Disc Review

That’s Life / Willie Nelson (Sony Legacy)

ザッツ・ライフ/ウィリー・ネルソン

この人の新作が出ると、なんだかんだ、本ブログでもよく取り上げていて。その都度、どうしても同じようなことを繰り返し書いてしまうわけですが。

ウィリー・ネルソン。とにかくこの人の歌心というか、節回しというか、メロディに対する切り込み方というか、今さらぼくごときが言うまでもなく、まじ絶品で。自身が書いたオリジナル曲ではもちろん、カヴァー曲でも、一声聞けば、もう間違いなく誰もがわかる“ウィリー節”を炸裂させて。しかし、それでいて原曲の魅力も損なわないという、ある種の離れ業をやってのける。

個人的にいちばん印象に残っているのは、1996年、ビーチ・ボーイズがリリースしたアルバム『スターズ&ストライプス Vol. 1』でのこと。このアルバム、ビーチ・ボーイズの往年の名曲をナッシュヴィル系の腕ききセッション・ミュージシャンが演奏し、トビー・キース、リッキー・ヴァン・シェルトン、ロリー・モーガンらカントリー界の人気者が歌い、ビーチ・ボーイズ自らがバック・コーラスで支えたという1枚。

ウィリー・ネルソンも参加していて。必殺のビーチ・ボーイズ・バラード「太陽あびて(The Warmth of the Sun)」のヴォーカルをつとめていた。これがね。もう素晴らしくて。基本的なアレンジはビーチ・ボーイズのオリジナル・ヴァージョンそのままなのだけれど。ところどころにカントリーっぽいハーモニカやフィドルもあしらいつつ。で、ビーチ・ボーイズのコーラスを大きくフィーチャーしたイントロに続いてウィリーが歌い出す。

“What good is the dawn…”

この一瞬、この一声で、もうぶっとんだ。レコーディング風景を記録したドキュメンタリー映像でも、この瞬間、コントロール・ルームに勢揃いしていたビーチ・ボーイズのメンバー全員が立ち上がり、レコーディング・ブースのマイクの前に立つウィリーに惜しみないスタンディング・オヴェイションを送っていたっけ。

曲の魅力はそのまま、何ひとつ壊さず、しかしウィリー・ネルソンにしか出せないニュアンスを最大限に発揮していて。すごいパフォーマーだなと改めて思い知った。歌に託された物語を聞き手へと深く豊かに伝える語り部として、ストーリーテラーとして、ある種最強。肩を並べるのはもう、ほんと、フランク・シナトラくらいしかいないんじゃないか、と。

というわけで、そんなウィリー翁が、敬愛するフランク・シナトラのレパートリーとしておなじみのスタンダード・ナンバー、いわゆるグレイト・アメリカン・ソングブック系の名曲を取り上げたカヴァー・プロジェクト第2弾アルバム『ザッツ・ライフ』が出ました。第1弾にあたる2018年の『マイ・ウェイ』同様、今回ももちろん素晴らしい仕上がり。

プロデュースを手がけているのは2012年にウィリー翁がレガシー・レコードへと移籍して以降、ほぼすべてのアルバムに関わってきたバディ・キャノンと、こちらも長年タッグを組んできたベテラン・キーボード・プレイヤー、マット・ローリングス。ベーシックなレコーディングが行なわれたのは、かつてフランク・シナトラが本拠にしていたロサンゼルスの名門キャピトル・スタジオ。エンジニアリングを担当したのは、現在、キャピトル・スタジオにおけるレコーディング作業もろもろを取り仕切っている名匠、アル・シュミットだ。

ジョージ・ガーシュウィン作「ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット」、ジュール・スタイン作「ジャスト・イン・タイム」、コール・ポーター作「あなたはしっかり私のもの(I've Got You Under My Skin)」といった名ソングライターの作品から、デイヴ・リー・ロスの強烈なカヴァーもあったアルバム表題曲「ザッツ・ライフ」、シナトラのブルー・バラードの最高傑作「イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ・オブ・ザ・モーニング」など、選曲もナイス。『マイ・ウェイ』ではノラ・ジョーンズとデュエットしていたけれど、今回はジェローム・カーン作「アイ・ウォウント・ダンス」でダイアナ・クラールとのデュエットも聞かせている。

「ラーニン・ザ・ブルース」や「ロンサム・ロード」といったアーシーでブルージーなナンバーの歌い手としてはむしろウィリーこそが適役みたいな感も。盟友ミッキー・ラファエルのハーモニカや、ポール・フランクリンのジャジーなスティール・ギターも随所でいい働きをしている。もちろんウィリーの愛器“トリガー”こと、おんぼろなマーティンN-20ナイロン弦ギターも相変わらずいい音で鳴ってます。

個人的には「オールド・フォークス」「ベッドで煙草はよくないわ(Don't Smoke in Bed)」などの作曲者としておなじみのウィラード・ロビンソンが、作詞家のラリー・コンリーと組んで1929年に書いた「ア・コテージ・フォー・セール」がいちばんぐっときたかな。フランク・シナトラは1959年、ゴードン・ジェンキンスの編曲/指揮による傑作ブルー・バラード・アルバム『ノー・ワン・ケアズ』でカヴァーしていて、それも必殺のパフォーマンスだったけれど。ウィリー・ヴァージョンもいい。

二人で過ごした日々を経て、別れがやってきて、かつて暮らした夢のお城のような家も今では荒れ放題。でも、家の鍵は昔と同じ郵便箱の中に置かれたまま。そして、ドアには“この家、売ります”のメッセージ…。そんな寂寥感に貫かれた曲を、ウィリー翁は淡々と綴ってみせる。しびれる。クリスティン・ウィルキンソン編曲/指揮によるふくよかなストリングス・アンサンブルも素晴らしい。

光栄にもこのアルバムの国内盤(Amazon / Tower)のライナーノーツを書かせていただいていて。おかげで、去年の暮れくらいからいち早く音源に接することができていたのだけれど、以来、飽きることなく聞きまくってます。しびれまくってます。シナトラの『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』にインスパイアされたアルバム・ジャケットも憎いっすね。

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