Disc Review

Interpreting the Masters Volume II: A Tribute to Van Halen / The Bird and the Bee (No Expectations/Release Me Records)

ジャンプ〜トリビュート・トゥ・ヴァン・ヘイレン/ザ・バード&ザ・ビー

ロウエル・ジョージの娘という強烈な七光に頼り過ぎることなく、ひょうひょうと独自の個性を発揮し続けるマジカルなシンガー・ソングライター、イナラ・ジョージ。ポール・マッカートニー、ケンドリック・ラマー、アデル、リリー・アレンなど数え切れないほどのアーティストを支えてきたプロデューサー/コンポーザー、グレッグ・カースティン。現在の米西海岸シーンを“静かに”代表する二人の才人が組んだポップ・ユニット、ザ・バード&ザ・ビーの新作は、なーんと、ヴァン・ヘイレンへのトリビュート・アルバムだった。

これは“インタープリティング・ザ・マスターズ”と命名されたシリーズの第二弾。第一弾は2010年に出た『ア・トリビュート・トゥ・ダリル・ホール&ジョン・オーツ』で。その名の通り、ホール&オーツの作品群をカヴァーした1枚。あちらもかなりよかったけれど、続編にあたるこっちもなかなか楽しい仕上がりだ。

ヴァン・ヘイレンといえば、もちろん音作りの主役はエディ・ヴァン・ヘイレンのギターなわけだけれど。ザ・バード&ザ・ビーのふたりはおなじみのヴァン・ヘイレン・ナンバーを、あえてギターを使わず、今様エレクトロ・ポップ的な視点から再構築。といっても、楽曲の核となるリフやソロなどはほぼそのまま継承し、別の楽器で別の感触を生み出してみせる。面白い。「ホット・フォー・ティーチャーズ」の冒頭のスリリングなギター・ソロとスピーディなリフをグレッグがキーボードで表現していたり、「ジャンプ」のイントロのシンセサイザーのヴォイシングをイナラが多重コーラスで生まれ変わらせていたり…。最高だ。

取り上げている楽曲的にはデイヴ・リー・ロスのオリジナル在籍時のものばかり。やっぱヴァン・ヘイレンはデイヴとエディが揃っていてなんぼだよなぁ…と思っているぼくのようなファンにはうれしい選曲だ。ヴァン・ヘイレンお得意の、というか、デイヴお得意のオールディーズ・カヴァーものも外せないということか、グレッグとイナラはキンクスの「ユー・リアリー・ガット・ミー」まで取り上げている。ボーナスを省いたオリジナル曲順でのラストを飾る「ダイアモンド・デイヴ」のみ、グレッグとイナラの共作による自作のデイヴ・リー・ロス賛歌だ。

明日のCRTに向けて“ヨット・ロック”の本を読んでいたことともあいまって、そうだ、この時期のヴァン・ヘイレンも思えばテッド・テンプルマンのプロデュース作品で、これもまた重要な米西海岸ポップスだったんだよな、と。そんな事実を改めて認識し直させてくれるカヴァー・プロジェクトではありました。

「ホット・フォー・ティーチャー」でベックが先生役でナレーション(『白鯨』を読みます。グレッグ、うるさいよ。イナラ、授業のあと残るように。明日はデイヴ・リー・ロスの弁証法的シャーマニズムに関する論文を学びます。何か質問は…? とかw)をしているのをはじめ、ジョーイ・ワロンカー、ジャスティン・メンデル=ジョンスン、オマー・ハキム、ゲイブ・ノエル、デヴィッド・ラリックらも参加。

フィジカルCDでのリリースは日本のみ。その日本盤には「エヴリバディ」がボーナス追加されてます。

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