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Disc Review

Goats Head Soup (2020 Deluxe Edition) / The Rolling Stones (Polydor)

山羊の頭のスープ(2020デラックス・エディション)/ザ・ローリング・ストーンズ

ローリング・ストーンズに関して、子供時代のぼくはあまりいい聞き手ではなかったかも。中学生のころ、初めて買ったのが『ザ・ローリング・ストーンズ・ゴールデン・アルバム』って日本編纂のベスト盤で。これはけっこう熱心に聞いていたけれど。

次に買ったのが『レット・イット・ブリード』で。当時ヒットしていた「ホンキー・トンク・ウーマン」が入っているに違いないと思って手に入れたのに、ご存じの通り、これが入っていなくて(笑)。今では大好きなアルバムながら、入手当初はちょっと戸惑ったというか、がっかりしたというか。おかげで最初のうちはあまり聞かずじまい。あのアルバムの真価を思い知るまでに、ずいぶんと時間がかかったっけ。ダメ・リスナーです。

次の『スティッキー・フィンガーズ』は、高校生になったばかりのころに出た。でも、ぼくは先行シングルだった「ブラウン・シュガー」をすでに買っていたもんで。ダブリがもったいなくてアルバムは買わなかった。高校で知り合ったシノザワくんに借りて、カセットに録音して聞いていた。でも、例のジッパー付きの変形ジャケットがどうしてもほしくて、シノザワくんに頼んでLPジャケットだけ譲ってもらい、そこに「ブラウン・シュガー」のシングルを入れて飾っていた。バカだ(笑)。このときもダメ・リスナー。

続く『メイン・ストリートのならず者(Exile on Main St.)』も最初のうちは買わなかった。理由はシカゴの初期諸作と同様。2枚組で高かったから。このときも「ダイスをころがせ(Tumbling Dice)」のシングルだけ買ってしばらく我慢していた覚えがある。で、1973年1月、例の初来日中止騒ぎがあって。その半年後に『山羊の頭のスープ(Goats Head Soup)』が出た。生のライヴを見ることができなかった悔しさを多くの日本のファンがこれで癒した…的な1枚だった。

個人的にはギターとかも本格的に練習し始めていた時期で。ラジオから聞こえてくるアコースティック・ギター入りの楽曲を片っ端からコピーしまくっていたころ。当然、『山羊の…』からの先行シングル「悲しみのアンジー(Angie)」もばっちりコピーした。sus4を連続でぶつける感じとか、3度抜きの、いわゆるG5の響きとか、フラット・ピックでのアルペジオ感とか、おーっ…とか思いながら何度も何度も練習した。懐かしい。

ただ、このときは過去の失敗を繰り返さないため、その先行シングルは買わず、アルバム・リリースを待って手に入れた。で、これまた友達に借りてカセットに録音してよく聞いていた『メイン・ストリート…』のラフなエレクトリック・ギター・サウンドとはひと味違う、キーボードやホーン・セクションのアンサンブルが印象的な仕上がりにちょっと驚いた。まだ未熟な高校生の耳にもけっこう意外に響いた。

もちろん、キース・リチャーズとミック・テイラー、二人が相変わらずふんだんにギターを鳴らしてはいるのだけれど、それ以上に、たとえば「ドゥー・ドゥー・ドゥー…(ハートブレイカー)」でビリー・プレストンが弾きまくっているクラヴィネットのグルーヴや、ぐいぐいドライヴするホーン・セクションにハマった。スティーヴィー・ワンダーを聞いているような躍動的な気分にさせてくれた。ワウワウかましたミック・テイラーのギターもブルージーというより断然ファンキーに響いた。

今でこそストーンズといえば、ロックンロールの基本、みたいな。そういうルーツっぽいイメージが強いのだけれど。この時期は、前人未踏の荒野めがけて歩みを続けていたような。そんな時期。まあ、このアルバムの次、確かに彼らは“たかがロックンロールさ。でも、それが大好きなんだ”という、ずばりのメッセージを託した、一見ルーツ再確認曲のように思える曲をリリースしたりもしてはいるのだけれど。

