ADVERTISEMENT

Disc Review

At My Piano / Brian Wilson (Decca)

アット・マイ・ピアノ/ブライアン・ウィルソン

マジカルなコーラス・ハーモニー。驚きに満ちたアンサンブル。そんな魅力を誇るブライアン・ウィルソン、6年ぶりの最新ソロ・アルバムは、なんと自ら奏でるピアノだけによる、歌声いっさいなしのソロ・インストゥルメンタル作品だった。

あー、驚いた。

本作の国内盤のライナーノーツにも書かせていただいたことだけれども、ご存じの通り、ブライアンはけっして名ピアニストというわけではない。近年のライヴ・ステージでは確かにステージ中央に置かれたピアノの前に鎮座してパフォーマンスしてはいるけれど。実際のところ彼は気まぐれに時折鍵盤に触れる程度。そんなブライアンがたったひとりでピアノを弾いたという触れ込みのインスト・アルバムなのだ。大丈夫かな、と。まじ思った。偉そうな言い草ではあるけれど、心配になった。

でも、OK。杞憂だった。やっぱりブライアンの魔法は健在。ここには超絶的な運指テクニックも、原曲から思いきりかけ離れたアクロバティックなアレンジも、そういったものは何ひとつない。あるのはブライアンが訥々と奏でる超シンプルなピアノの響きのみ。にもかかわらず、この新作アルバムに詰め込まれた情報量はとてつもない。本作はブライアン・ウィルソンという希代のポップ・クリエイターによるマジカルなソングライティングの秘密を解明してくれる、うれしい謎解きの1枚なのだ。

内容としては、1960年代から1980年代にかけて彼がビーチ・ボーイズ名義で、あるいはソロ名義で、書いた膨大なオリジナル曲群から、特に彼のソングライター/アレンジャーとしての魅力を堪能できる代表曲をセレクトし、本人のピアノで再演した作品だ。といっても、けっして純粋なソロ・ピアノ作品というわけではなく、随所に的確なオーヴァーダビングが自然な形でほどこされている。ここも大きなポイントだ。

ブライアンの曲の場合、メロディがあって、それに和音の伴奏がついて…みたいな単純な構造になっていないことが多い。今回書いたライナーのほんの一部を引用しておくと――

ソングライターとしてのブライアンは、むしろクラシックの作曲家に近い考え方の下で曲作りをしている。彼が紡ぎ上げる楽曲というのは単にメロディと歌詞だけでできあがっているわけではない。コーラスも含めた音像全体のアンサンブル、和音の積み方、キーの設定、カウンター・メロディ、オブリガートのフレーズなど、すべてが揃って初めて機能する。

たとえば本作にも収録された「ドント・ウォーリー・ベイビー」という曲のサビの場合。ビーチ・ボーイズによるオリジナル・ヴァージョンを聞いてみると、聞く者の耳に主要素として届くのはメンバーのカール・ウィルソンやアル・ジャーディンらが“Don’t worry baby, don’t worry baby…”という歌詞を乗せて繰り返すハーモニー・パートだろう。それに対して、“Don’t worry baby, everything will turn out alright…”とファルセットで受け応えするブライアン・ウィルソンのリード・ヴォーカルがあって。さらに、それらの隙間を縫うように“Now don’t, now don’t you worry baby…”と低音で綴るマイク・ラヴによるベース・ヴォーカル・パートがある。

この3つのラインが、ポップなコード・アンサンブルの下、主従なく、絶妙に絡み合うことによってあの曲のサビができあがっている。どれひとつが欠けても「ドント・ウォリー・ベイビー」という曲にはならない。そのことが今回のブライアンのピアノ演奏によって確かな手応えとともに伝わってくる。ブライアンはそれら、必要最低限の(と同時に、無限大の可能性を孕んだ)要素を、どれひとつ省くことなくピアノで綴り、折り重ね、楽曲そのものの魅力をここで解析してみせてくれているわけだ。

プロデュースはブライアンと、近年の英国ロイヤル・フィル関連のポップ・プロジェクトを一手に手がけるクラシック・クロスオーヴァー系のニック・パトリック。ブライアン・ウィルソン・バンドの要でもあるワンダーミンツのダリアン・サハナジャが共同プロデューサー及びミュージカル・ディレクターとしてクレジットされている。

録音はダリアンの“トゥモロウズ・ラボ”で。レコーディングにはハートのサポート・メンバーとして人気を博し、近年はブライアン・バンドにも同行しているデビー・シェアも協力しているようだ。ミックスは、ストリングスのサンプリング・ライブラリーとしてもおなじみ、英スピットファイア・スタジオで、アビー・ロード・スタジオのシニア・エンジニアでもあるサイモン・ローズが行なった。

収録曲の詳しいことは、よろしければ国内盤ライナーのほうを…(笑)。

ぽわーんとした音像の、淡々とした1枚ながら。なんか、ものすごく吸引力のある仕上がりです。ぼんやり浸っていたら、ふと油断した隙に頭ぐるぐるにトリップしちゃいそうな気配も。やっぱブライアン。やばいやつです。12月に入ってから出るというヴァイナル(Amazon / Tower)も注文しましたー。楽しみー。

Resent Posts

-Disc Review
-,