Disc Review

The Legendary 1979 No Nukes Concerts / Bruce Springsteen & The E Street Band (Columbia/Legacy)

ノー・ニュークス・コンサート1979/ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド

本ブログも含め、これまで何度も何度も繰り返し書いてきたことではありますが。すみません。また繰り返します。

この日本に暮らしながら、子供のころから半世紀以上、ずいぶんと長いこと海を遠く隔てたアメリカ生まれの音楽を愛し、聞き続けてきた身としては、過去ずいぶんと歯がゆい思いを経験してきた。ロック/ロックンロールの本場はやはり英米で。だから、日本人として生まれたぼくたちはスタート地点であらかじめハンデを負っている。しかも、けっこうでかいハンデだ。母国語が違うことからくる理解の遅さ/浅さ、身体にしみついたネイティヴなビート感の違い、宗教観の違い、リリース時期のずれ…。様々な障壁というか、文化の違いというか、そういったものを恨む機会は多かった気がする。

特に悔しいのが、本場、英米のロック・アーティストが上り調子のピークにいる瞬間を生で体験/目撃できない可能性が高いってこと。どんなアーティストでもいちばん魅力的に輝いて見えるのは、右肩上がりで成長を遂げているまっただ中の姿だと思うのだけれど。でも、さすがにこればかりは、ね。地の利の悪さはどうにもならない。よほど気合を入れないと無理。お金も時間もふんだんに必要になるし。本国のファンがうらやましい限り。

そんな思いをまた新たにすることとなったライヴ音源+映像の登場です。ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドの2CD+DVD『ノー・ニュークス・コンサート1979(The Legendary 1979 No Nukes Concerts)』。以前、ここでもフライングで盛り上がった通り、ボスとバンドとが1979年9月、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで催された反原発イベント、通称“ノー・ニュークス”に出演した際の圧倒的なライヴだ。

イベント自体は同月19日から23日にかけて、ドゥービー・ブラザーズ、ボニー・レイット、ジョン・ホール、ジェイムス・テイラー、カーリー・サイモン、ジャクソン・ブラウン、クロスビー・スティルス&ナッシュ、ライ・クーダー、トム・ペティ、チャカ・カーンら無数の意識的アーティストがかわるがわる出演して行なわれた。そんな中、ボスは21日と22日に出演。今回の音源および映像はその両日の記録を巧みに組み合わせる形で再構成されている。

スプリングスティーンの絶頂期はいつかに関しては、いろいろ意見が分かれると思う。1980年の『ザ・リヴァー』のときか、1984年の『ボーン・イン・ザ・USA』のときか、1986年にLP5枚組というボリュームの『ザ・ライヴ(Live/1975-85)』をリリースしたときか…。いずれにしても1980年代のどこかだろう。

で、そんな絶頂をきわめる、まさに直前の瞬間をとらえた生々しい記録が本作『ノー・ニュークス・コンサート1979』なわけで。これはやばい。さっき使った表現を繰り返すならば、まさに右肩上がりのとてつもないスピードで急成長を続けながら、前人未踏のピークに到達する直前、的な? 常人のピーク・ポイントなど遙か超えた地点で、しかしなおさらなる頂をめがけて熱い疾走を繰り広げるスプリングスティーン&Eストリート・バンドのリアルな姿がここにある。

以前も書いた通り、昔市販された“ノー・ニュークス”コンサート全体をドキュメンタリー的に収めたビデオ作品には「リヴァー(The River)」と「涙のサンダーロード(Thunder Road)」、そしてゲイリー・US・ボンズの「真夜中のロックンロール・パーティ(Quarter to Three)」のカヴァーという3曲だけしか入っていなかった。

LP3枚組というボリュームでリリースされたライヴ・アルバムのほうにはジャクソン・ブラウンとともに披露した「ステイ」のカヴァーと、ミッチ・ライダーのロックンロール・メドレー・ヒット2種、つまり「悪魔とモリー(Devil with a Blue Dress On/Good Golly Miss Molly)」(ショーティ・ロングの「デヴィル・ウィズ・ア・ブルー・ドレス・オン」とリトル・リチャードの「グッド・ゴリー・ミス・モリー」のメドレー)と、「ジェニ・ジェニNo.2(Jenny Take a Ride!)」(チャック・ウィリスらのレパートリーとして知られるブルース・スタンダード「シー・シー・ライダー」とリトル・リチャードの「ジェニ・ジェニ」のメドレー)とを腕尽くで合体させた必殺の超豪華長尺曲、通称“デトロイト・メドレー”が入っていた。

もちろん、これらだけでもぶっとびものの音源ではあった。件の“デトロイト・メドレー”は収録時間の関係か半分くらいの長さにエディットされた短縮ヴァージョンではあったものの、当時はあれで十分興奮できた。加えて、確か1984年くらいになって日本でも出回りだしたブートレッグ映像で、この“ノー・ニュークス”でのパフォーマンスをかなり長めに見ることもできて。ダビングのダビングのダビング…くらいの、文字通り裏ビデオ級のクオリティながら、そんな最悪の画質すらものともせず、ぼくはこの夜のスプリングスティーンの勢いを生々しく体験していた…つもりだった。

いやいや、ごめんなさい。せいぜい“つもり”でした。今回ちゃんとオフィシャルに出た映像+音源に接して、改めてぶっとんだ。本格ノックアウトを食らった。未公開の10曲を含む全13曲。フィジカルを手に入れればもちろん音も映像もまるごと楽しめる。音だけでよければサブスクのストリーミングで全部聞ける。ちなみに、映像だけでよければ、こちらは有料だけれどApple TVなどでも配信中だ。

くそー、やっぱりこの時期に見たかったなー。ボスが日本で初ライヴを披露してくれたのは、このときから6年後の1985年だ。あのとき、日本のロック・ファンの大多数がようやく彼のライヴを生で本格体験。ぼくも代々木体育館に通い詰めました。燃えました。でも、あれはもう、ある種のピークをきわめたあとのボスの姿で。さらなる高みめがけてぐいぐい上昇し続けていた1970年代の若きスプリングフィールドとはもはや別物のパフォーマンスだったのかも。

1970年代の激走あってこその1980年代。以前、1975年の英ハマースミス・オデオン公演の映像を見たときもそうだったけれど。またまた思い知らされた。この熱狂のライヴを追体験してはじめて、ようやくぼくたちはブルース・スプリングスティーンという男がどれほど凄まじい音楽家だったのかを知る、そのスタート地点に立つことができるのだ。

あー、まじ、このときのボス、生で見てみたかった。悔しいなー…。これ聞きまくりながら、泣く。

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