Disc Review

Meshuga Baby / Emma Smith (Wingsor Castle Records)

メシュガ・ベイビー/エマ・スミス

ボズウェル・シスターズとかアンドリュース・シスターズとかマクガイア・シスターズとか、そういうロックンロール以前の“シスターズ”系女性コーラス・グループの美学を現代に受け継ぐロンドンの女性3人組、ザ・プッピーニ・シスターズ。10年ちょっと前、本ブログでも1枚、彼女たちのアルバムを紹介したことがあったけれど。

その直後、2012年にプッピーニ・シスターズはメンバーチェンジをして。その際、前任のステファニー・オブライエンに替わって加わった新メンバーがこの人、エマ・スミスだった。当時、20代になったばかりの若さで。すでにイギリスのナショナル・ユース・ジャズ・オーケストラの一員で。ファースト・ソロ・アルバムも出して。プッピーニ・シスターズの新メンバーにもなって。以降、そうした活動と並行して、マイケル・ブーブレ、ロビー・ウィリアムス、シール、ジョージィ・フェイムらのバックアップもしてきて。ラジオDJやテレビの司会とかもして…。

と、そんなエマさんのセカンド・ソロ・アルバム、ひっそりとではありますが、10年ぶりに出ました。去年あたりからちょこちょこバンドキャンプあたりを通じて先行配信していたシングル曲とかも含めた1枚。ジェイミー・サフィア(ピアノ)、コナー・チャップリン(ベース)、ルーク・トムリンソン(ドラム)というピアノ・トリオを従えたジャズ・ヴォーカル・アルバムだ。

この人、ユダヤ系で、アルバム・タイトルの“メシュガ”というのはイディッシュ語で“クレイジー”の意味。きっちり自分を表現することを恐れない女性に対して使われる言葉なのだとか。言われてみれば、なるほど、収録曲的にもそんな感じ。ジャズ・ヴォーカル・アルバムらしく、ジュディ・ガーランドやイーディ・ゴーメでおなじみ「アイ・ドント・ケア」とか、アーヴィング・バーリン作「ショウほど素敵な商売はない(There's No Business Like Show Business)」とか、サッチモやナット・キング・コールからドクター・ジョンやハリー・ニルソンまで無数のシンガーが取り上げてきた「メイキン・フーピー」とか、ガーシュウィン・ナンバー「シンク・ピンク」とか「バット・ノット・フォー・ミー」とか、そのあたりのいわゆる“グレイト・アメリカン・ソングブック”系のナンバーもあるけれど。

バーブラ・ストライサンドでおなじみの「ホエア・アム・アイ・ゴーイング?」とか「ピープル」とか、モーズ・アリソンでおなじみのグルーヴィーなブルース「ザ・セヴンス・サン」とか、なんとボブ・ディランの「ホリス・ブラウンのバラッド」とか、ユダヤ系という出自を強く意識したような多彩な曲も取り上げていて。

さらに、この人の場合、自作曲も多く含まれていて。それがまたいい。本作だと「シット・オン・マイ・ニー・アンド・テル・ミー・ザット・ユー・ラヴ・ミー」「マイ・レヴェレイション」「バラッド・オヴ・ア・ウェイワード・ウーマン」「モノガミー・ブルース」の4曲がエマ・スミス&ジェイミー・サフィアの共作によるオリジナル。

過去へのリスペクトに満ちた眼差しと今の息吹と、両者をいい感じに共存させた好盤です。CDもLPも、フィジカルは今のところバンドキャンプでしか見かけていないけど。これ、断然LP向きの1枚っすね。

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