メイド・イット・オール・アップ/ソシオグラス
バンドキャンプで出くわしました。今年の9月に出た盤みたいだけど。
米フィラデルフィア出身のティム・レスリー(ギター)が2018年、英スコットランドのエディンバラに渡り、当地のリース地区にあるパブ“ボウラーズ・レスト”を根城に活動していたワイア&ウールとかオールド・リーキー・ストリング・バンドとかカックス・バウンティといったルーツ・ミュージック系のバンドと出会ったのをきっかけに誕生したのがこのバンド、ソシオグラスなのだとか。
メンバーはティムさんの他、ベン・エリントン(フィドル)、アレックス・リアク(フィドル)、マーク・ハンド(マンドリン)、ジェイムス・ライト(バンジョー)、ジェイムス・ホール(ベース)という顔ぶれ。エディンバラ出身はベンさんひとりらしいけれど、英米の各地からボーダーレスな形で集まったアメリカーナ好きたちによるバンドで。
アーリー・カントリーというか、オールドタイム・ミュージックというか、ジャグ・バンドものというか、ブルーグラスというか、アイリッシュ・リールというか、そこにウェスタン・スウィング的なジャジーな要素もちょこっと混ざっているようなストリング・バンド・サウンドを聞かせてくれる連中だ。
なんでそんなやつらがスコットランドから…? とか思うけれど、考えてみれば米アパラチア系の音楽ってのはもともとスコットランドからの移民たちが米国に持ち込み発展させたものだったわけで。ある意味、正統なものとも言えそう。面白いです。
本作はそんなソシオグラスの初アルバム。収録されている全8曲中、5曲がティム・レスリー作。2曲がジェイムス・ライト作。で、ラストの長尺ブルーグラス・ジャム「スクワーレリー・ライダーズ」がトラディショナル。今のところフィジカルはバンドキャンプでしか見つけられていなくて、ぼくもストリーミングで聞いている段階。手元に歌詞データがなく、ぼく程度の英語力だと確かなことは言えないのだけれど、曲によっては世の中の不平等とか格差とかに怒りをぶちまけているような歌詞もあるみたいで。
ずばり「ダーティ・ビジネス」なんてタイトルの曲じゃ、“さあ取引だ、電話に出ろ/貧乏人を傷つけてやつらの家庭を壊せ”みたいな言葉を投げかけつつ、文字通り汚いビジネスに手を染める連中の醜さを糾弾したり。これもまた間違いなく英国のパブ・ミュージックのひとつってことね。アルバム表題曲も、よくわからないけど、けっこうシリアスなことを嘆いているように聞こえるし。「メリー・カムダウン」って曲では子供時代の無邪気な思い出と現状を重ね合わせているみたいだし…。
もちろん、怒りをぶちまけるばかりじゃなく、日々の鬱憤とか暗い気分をパブで思いきり晴らすみたいな、ご陽気な曲もたくさんあって。そっちのほうがソシオグラスの本領って感じなのかもしれないけれど、こうした、ある種人生の裏側的なものへの眼差しが背中合わせになっているからこそ、この人たち、なんだかちょっと気になるのかも。