Disc Review

What's Trending / Leo Sidran (Bonsaï Music)

ホワッツ・トレンディング/リオ・シドラン

ご存じ、ベン・シドランの息子さん、リオ・シドランのソロ・アルバム8作目。お父さんゆずりのヒップな感覚を活かしながら、今回もほぼすべての楽器をひとりで演奏しつつ、グルーヴィに、ジャジーに、シニカルに、ちょっぴりユーモラスに聞かせてくれる。

タイトル・チューンはボブ・ドロー/デイヴ・フリシュバーグ作の大傑作曲「アイム・ヒップ」の現代版を狙ったものだとか。リオの11歳になる娘さん、ソルちゃんがSNSを見ては何かと“ほら見て、これが今のトレンドよ”とはしゃいでいるのにインスパイアされた1曲らしい。スティーリー・ダン調のコード展開がかっこいい。ドナルド・フェイゲン人脈のトランペッター、マイケル・レオンハートがフィーチャリングされているのも効いている。とともに、曲の発想の源たるソルちゃんもゲスト・ヴォーカルで参加。子供とは思えない達者な歌声を聞かせている。

ソルちゃんは他にもマンハッタン・トランスファーのジャニス・シーゲルらが参加した「イッツ・オールライト」と、クラシックとクロスオーヴァーする形でも活動するマルチ・インストゥルメンタリスト、マイケル・ハーストも参加した「ハンギング・バイ・ア・スレッド」にもクレジットされている。思えばリオさんもティーンエイジャーのころからプロ活動していたっけ。音楽家として早熟な家系なのね。

父親、ベン・シドランの著書のタイトルをそのまま流用した「ゼア・ワズ・ア・ファイア」には、その父シドランも参加。他にも、スティーヴン・コルベアのレイト・ショーでも活躍するマイケル・サーバーやルイス・ケイトーやジョン・ランプリー、ブルックリン系シンガー・ソングライターのジェイク・シャーマンやジョイ・ドラグランド、ワシントンDCのシンガー・ソングライターであるアンジェラ・フェイス、ジャズ・シンガーのローレン・ヘンダーソンら気になる名前がクレジットに並ぶ。

2017年にベン・シドランのアルバムのために書いた「フェイキング・イット」を元に、ぐっとリラックスしたムードへと改作した「エヴリバディーズ・フェイキング」とか、パンデミックに入った当初に書いたという「イッツ・オールライト」とか、かっこいい。お父さんはもちろん、ドナルド・フェイゲンとかマイケル・マクドナルドとか、そういう人たちが絶妙に駆使していたジャジーで、浮遊感に満ちたコード進行やアンサンブルを巧みに駆使し、時にはヒップホップのノウハウなども取り入れつつ、時代に左右されない“いい曲”を紡ぎ上げている感じ。終盤の「ノーバディ・キッシズ・エニモア」とか「アフター・サマーズ・ゴーン」とか、エヴァーグリーンな魅力に貫かれていて、なんかとっても胸にしみます。

ローレン・ヘンダーソンのデュエット・ヴォーカルとジェイク・シャーマンのハーモニカが泣ける前者の歌詞に“もう誰もキスしない/誰もハグしない/誰も床に寝っ転がらない/誰も顔を合わせない”とか“もう誰も電話なんかしない/誰もすべての番号を覚えない”とか“誰も時間をかけて文章を書かない/誰も句読点を使わない”とか、そういうフレーズがずらっと並んでいて。で、“何がないと生きていけないのか、何を見逃したくないのか、考える/歳月を重ねて、なぜだろう、みんなキスの仕方を忘れてしまった”と締められる。

トレンドを模索しながら右往左往する今の時代、何か忘れてしまった大切なものがあるんじゃないか、と。本作を通して リオ・シドランはそんなメッセージを送っているのかも。

そういえば、バカにポップなサウンドに乗せて1982年にヒットした曲のタイトルを大滝さんばりにずらーっと並べた「1982」って曲も入っていて。自身の世代を明解に打ち出したポップ・チューンなのだけれど。1976年生まれのリオ・シドランはこの時期にポップ・ミュージックの洗練を受け、それを下地に、以降、時を縦横に旅しながら幅広い音楽性を身につけてきたのだな、と。そんなことを楽しく伝えてくれる1曲だった。

今のところフィジカルはバンドキャンプ経由のみかな?

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