とはいえ、この時期、1973〜74年といえばまだパンク前夜。あれはむしろ止まることなく新たなグルーヴ、新たなアンサンブルを模索しながらまだまだ前へ突進するぞという決意表明をぶちまけた1曲だったわけで。それと同じ心持ちが『山羊の頭のスープ』をも貫いている。ブルースやR&Bなどの伝統にもきっちり目配りしつつ、しかし眼差しは前へ。未来を射貫く、みたいな。すでにビートルズも消滅したロック新時代を俺たちが牽引しているんだという自覚/自信というか。それを、若干の不安と手探り感とともにプレゼンしてきた1枚だった。

で、その最新リイシュー。1CD、1LP、2CDデラックス、ブラック・ヴァイナル版2LPデラックス、別ジャケット/クリア・ヴァイナル版2LPデラックス、3CD+ブルーレイのスーパー・デラックス・ボックス、4LPスーパー・デラックス・ボックスなど様々なフォーマットで出た。

やはり基本となるのは、いちばん豪華な3CD+ブルーレイのスーパー・デラックス・ボックスか。ディスク1が2020年ニュー・ステレオ・リミックスがほどこされたオリジナル・アルバム。ディスク2がレア&オルタナティヴ・ミックス集。先行して話題を巻き起こしたジミー・ペイジ参加曲「スカーレット」を含む3曲の未発表トラックはここに収められている。そして、ディスク3は2012年にストーンズの“オフィシャル・ブートレグ”シリーズとして、超豪華限定ボックス、あるいは映像とのバンドル作品でしか手に入らなかった1973年のライヴ『ブリュッセル・アフェア』。

ブルーレイにはオリジナル・アルバムのニュー・ミックスのハイレゾ音源、および「ダンシング・ウィズ・ミスターD」「悲しみのアンジー」「シルヴァー・トレイン」のビデオクリップ映像が収められている。そこに120ページの豪華ブックレットと、1973年当時のツアー・ポスターの復刻が4枚。

ボブ・クリアマウンテンが最高にぶっといミックスをほどこした『ブリュッセル・アフェア』のかっこよさもすごい。キースとミックががっつりデュエットで聞かせる「ハッピー」とか、最高だ。「ダイスをころがせ」のキースによるイントロの切れ味とかもごきげん。

けど、やはり今回いちばんの聞き物はディスク2か。アルバムのレコーディング・セッションよりも後に録音されたジミー・ペイジ入りの曲も含め、まあ、確かにボツになるだけのことはある、今いちっぽい仕上がりかなとは思うけれど。やっぱりかっこいい。「クリス・クロス」のイントロ、キース・リチャーズによるのであろうギター・リフとか、どうしても抗いきれない。燃える。意外に軽やかに若々しくグルーヴするリズム隊も、推進力に満ちた歌声も新鮮。そうだよなぁ。まだこのレコーディングが行なわれていたころ、ミック・ジャガーは30歳前だったんだから。

「ダンシング・ウィズ・ミスターD」とか、完成ヴァージョンでは4拍裏から始まるトリッキーなギター・リフが印象的だったけれど、今回世に出た初期ヴァージョンのインストゥルメンタル・ジャムを聞くと、最初は4拍裏の引っかけがない、もっと普通のタイミングのリフだったことがわかって面白い。「ハートブレイカー」もアコースティック・ギターのアルペジオに導かれてぐっとクールにスタートする曲だったようで。そこにハードなホーン・セクションが絡んで、なかなか面白い効果を上げている。こっちのヴァージョンにも歌が入ってたらかっこよさそう。

歌入りの別ヴァージョンとしては、「100年前(100 Years Ago)」のピアノ・デモがけっこう泣ける。さらにグリン・ジョンズが1973年に手がけたという未発表ミックスも不敵な感触でいい。輸入盤だとグリン・ジョンズ・ミックスは3曲(「ダンシング・ウィズ・ミスターD」「ドゥー・ドゥー・ドゥー…」「シルヴァー・トレイン」)だけれど、日本盤フィジカルには「100年前」と「全てが音楽(Can You Hear The Music?)」も追加収録されている。ちなみにストリーミングおよびダウンロード配信だとその追加2曲はなし。代わりに「スカーレット」の別ミックス2曲が入っている。

というわけで、ぼくは現状、昨夜というか今朝というか、深夜0時にスタートしたストリーミングで楽しみつつ、こちらで書いた通り、輸入盤でプリオーダーしたスーパー・デラックス・エディションの到着を待っているところ。日本盤のみのボーナスはまた誰かに聞かせてもらおう。そういえばシノザワくん、今、どうしてるかな。持ってたら貸してくれないかなぁ…。

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