Disc Review

The Fifth Dandelion / Paul Molloy (Spring Heeled Records)

ザ・フィフス・ダンデライオン/ポール・モロイ

ところで、この人の名前なんだけど。日本のサイトをあれこれ見ていると、いちおうカタカナで“ポール・モウリー”と表記されている。なので、ぼくもそう書いたりしていたんだけど。

ただ、綴りを見る限り、どう考えても“モウリー”じゃなく“モロイ”あるいは“モローイ”じゃないか、と。ずっと疑問です。“Molloy”だもの。こう綴って“モウリー”って読むとか、そういう特殊な例? おじさん、この世代の音楽家事情にまったく詳しくないので、よくわかりません(笑)。とりあえず今回はなんだか落ち着かないので、字面に合わせて“モロイ”と表記しておきます。間違ってるってことであれば、ぜひご指摘ください。ソッコー直しますので。

最近、洋楽系の記事だと曲名とか人名をアルファベット表記のままにするのが一般的になったみたいで。そうしたほうがいいのかな。確かにそれだったらピーター・バラカンさんに怒られることもなさそうだし(笑)。ぼくも、たとえばApple MusicとかSpotifyとかのタグは全部欧文のままにしてほしいと心底願っているクチだけれど。ただ、記事とかに関しては、ね。世代的にもカタカナのほうが落ち着くなぁ…。縦書き文化に縛られてるんですかね。

まあ、それはともあれ。件のポール・モロイさん。元ザ・ズートンズのギタリストで。ザ・コーラルのイアン・スケリーとサイケ・ポップ・ユニット“サーペント・パワー”を組んで活動したりもしている。その流れで、しばし活動休止していたザ・コーラルが再始動する際、新たに正式メンバーとして加入。で、今回、8月末にめでたく初ソロ・アルバム『ザ・フィフス・ダンデライオン』をリリースした、と。

先日、イアン・スケリーのソロ・アルバムを紹介したところ、本ブログを読んでくださったLooking Glassさんから、“ポール・モウリーのソロもとても良かったです。ぜひ取り上げてください! このまま日本では誰も話題にしないのは勿体無い佳作だと思います!”という熱いメッセージをツイッターのほうでいただいて。

確かに、ぼくも7月ごろ、アルバムからの先行フィーチャード・トラック「ダンガリー・デイ」に思いきりハマっていた日々があったので。熱いメッセージの後押しもいただきつつ、ピックアップさせていただくことにしました。ザ・コーラルが放っている、安易に時流に流されないエヴァーグリーンな感触の秘密が、こうして各メンバーのソロ・アルバムを聞くことで少しずつ解きほぐされていくようで、なんだか面白い。

というわけで、アルバム・タイトルからして思いきりレイト・シックスティーズ風味全開の1枚。イアン・スケリーが全曲でドラムを担当。ちょこっとコーラスとかパーカッションとかウッドベースとかで他の人の手を借りているほかは、ヴォーカルもコーラスもギターもベースもキーボードもソングライティングもアレンジもプロデュースもエンジニアリングもジャケット・デザインも全部ポールさんひとりでこなしている。

オープニングは本編への予告編のような小曲「ファンタスマゴリア」。なんとも思わせぶりなトゥワンギー・ギターに導かれつつドリーミーに幕を開けて。で、突然、目覚まし時計のベルで覚醒させられつつ、先述した「ダンガリー・デイ」へ。チャン・チャン・チャン・チャン…と四分音符で跳ねる60年代サンシャイン・ポップっぽいシャッフル・チューン。こういうのに、ぼくは無条件に弱いのだ。ビーチ・ボーイズというか、サジタリアスというか、スモール・フェイセズというか、キースというか、ホーリー・マッケレルというか…。もう、たまりません。

続く「マイ・マドンナ」は中期ビートルズっぽいピアノやアナログ・シンセっぽい響きなども巧みに盛り込まれたポップ・フォーク調。“シーズ・ソー・ファイン、イエス、シーズ・ソー・ライト”と、まあ、なんてことない歌詞を繰り返す多重コーラスが、しかしなんてことないがゆえにほんわかしみる。

「ザ・リターン・オヴ・チェリー・パイ」は「ダンガリー・デイ」同様、チャン・チャン・チャン・チャン…の跳ねものサンシャイン・ポップ。ただ、こちらはマイナー・キー基調。てことで、どこかタートルズとかビリー・ジョー・ロイヤルっぽい感触か。「ヴィレッジ・グリーン」エラのキンクスっぽいニュアンスもあって頬が緩む。

『トワイライト・ゾーン』というかマーケッツの「アウト・オヴ・リミッツ」というか、そういうニュアンスのリフも顔をのぞかせる「アンドロメダ」と、次のワルツ「フロ・ヴィーナス・トゥ・ペイル・ブルー」は懐かしのスペース・ポップもの。次の「ザ・スワンプ」はまたひときわノルタルジックなマイナーもの。ヴォードヴィル調と中近東調との間をテキトーに行き来する感じが、なんともいかがわしく、無責任っぽくて面白い。

次も引き続きちょいエキゾチックな哀愁漂う「ヘイ・ホー・ジャック・オヴ・ダイアモンズ」。テンポ良くスタートして、やがて妖しいワルツへとなだれ込んで、ジョン・レイトンっぽいというか、ジョー・ミークっぽいコーダへとドラマチックに突入していく、みたいな。不思議なプログレ・サイケ・ポップだ。

「サラダ・デイズ」は、またまたチャン・チャン・チャン・チャン…のサンシャイン・ポップ系跳ねもの。♪パ・ラ・パッパーっぽいコーラスも入るタイプ。一転、トレモロ・ギターがクールでミステリアスなムードを演出する「ブリング・イン・ザ・ナイト」を経て、ウェールズ北岸を孤独に照らす灯台のことを歌った「タラクル・ライトハウス」でアルバムは幕。

以前、紹介したエクスプローラーズ・クラブの新作とか、10月にラフ・トレードが本格配給することになっているハロー・フォーエヴァーの世界デビュー盤とか、先述イアン・スケリーの盤とか、そのあたりの近作ともども、21世紀というパラレル・ワールドから1960年代サンシャイン・ポップを幻視しつつあの手この手で再構築したうれしい1枚という感じです。イアン・スケリーの盤同様、フィジカルはどうやらザ・コーラルのサイト上のオフィシャル・ストアで売っているアナログLPのみみたい。CDはなさそう。あとはストリーミングで聞くか、あるいはダウンロードで買うか…。どうしようかなー。

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