Disc Review

Toast / Neil Young & Crazy Horse (Reprise)

トースト/ニール・ヤング&クレイジー・ホース

年齢を重ね、おじーちゃんになっても吼えることをやめないニール・ヤングの気持ちがひしひし沁みてくる気がする朝。ニールさんのニュー・リリースを味わいますよ。

“アーカイヴ・ボックス・シリーズ”“パフォーマンス・シリーズ”“オフィシャル・ブルートレッグ・シリーズ”“オフィシャル・リリース・シリーズ”など、様々な形で過去音源の発掘リリースを精力的に続けているニール・ヤング。そうした流れのひとつ、“スペシャル・リリース・シリーズ”の最新作が出ました。それが本作『トースト』。

シリーズにおける通し番号は“9”ながら、実際のリリースとしては2017年の『ヒッチハイカー』(1976年録音)、2018年の『パラドックス』のサントラ(2016年録音)、2020年の『ホームグロウン』(1974〜75年録音)に続く第4弾。

というか、2008年にニールさんが本“スペシャル・リリース・シリーズ”をこれからスタートさせると発表したとき、まず最初に出ると予告されたのが本作『トースト』だった覚えがある。盟友クレイジー・ホースとともに2000年、サンフランシスコのトースト・スタジオでレコーディングされながら未発表に終わっていた1枚。なかなか発掘リリースが実現しなかったのだけれど、ようやく出ました。待ってました。

全7曲。うち「クイット」「ハウ・ヤ・ドゥーイン?」「ブーム・ブーム・ブーム」の3曲が2002年、ブッカー・T&ジ・MGズをバックに従えて制作されたアルバム『アー・ユー・パッショネイト』で再演されている。正確にはブッカー・T・ジョーンズ(オルガン)、ドナルド“ダック”ダン(ベース)、スティーヴ・ポッツ(ドラム)という3人に、クレイジー・ホースからフランク“ポンチョ”サンペドロ(ギター)とニールさんが加わった顔ぶれだったけれど。その際、「ハウ・ヤ・ドゥーイン?」は「ミスター・ディサポイントメント」に、「ブーム・ブーム・ブーム」は「シーズ・ア・ヒーラー」に改題された。さらに「ゴーイン・ホーム」は、別ヴァージョンながらトースト・スタジオで録音されたクレイジー・ホースのテイクが『アー・ユー・パッショネイト』に持ち込まれていた。

てことで、本作を聞くうえでの興味のひとつ目は、クレイジー・ホースとMGズの演奏の質感の違い。で、もうひとつが、結局再演されずにお蔵入りしてしまった残り3曲がどんなものなのか、と。そういうことになるわけだけれど。

クレイジー・ホースの演奏に関しては、もう、当然ながらばっちりで。確かに「クイット」にせよ「ハウ・ヤ・ドゥーイン?/ミスター・ディサポイントメント」にせよ、ニール・ヤングならではのメロウなソウル感覚のようなものが色濃い楽曲なので、MGズとの再演ヴァージョンのほうの豊潤なグルーヴと相性ばっちりではあるのだけれど。ここで聞けるクレイジー・ホースとの初期ヴァージョンもほぼ完成の域に達しているというか。少し無骨ではあるけれど、その雑さも含めて胸にぐっとくる。「ミスター・ディサポイントメント」ではぐっと声域を落として、渋いしゃがれ声で歌い出されていたけれど、こちらの「ハウ・ヤ・ドゥーイン?」のほうは、ノッケからニールさんらしい切ないテナー・ヴォーカルで歌われていて。こっちもいいなぁ。

「ブーム・ブーム・ブーム/シーズ・ア・ヒーラー」に関しては、『アー・ユー・パッショネイト』では9分くらいの尺だったのが、こちら初期ヴァージョンでは13分超。この粘り腰はやっぱクレイジー・ホースならでは。

残る未発表ものは、クレイジー・ホースきたーっ! って感じでぐいぐいドライヴするマイナー・ロック・チューン「スタンディング・イン・ザ・ライト・オヴ・ラヴ」、同じくハードなロック・グルーヴに載せて、職を失い神への信仰すら失ったきこりの思いが綴られる「ティンバーライン」、『アー・ユー・パッショネイト』の裏ジャケに曲名のみクレジットされていた10分超のロック・オデッセイという感じの「ゲイトウェイ・オヴ・ラヴ」という3曲。

で、これ、別にこのままリリースされていてもおかしくなかったはずの1枚ながら、なにやらニールさん、この時期、いろいろな人間関係の悪化が重なり精神的にかなり迷走していたようで。録音したもののすべてをお蔵入りさせてしまったのだとか。が、歳月がすべてを解決したか、こうして晴れて世に出た。よかった。ニールさん、ポンチョ、ビリー・タルボット、ラルフ・モリーナというクレイジー・ホースの面々に加え、当時の奥さまペギ・ヤングと、妹さんアストリッド・ヤングがバック・コーラスで参加してます。

次なるニールさんのリリースは8月、長年マネージャーをつとめた生涯の友、エリオット・ロバーツ他界直後にプロミス・オヴ・リアルと組んで行なわれた2019年のヨーロッパ・ツアーの模様を記録したパフォーマンス・シリーズ最新作『ノイズ&フラワーズ』っすね。もう月刊ニール・ヤングっすね。

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