Disc Review

Sockin' It To You: The Complete Dynovoice/New Voice Recordings / Mitch Ryder & The Detroit Wheels (RPM/Cherry Red)

地獄の叫び~コンプリート・ボブ・クルー・プロダクションズ/ミッチ・ライダー&ザ・デトロイト・ホイールズ

ブルース・スプリングスティーンやジョン・メレンキャンプ、ボブ・シーガーらにも多大な影響を与えたブルー・アイド・ソウルの元祖、ミッチ・ライダー&ザ・デトロイト・ホイールズ。西海岸のライチャス・ブラザーズや東海岸のラスカルズと並ぶ白人ソウルの草分け的存在だ。

その名の通り、本拠地はデトロイト。デトロイトというと、やはり真っ先に脳裏に浮かぶのがモータウンR&Bだけど。この街、黒人音楽のみならず、実はロックも盛ん。イギー・ポップを擁するストゥージズ、ラウドでハードでスピーディなロック・サウンドでパンクの礎となったMC5、ロックンロール姐御のスージー・クワトロ、轟音ロック・トリオのグランド・ファンク・レイルロード…。デトロイトには、土地柄からくる黒っぽさをたたえた、ハードでポップな独特のロックンロールがたくさん渦巻いていた。

そのプロトタイプであり、最高峰でもあるのがミッチ・ライダー。白人ながらティーンエイジャーのころから地元の黒人クラブをうろつきR&Bのセンスを身体に叩きこんだという彼のシャウト・ヴォーカルは黒人の聴衆さえ充分に納得させるものだった。そんなミッチ・ライダーの噂がニューヨークまで届いて、プロデューサー、ボブ・クルーと契約。クルーが設立したダイナヴォイス/ニュー・ヴォイス・レコードから1965年にデビューを飾ったわけだけれど。同レーベルに彼らが残した音源を総まくりした全部入りアンソロジーが出た。

CDは3枚組。ストリーミングはずらーっと全65トラックの一気通貫フォーマット。冒頭の12曲、CD1の「シェイク・ア・テイル・フェザー」から「ベイビー・ジェーン」までが1966年のアルバム『テイク・ア・ライド』の収録曲。ファイヴ・ドゥ・トーンズ、スプリームス、ボビー・ブランド、タイニー・トプシー、ジェイムス・ブラウン、レイ・チャールズ、サム・クックらのR&Bヒットのカヴァーを中心に、プロデューサーを務めたボブ・クルー作の「アイ・ホープ」とクルー/ライダー共作による「ベイビー・ジェーン」を加えた内容だ。

個人的には「アイ・ホープ」が大好きだったなぁ。ハードコアなファンの間では、粗野で無骨なミッチ・ライダー本来の持ち味を台無しにしたのがプロデューサーのボブ・クルーだとかも言われているようで、その辺の評価はなかなか微妙なところだけれど、商才に長けたクルーのポップなブルー・アイド・ソウル感覚と、ライダーのごりごりのそれとの組み合わせというのは、それなりに面白かったとぼくは思っている。

トラック13 「悪魔とモリー(Devil With A Blue Dress On & Good Golly Miss Molly)」は1966年に大ヒットした彼らのシグネチャー・ソング。ブルース・スプリングスティーンのカヴァーでもおなじみ、ショーティ・ロングとリトル・リチャードそれぞれのヒット曲を合体させた強力なメドレーものだ。ファースト・アルバムにも収録されていた、リトル・リチャードとチャック・ウィリスのヒットをつないだ「ジェニ・ジェニ No.2(Jenny Take A Ride)」と同趣向。この路線が、ミッチ・ライダー&ザ・デトロイト・ホイールズの超得意技だった。

続くCD1のトラック14「ウォーキング・ザ・ドッグ」からトラック25「ブレイクアウト」までの12曲が1966年のセカンド・アルバム『ブレイクアウト…!!!』のイニシャル・プレス収録曲。ルーファス・トーマス、ウィルソン・ピケット、ジェシー・ヒル、クリス・ケナー、アイズレー・ブラザーズ、マーヴィン・ゲイ、チャック・ジャクソンらのカヴァーに、ボブ・クルー、ゲイリー・ナイト、ライダー本人らが絡んだオリジナル曲を加えた内容だ。ファースト・シングル「アイ・ニード・ヘルプ」はこっちに入ってます。同好の士というか、同じ志をもって活動していたブルー・アイド・ソウル仲間、ライチャス・ブラザーズの「リトル・ラテン・ループ・ルー」のカヴァーも興味深い。

