Disc Review

Weather / Huey Lewis & The News (New Hulex/BMG)

ウェザー/ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース

2018年以降、メニエール病による聴覚障害が悪化して音楽活動から身を引いていたヒューイ・ルイス。彼自身が、これが最後のアルバムになるかも…と語る新作が出た。もちろん、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース名義。往年のR&Bヒットのカヴァー・アルバムとして2010年にリリースされた『ソウルズヴィル』から10年ぶり。オリジナル曲中心のアルバムとしては2001年にリリースされた『プランB』以来19年ぶり。

ヒューイの体調ゆえ、全7曲、30分弱というミニ・アルバム的な1枚ではあるけれど。問題なし。最高。彼を苦しめ続ける病魔も、彼ならではのタフでソウルフルな歌心と、魅力的にしゃがれた歌声と、切れ味鋭い、熱く痛快な躍動とを、少なくとも今のところは奪えずにいるということだ。がんばれ、ヒューイ! ありがとう、ヒューイ!

冒頭、ブリージーで、メロウで、ソウルフルなミディアム・チューン「ホワイル・ウィーアー・ヤング」でアルバムは幕を開ける。“やるべきことは若いうちにやっておいたほうがいいぜ”的なメッセージを明るく託した1曲。“人生は短い/チャンスは活かせ”という歌詞が、今年70歳を迎えるヒューイの現状を重ねるとじんわり沁みる。

続く「ハー・ラヴ・イズ・キリン・ミー」は、もう、特大ヒット・アルバム『スポーツ』のころを彷彿させるごきげんなアップビート・ロックンロール。これ聞いて、なんだよ、昔の自分たちのコピーじゃないか、とか文句を言う辛口さんたちがいるかもしれない。が、百歩譲って、たとえそうだったとして何がいけないのか。ヒューイ&ザ・ニュースは自分たちが何を成し遂げてきたのか、そしてその成功を支えたファンたちが今なお何を聞きたがっているのか、よーく知り抜いているってことなのだ。

「アイ・アム・ゼア・フォー・ユー」はソウルフルなギターとオルガン、そしてとびきりウォームなハーモニーが印象的な切ないミディアム曲。“友達が必要だったら/いつだって、いつまでだって/ぼくが君のためにそばにいてあげる/君がそうしてくれているんだから/ぼくもそうしてあげる”というストレートなメッセージがたまらない。

「ハリー・バック・ベイビー」はホーン・セクションを伴ったファンキーなシャッフルR&B。“昔は一夜限りのギグ、ワン・ナイト・スタンドばかり追い求めていた/あれは最高だった/そして、今また思うようになったんだ/あの感じをもう一度味わいたい、と…”。これまたぐっとくる。

「リマンド・ミー・ホワイ・アイ・ラヴ・ユー・アゲイン」は、かつてタワー・オヴ・パワー・ホーン・セクションと組んであれこれやっていたころの豪快な味を思い出させてくれる切れ味鋭い1曲。「プリティ・ガール・エヴリホエア」はユージン・チャーチ、1958年のヒットR&Bのカヴァー。どっちもヒューイ&ザ・ニュースのアルバムにはなくてはならない路線だ。

で、ラスト。「ワン・オヴ・ザ・ボーイズ」。もともとはデイヴ・コブから依頼されて、ウィリー・ネルソンのために書いた曲だとか。というわけで、これ、真っ向からのカントリーなのだ。もしかしたら最後の1枚になってしまうかもしれないアルバムの締めをカントリーで! 素晴らしい! それでこそ真のロックンローラー。アスリープ・アット・ザ・ホイールとのコラボレーションなども強力だったヒューイだけに、納得のクロージング・ナンバーだ。

子供のころディクシーランド・ミュージックを演奏しているバンドを初めて見て、自分も音楽をやりたいと即座に決めて、友達とホンキー・トンク・バンドを組んで…という、ちょっと自伝的な内容の1曲。“仲間と演奏し続けるんだ/音楽が終わるまで”というリフレインが、また泣ける。“音楽が終わるまで”というのが、今演奏しているこの曲が終わるまで、という意味なのか、文字通り、彼にとっての音楽が終わるまで、という意味なのか…。やばい。

ザ・ニュースを結成する前、ザ・クローヴァーというバンドで一緒にやっていたジョン・マクフィーがゲスト参加してペダル・スティールを演奏しているのもいい。アルバム全編のミックスを『ピクチャー・ジス』『スポーツ』『フォア』といった1980年代の傑作群で完璧なタッグを組んでいたボブ・クリアマウンテンが手がけているのもうれしい。

米ビルボード紙のインタビューを読む限り、ヒューイの体調はとりあえず今のところ悪くないようだ。“耳が聞こえなくなったとしても死んだわけじゃない。人生の明るい部分に目を向けて、何かクリエイティヴなことをやり続けなきゃいけないんだ。一日中、釣りをしながら過ごすなんてできないだろ?”と、話していた。そして、この新作アルバムを出してくれた。さらに『ザ・ハート・オヴ・ロック&ロール』と題されたミュージカルや、ドキュメンタリー・フィルムなども計画中だとか。もろもろ落ち着いたら自伝も書く予定らしい。

ロックンロールとR&Bに忠誠を誓う痛快ロードハウス・バンドの最高峰、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース。疾走感、明快さ、ガッツ、ユーモア、いかにもバンドらしいタイトさ、思いきりのよさ、タフさ…。ぼくがロックンロールに求める魅力のほぼすべてを網羅した彼らの音楽は、永遠に不滅です。

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