Disc Review

Sing: Chapter 1 / Wynonna Judd (Curb)

シング〜チャプター1/ワイノナ・ジャッド

母親とのデュオ“ジャッズ”で一世を風靡したワイノナさん。この人は、まあ、ジャンルとしてはカントリー・アーティストなわけですが。ソロ・シンガーとして独立後は徐々に興味がカントリーの世界の外に向かうようになってきた。03年に出たソロ6作目『ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ・イズ・ラヴ』ではジェフ・ベックと共演してみたり、エルヴィスをカヴァーしてみたり、往年のパブ・ロックふうの曲に挑んでみたり。痛快なアプローチを展開してみせた。いかしてた。ワイノナって人の才能を再確認できた。

でも、この外向きの方向性が、保守ばりばり、新奇な試みを徹底的に嫌う米カントリー・ラジオとそのリスナー層から嫌われて。チャート・アクション的にも地味な存在に。ディクシー・チックスをボイコットした件といい、アメリカのカントリー・ステーションってのは怖いとこっすね。で、ワイノナのリリースとしてはその後、ライヴ盤とクリスマス・アルバムが出たのみ。どうしてるのかなと思っていたら。

久々のオリジナル・アルバムが出ました。痛い目にあっただけに、再びカントリーど真ん中の世界へと戻ったかと思って聞いてみたら。とんでもない。ワイノナさんは負けませんでした。今回はさらにジャンルの幅を広げて全編カヴァーの新作を送り出してきた。

のっけ、いきなり30年代のスウィンギーな「ザッツ・ハウ・リズム・ワズ・ボーン」でごきげんな多重クローズド・ハーモニーを聞かせて。続いて、ハンク・ウィリアムスの必殺のカントリー・バラード「アイム・ソー・ロンサム・アイ・クッド・クライ」を壮麗なストリングス・オーケストラをバックに切々と聞かせて。次は20年代に活躍した女性ブルース・シャウター、シッピー・ウォレスの「ウィメン・ビー・ワイズ」をブルージーにきめて。スマイリー・ルイスによるニューオリンズR&Bクラシック「アイ・ヒア・ユー・ノッキン」を豪快なロックンロールで聞かし。マール・ハガードの「アー・ザ・グッド・タイムズ・リアリー・オーヴァー・フォー・グッド」をソウル・バラードのように変身させ…。

他にも、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの「ザ・ハウス・イズ・ロッキン」、ビル・ウィザーズの「エイント・ノー・サンシャイン」、ペギー・リーの「アイム・ア・ウーマン」、バカラック・ナンバー「エニワン・フー・ハッド・ア・ハート」、ポピュラー・スタンダード「ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ」、そしてロドニー・クロウェルの「シング」など、幅広い選曲をそれぞれアイデア豊かにカヴァーしてみせる。

たぶん、またアメリカのカントリー・ラジオからはガン無視されるんだろうな。アメリカのカントリー界って、いつからこんなに狭量になってしまったのやら。往年のパッツィ・クラインとかの柔軟な持ち味と現在のk.d.ラングとかワイノナの持ち味と、そんなに違うとは思えないんだけど。本盤でワイノナがハンク・ウィリアムス作品やマール・ハガード作品を取り上げて、流麗に、あるいはソウルフルにカヴァーしてみせたのは、そうした状況に対する彼女なりの強いメッセージなのだろうと思う。

アメリカでダメなら、もともと雑食好きのわれわれ日本人が応援してあげたいものだが。でも、日本でもダメかなぁ。どんな曲を取り上げても、本盤でのワイノナはあくまでもカントリー・シンガーとしてそこに足を踏ん張っていて。自らもそのことにプライドを持っているように見える。実にかっこいいんだけど。それが、カントリーに対して妙な先入観や偏見がはびこる日本では裏目に出ちゃうかも。難しいものです。

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