もともとは今回のトラック14〜25の曲順で世に出たが、同時期に「悪魔とモリー」が大ヒットしたため、急遽トラック23「エニー・デイ・ナウ」を外して「悪魔とモリー」をぶちこみ、曲順をちょっといじった別ヴァージョンの『ブレイクアウト…!!!』もある。そっちのほうが一般的ながら、今回はちゃんと初回プレスの曲順での収録だ。

CD2の冒頭10曲、通し番号で言うとトラック26「地獄の叫び(Sock It To Me, Baby)」からトラック35「ワイルド・チャイルド」までが1967年のサード・アルバム『地獄の叫び』の収録曲。このアルバムはバート・バカラック&ハル・デヴィッド作の「ウォーク・オン・バイ」以外は基本的にボブ・クルー絡みの楽曲が中心だ。トラック31「アイ・ネヴァー・ハッド・イット・ベター」とか、いい感じにスウィートな風味もまぶされていていかした仕上りだと個人的には思うのだけれど、この辺のボブ・クルー色への評価もいろいろ微妙に賛否が分かれるところなのかも。

ちなみに、本アンソロジー。たとえばこの「アイ・ネヴァー…」の場合、今回はいちばんアレンジ的にもよくできている4分くらいのヴァージョン(いわゆる“ヴァージョン2”)だけの収録で、ちょっと粗めの5分半オリジナル・アルバム・ヴァージョンのほうは未収録。もちろん、シングル「地獄の叫び」のB面としてリリースされた2分50秒くらいのエディテッド・ヴァージョンもなし。今回は全体的にそういう方針のようで。全曲入りではあるものの、全ヴァージョン入りではない、と。この辺の編纂コンセプトはちょっと物議を醸しそうではある。フォー・シーズンズもそうだったけど、ボブ・クルー絡みの再発はこのあたりのヴァージョン問題がドタバタしがちか。

CD2の11曲め、通しで言うとトラック36「トゥー・メニー・フィッシュ・イン・ザ・シー(Too Many Fish In the Sea/Three Little Fishes)」は1967年のシングル。これまた、マーヴェレッツの「トゥー・メニー…」に、古くから伝わる愛唱歌「スリー・リトル・フィッシーズ」を継ぎ足したものだ。

CD2の12曲め、通し番号トラック37「レット・ユア・ラヴライト・シャイン」からトラック47「アイ・ガット・ユー」までが1968年のアルバム『ミッチ・ライダー・シングズ・ザ・ヒッツ』。基本的にはデトロイト・ホイールズとしてのアルバムで既出のヴァージョンに新たにホーン・セクションやストリングスなどをダビングしつつ、ぐっとソロ・シンガー的なニュアンスへと寄せたリミックス集で。そこにライダーのソロ名義シングルとしてリリースされた2曲——ザ・ドリフターズの「ルビー・ベイビー」にボブ・クルーが短いニュー・フレーズを合体させた「ルビー・ベイビー/ピーチズ・オン・ア・チェリー・トゥリー」と、おなじみ「ユー・アー・マイ・サンシャイン」を加えた内容だった。このアルバムは確かこれまで未CD化だったと思う。

で、CD3の冒頭10曲、通し番号トラック48「レット・イット・ビー・ミー」からトラック57「ザッツ・イット、アイ・クイット、アイム・ムーヴィン・オン」までがミッチ・ライダーのソロ名義で1967年に出た賛否渦巻くアルバム『そして今は(What Now My Love)』の収録曲だ。それまでの路線を引き継いだレイ・チャールズものとか、サム・クックものとか、ジェリー・リー・ルイスものとか、チャック・ベリーものとかに加えて、なんと表題曲となったジルベール・ベコー作品とか、ジャック・ブレル作品とか、そういうシャンソンにまで挑んだ1枚。ボブ・クルーつながりでフランキー・ヴァリの「アイ・メイク・ア・フール・オヴ・マイセルフ」までやってます。面白いっちゃ面白いけど…。

で、以降がオリジナル・アルバム群に未収録のシングル音源など。1968年にミッチ・ライダー&ザ・スピリット・フィール名義で出たトラック64「リング・ユア・ベル」と、フォー・トップスのヒットを下敷きにまた別曲と合体させたトラック63「ベイビー・アイ・ニード・ユア・ラヴィン/シーム(テーマ)・フォー・ミッチ」が入っているのはうれしいっすね。国内盤もあり。

I Never Had It Better (version 2)

-Disc Review
-, ,

Copyright© Kenta's...Nothing But Pop! , 2020 All Rights Reserved.