Disc Review

Meet the Moonlight / Jack Johnson (Brushfire/Republic Records)

ミート・ザ・ムーンライト/ジャック・ジョンソン

オアフのノースショアで生まれて、自然と共存しながら、ヒューマンなタッチでギターを奏でつつ、リラックスした環境の下、隙間の心地よいオーガニックな音楽を聞かせる…みたいな。ほんと、かっこいいというか、うらやましいというか。ジャック・ジョンソン。

2017年にアルバム『オール・ザ・ライト・アバヴ・イット・トゥー』をリリースして。翌年、フジロックに来て。そのあたりを最後にしばしごぶさた気味。伝わってくるのは海外でのちょっとしたライヴ情報とか、ミルキー・チャンスとかポーラ・フーガとかベン・ハーパーとかとの共演情報とか。そんな感じだったけれど。

出ました。5年ぶりの新作スタジオ・フル・アルバム。8作目かな。なんとブレイク・ミルズがプロデュース。ロサンゼルスとハワイでレコーディングされている。ほんの一部、ザック・ギルをはじめジャック・ジョンソン・バンドの面々が加わっているようだけれど、ほぼすべての演奏をジャックさんとブレイクさん、二人でまかなっているらしい。

社会を覆う不穏な価値観、メディアに渦巻くヘイトやフェイク、立ち向かいようのない自然の猛威。そうしたものへの疑念や憂い、諦観を静かに吐露する曲もいくつかあって。閉塞した今の時代ならではの1枚だなと思う。前作でもトランプ前大統領への嫌悪をぶちまけた「マイ・マインド・イズ・フォー・セール」とか思いきり印象的だったけれど。それに続き、この人の問題意識が素直に反映されている感じ。プレスリリースとかで本人の発言をチェックしてみたら、今回のアルバムについて——

“たとえ風がサイドショアで、雲も出ていて、海が冷たかったとして。そんな状況でもなるべくいい波に乗ろうとしているのさ”

と語っていた。さすが元プロ・サーファー。うまいこと言う。ここ数年の最悪の社会状況下にあっても、ポジティヴな思いを忘れることなくメッセージし続けよう、と。そういうことか。もちろん、心地よいアコースティック・ギターの響きをバックに、波音や月明かりの世界へと聞き手をいざなってくれる曲もあるけれど、そういうタイプの曲もどこかいつものジャック・ジョンソン作品より内省的で。そのあたりの感触はブレイク・ミルズが的確にもたらしたものなのだろう。

「アイ・テンド・トゥ・ダイグレス」って曲とか、いろいろ考えさせられた。この世を支配する絶対的な存在はいるのか? いるとして、彼はぼくたちのことを気にかけてくれているのか? なぜ比較するのか? なぜ対比するのか? ぼくたちは他人の認識以上の存在なのか? 意味が知りたい。理由が知りたい。楽しい朝を迎えるだけじゃ物足りない…みたいなことが静かに、ナチュラルに綴られていて。

でも最終的には、何気ない瞬間こそがかけがえのないものなんだというジャック・ジョンソンならではのテイストに落ち着くという。なんか、そんなアルバム。その日の悲しみと明日への希望、みたいな。やっぱこの人、いいシンガー・ソングライターなんだなぁ、という思いを新たにしました。

最新インタビュー映像をはじめ、これまでのミュージック・ビデオ、ライヴ・ビデオを収録した特典DVD付きの国内盤(Amazon / Tower)もあり。

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