Disc Review

MOSS / Maya Hawke (Mom+Pop Music)

モス/マヤ・ホーク

2020年、本ブログでも初フル・アルバム『ブラッシュ』を紹介したマヤ・ホーク。そのエントリーでも触れた通り、みんな大好き『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でロビンを演じている女優さんで。登場キャラの中ではぼくも断トツお気に入りの存在なのだけれど。

2年のブランクを経て、待望のセカンド・アルバム、出ました。前作はお父さん、イーサン・ホークの友だちだというジェシー・ハリスが全面的にバックアップ。代わって今回は、テキサス州オースティンを本拠にするバンド、オッカーヴィル・リヴァー人脈でもあるシンガー・ソングライター、ベンジャミン・ラザー・デイヴィスがマヤさんと共同でプロデュースしている。

ラザー・デイヴィスに加えて、フィービー・ブリッジャーズ周辺での活動でおなじみクリスチャン・リー・ハトソンや、ブルックリン本拠のギタリスト、ウィル・グレーフェも曲作りに協力。ラザー・デイヴィスとグレーフェは、2019年、マヤさんがジェシー・ハリスとともに来日した際、ジェシー・ハリス・バンドのメンバーだった顔ぶれだ。あの来日、まだ経験不足だったマヤさんにとってはあまりいい思い出ではないみたいだけど、いずれにせよそんな中でメンバーとの結束はより固まり、気心知れた音楽仲間になれたってことだろう。作詞はたぶん今回も全曲マヤさん自身が手がけているようで、全13曲中6曲がハトソン、3曲がラザー・デイヴィス、4曲がグレーフェとのそれぞれ共作曲だ。

テイラー・スウィフトやキャロライン・ショウ、シャロン・ヴァン・エッテン、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフらのエンジニアリングやプロデュースで知られるジョナサン・ロウも制作に名を連ねている。

前作では太めのギター・リフに導かれたグラム・ロックっぽい曲が顔を見せたり、多少のバラエティを意識した仕上がりだったけれど、今回は徹頭徹尾、アコースティカルなインディ・フォーク・ワールド。エレキ・ギターやスネア・ドラムなども随所に控えめに登場したりするけれど、基本的にはドラムレスっぽいオーガニックな世界観だ。ミニマルっぽい手触りもあって、なかなか面白い。

さすがに女優さんとして注目の存在だけに、ストーリーテラーとしての表現力は相変わらず見事。さらに成長した感じ。ちょっとスモーキーな歌声で、時にはシニカルに、時にはやさしく自分と他者との関係性を綴っていく。公と私。現実と虚構。様々なレイヤーが折り重なる。両親への思いのようなものに言及した曲もあるのだけれど、これが果たして本当のご両親、ユマ・サーマンとイーサン・ホークのことなのか…。

冒頭を飾る「バックアップ・プラン」では、“あなたの鉛筆、あなたのドレス・ソックス、あなたの充電器、あなたの自転車のロック/あなたのガラクタを入れる引き出しにないものすべて/あなたがなくしてしまって探しているものになりたいの”とか歌っていて。いきなりぐっと引き込まれる。

「スウィート・トゥース」って曲では、“誰もが嫌っている映画を/ダルースの誰もいない劇場で見たわ/本当に大好きだったと誓う/愛ってこんなにいいものなのね”とか、ボブ・ディランの生まれ故郷である町の名前がさりげなく歌い込まれていたりして。マヤさんの思考回路はとても興味深い。

とか、わかったようなこと言ってますが。ぼくの英語力だと細部まで理解しきれないような、ちょっと複雑なテーマを扱った曲も。押韻が印象的な「スティッキー・リトル・ワーズ」とか、バルテュスの絵画にインスパイアされたと思われる「テレーズ」とか、橋から飛び降りた少女が人魚になる物語「マーメイド・バー」とか…。なかなか深いところまで味わいきれないままなわけですが。

それでも真摯で誠実なリリシズムだけは伝わってくる。というか、そういう気がするような(笑)。そういう気にさせてくれる素敵な1枚です。

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