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Disc Review

Things Happen That Way / Dr. John (Rounder Records/Concord)

シングズ・ハプン・ザット・ウェイ/ドクター・ジョン

ドクター・ジョンが亡くなって、もう3年かぁ…。

彼の歌声に初めて接したのはいつだろう。たぶん、本ブログでも何度か言及している『ホット・メニュー』ってコンピレーションを買ったときだったと思う。1973年、まだできたてほやほやだったワーナー・パイオニア・レコードが傘下のワーナー/リプリーズ/アトランティックに所属する洋楽アーティストを日本でお披露目するため、アナログLP2枚に1アーティスト1曲ずつ盛りだくさんに詰め込み980円という廉価でリリースした徳用サンプラー・アルバム。

あのLPで初めて聞いて思いきりハマったアーティストは、たとえばタワー・オヴ・パワーとかJ.ガイルズ・バンドとかヴァン・モリソンとかゴードン・ライトフットとかスピナーズとか、本当に多かった。その中にドクター・ジョンの「スタッカ・リー」も入っていた。ごきげんだった。それでその曲が収められてた1972年のアルバム『ガンボ』を手に入れたんだっけ。あー、懐かしい。

ファンの方ならばご存じの通り、この『ガンボ』というアルバム、ニューオーリンズR&Bの名曲群をドクター・ジョンが独自のアプローチで甦らせた作品で。そこに添えられていた彼のライナーノーツによってその筋の音楽に深くのめり込んだ者も多数。ぼくもそのひとり。なもんで、ぼくにとってドクター・ジョンという人は単なる一ミュージシャンではなく、どこか学究肌の“紹介者”的な役割も果たしてくれた恩人でもあったわけです。

ニューオーリンズに根付くごきげんなルーツ音楽群を、持ち前のダミ声と絶品のピアノ演奏とユニークな感性でコンテンポラリーなシーンへと甦らせる達人として独自の歩みを続けつつ、いや、しかしある時点からはこの人自身がもはや米ルーツ音楽の重要な一角を担う存在そのものへと昇華したことを思い知らされるようになって。

以降は、たとえばボブ・ディランあたりと同様、もはや自らがアメリカ音楽のルーツへと名を連ねたことを、思い上がりでも何でもなく、確かな事実として実感した者でなければ作り得ない傑作を次々リリースしてぼくたちを楽しませてくれ続けて。

しかし、2019年に77歳で他界。突然の訃報に世界中のルーツ・ミュージック・ファンが大いに悲しんだものだけれど。そんなドクター・ジョン、実は亡くなる直前まで次なる新プロジェクトを進めていたことが判明。訃報から3年の歳月を経て、それが遺作という形でリリースされた。

ドクター・ジョンとギタリストのシェイン・セリオットとの共同プロデュース。アルバム後半に並んでいる「ホーリー・ウォーター」「スリーピング・ドッグズ・ベスト・レフト・アローン」「ギヴ・マイセルフ・ア・グッド・トーキン・トゥ」の3曲がドクター・ジョンとシェイン・セリオット共作による新曲だ。この3曲の出来がやけにいいもんで、なんかそれもまた逆に淋しさをつのらせるというか…。

ドクター・ジョンの作品としてはもう1曲、もともと1968年のアルバム『グリ・グリ』の収録曲で、その後もポール・ウェラーをはじめ多くのシンガーにカヴァーされてきた「アイ・ウォーク・オン・ギルデッド・スプリンターズ」の再演も入っている。なんでも、もともとはリッキー・リー・ジョーンズを迎えてレコーディングが進められていたらしい。けど、なぜだか最終的にリッキー・リーのサポートは全カット。ドクターの他界後、生前のヴォーカル・トラックを使ってルーカス・ネルソン&プロミス・オヴ・ザ・リアルが新たにバッキングを差し替えたらしい。確かにこの曲のみ、他のアルバム収録曲と比べると少し世界観が違うかも。リッキー・リーの穴はナッシュヴィル系のシンガー・ソングライター、ケイティ・プルイットが埋めています。もちろんケイティさんも大健闘。すごくいい。他の曲でもデュエット・パートナーとしていい仕事してます。とはいえファンは贅沢かつ強欲だから。やっぱリッキー・リー入りのオリジナルも聞いてみたかったような…。

その他、ジョニー・キャッシュの「ゲス・シングス・ハプン・ザット・ウェイ」、ハンク・ウィリアムスの「ランブリン・マン」と「泣きたいほどの淋しさだ(I'm So Lonesomone I Could Cry)」、ビリー・ウォーカーのヒットとして知られるウィリー・ネルソン作品「時のたつのは早いもの(Funny How Time Slips Away)」といった興味深いカヴァーが詰め込まれている。加えて、そのウィリー翁とのデュエットでトラディショナル・ゴスペルをカヴァーした「ギミ・ザット・オールド・タイム・リリジョン」と、アーロン・ネヴィルとのデュエットでトラヴェリング・ウィルベリーズの曲をカヴァーした「エンド・オヴ・ザ・ライン」という全10曲。シェイン・セリオット(ギター)の他、ジョン・クリアリー(キーボード)、デイヴィッド・トルカノウスキー(キーボード)、トニー・ホール(ベース)、ウィル・リー(ベース)、ハーリン・ライリー(ドラム)、カルロ・ヌッチオ(ドラム、パーカッション)らががっちりバックアップしている。

さすがに年齢が年齢だけに、ドクターの声も少し弱々しくなったかなと感じるものの。いやいや、独特の渋い歌心はしっかり健在だ。「ドクター・ジョンの演奏や歌を聞くたび、彼は私を別の場所に連れて行ってくれた。そんな独自の音楽スタイルと言葉を彼は持っていた」というウィリー・ネルソンのコメントが沁みます。偉大なドクターを偲びましょう。

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