Disc Review

Hot House: The Complete Jazz at Massey Hall Recordings / Charlie Parker, Dizzy Gillespie, Charles Mingus, Max Roach, Bud Powell (Craft Recordings)

ホット・ハウス:ザ・コンプリート・ジャズ・アット・マッセイ・ホール・レコーディングズ/チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、チャールズ・ミンガス、マックス・ローチ、バド・パウエル

以前、チャールズ・ミンガスの『ミンガス・アット・カーネギー・ホール』を取り上げたときにも書いたのだけれど。

ぼくはチャーリー・パーカーという人が大好きで。1972年か73年か、高校生時代にFMで接したパーカーの圧倒的な“熱”みたいなものにやられて。パーカーすげえな、ビ・バップすげえな、とすっかりハマって。で、1974年。ここからは2年くらい前に書いた、そのミンガスのときの引用になりますが——

大学に合格したごほうびに何かレコードを買ってあげる、何でもいいよ、と親から言われて。そうか、何でもいいのか、ならばこういうときでないと手が出せなそうなボックス・セットにしよう、と(笑)。当時、高価すぎて高校生の小遣いではとてもまかないきれなかったチャーリー・パーカーの『オン・ダイヤル』LP7枚組ボックスを買ってもらうことにした。

で、その箱を聞きまくって。パーカーの大ファンになって。彼の他のアルバムもいろいろ集め始めて…。

そんな中で出くわしたのが、かの名盤『ジャズ・アット・マッセイ・ホール』。ご存じ、パーカー、ディジー・ガレスピー、バド・パウエル、マックス・ローチ、そしてチャールズ・ミンガスという顔ぶれの超絶クインテットが1953年にトロントのマッセイ・ホールで録音したライヴ盤だった。

ぼくが初めて手に入れた段階ですでに20年以上前の演奏だったわけだけれど。かっこよかった。もちろん録音当時すでに大物だったパーカーもガレスピーも素晴らしかったし、新進気鋭だったパウエルも、クリフォード・ブラウンと黄金のタッグを組む直前のローチもごきげんだったし。

でも、個人的にはミンガスにやられた。圧倒された。(中略)あのライヴの録音当時はやはりまだばりばりの若手で。なのに、パーカーとガレスピーというとてつもないツー・トップに臆することなく堂々とぶっとく堅実なグルーヴをでかい音で繰り出していて。やばかった。

後で知ったことだけれど、なんでもミンガスとローチはライヴ録音したテープをニューヨークへと持ち帰り、後からベースとドラムのリズム・パートやソロ・パートを録り直したらしく。そのおかげだったのかもしれないけれど。それにしたって、ベーシストとしての格というか、スケールというか、そういうものがまるで違うな、と。思い知ったものだ。チャールズ・ミンガス、すげえな、と。

で、この『…マッセイ・ホール』も何度か買い直した。最初はもちろん普通にデビュー・レコードから1956年に12インチLPとして出た全6曲入りフォーマットの『ザ・クインテット:ジャズ・アット・マッセイ・ホール』ってやつを聞いていたのだけれど。

これ、もともとはデビュー・レコードから10インチLP3枚でリリースされたものがオリジナル。『Vol.1』がザ・クインテットの前半、『Vol.2』が当夜パーカーとガレスピー抜きで披露されたバド・パウエル・トリオの演奏が6曲、『Vol.3』がザ・クインテットの後半…という形で出たものだった。その10インチLPでの復刻セットってのが7〜8年前に出たときも買っちゃったっけ。

パウエル・トリオのほうの盤もいろいろボーナスを追加してプレスティッジ/ファンタジーから再発されたりしていて。ザ・クインテットの音源と抱き合わせにした『ザ・グレイテスト・ジャズ・コンサート・エヴァー』ってLP2枚組もあったなぁ。

いちばん興味深かったのは2003年にチャーリー・パーカー名義で出た『コンプリート・ジャズ・アット・マッセイ・ホール』ってヨーロッパ盤CD。これはザ・クインテットによるセットの途中にパウエル・トリオの音源もぶちこんだ盤で。いちばんの売りは、ミンガスがベースをダビングする前の音源が収められていたこと。

まあ、とにかくいろいろ散財してきたわけですが(笑)。またひとつ。今度はクラフト・レコーディングズに散財させられますよ。オリジナル・リリースからちょうど70周年! ということを祝しての新たな拡張エディションの登場だ。

今回はCD2枚組。ディスク1にはミンガスがダビングする前のザ・クインテットのオリジナル音源を、LP版『ジャズ・アット・マッセイ・ホール』の曲順で並べて、さらにいろいろボーナス・トラックとかで世に出たことがあるマックス・ローチのソロ・ドラム・パフォーマンスと、パウエル・トリオの演奏6曲を収めて。ディスク2のほうにはミンガスのダビング入りオフィシャル・リリース版『ジャズ・アット・マッセイ・ホール』をそのまま入れて。

つまり、うれしいうれしい全部乗せ! ザ・クインテットのオリジナル音源、ローチのソロ・ドラム+パウエル・トリオ、ミンガスのダビング入りオフィシャル・リリース…と3つに分けた限定LP3枚組もあります。

2003年盤に比べて音質もさらに向上していて。うれしい限り。確かにオリジナル音源のミックス・バランスに関してはミンガスがダビングしたくなる気持ちもわかるくらいベースの音量レベルが低いのだけれど。でも、そのぶんパーカー、ガレスピー、パウエルらの音がいきいき、キラキラ、太く輝いていて。ミンガス・ファン的な耳で接すると物足りないかもしれない反面、パーカー・ファンとしては超ごきげん! みたいな。

時期的にはビ・パップもそろそろ頭打ち…みたいなころだし。加えて、これだけのメンツが集まっていたにもかかわらず、当夜はボクシングのものすごい試合があったせいで観客もやけに少なかったようだし。舞台裏ではパーカーとガレスピーがもめていたとも伝えられているし。ガレスピーはむしろテレビでボクシング見たがっていたらしいし(笑)。パウエルは病み上がりだし…。

でも、いったんステージに上がれば、5人の名手は互いに刺激し合いながら凄まじい勢いで丁々発止。ものすごい。アガる。明らかに打ち合わせ不足…みたいな局面もあるにはあるものの、それがどうした的な勢いが痛快。片面に収められる時間が短かったSP時代から長尺演奏も記録できるLP時代に入った恩恵ってのも実感します。

70年前か。ぼくもまだ生まれてないころの熱演の記録。すごいね。こういう時代のジャズ・クラブにも身を置いてみたかったです。

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