みんなけっこう力の入ったスリリングなソロを聞かせている。ゲスト扱いではあるけれど、ワイクリフ・ゴードンが「ドント・ウォント・ユー・ノー・モア」の後半でコンパクトに聞かせるソプラノ・トロボーン・ソロもえぐい。

デュエインとディッキーのツイン・リード・ギターのジャジーでエキゾチックなアンサンブルを継承する「エリザベス・リードの追憶(In Memory of Elizabeth Reed)」とか、12分に及ぶ「レ・ブレル・イン・Aマイナー」とか、このあたりのインストものもロック、ブルース、ジャズなどの要素がわりとナチュラルに融合していて。楽しい。

あれ、どっちもディッキー・ベッツの曲だ。面白いな。確かに、この時期のディッキーの作風は、まだカントリーっぽさが薄めで、モードっぽい感じが強かったから、今回の企画には合っているのかも。もちろんグレッグ・オールマン作品はもともとブルージーかつジャジーなので、ばっちりだし。

なんか、こんな言い方したら失礼だけど、ごきげんな拾いものをした気分です。続編も期待!

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