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Disc Review

Mirage Garage / Liam Hayes (Weird Vacation)

ミラージ・ガラージ/リアム・ヘイズ

ミラージュ・ガレージ…とカタカナ表記するのが日本語的には自然なのかな。たぶん発音的にはミラージ・ガラージ。プラッシュ名義で、あるいはリアム・ヘイズ名義で、1990年代末からぽつりぽつりと良盤を出し続けるポップなシンガー・ソングライターの新作です。

この人、前作、2015年のアルバム『Slurrup』のリリースに合わせたツアーを終えたあと、肉体的にも精神的にもかなり疲弊してしまったらしく、しばしロサンゼルスで休暇をとって気分転換していたのだとか。そんなとき、元フリーホイーラーズのルーサー・ラッセルが声をかけてきた。なんでもルーサーさん、リアムがプラッシュ名義でリリースした98年のアルバム『More You Becomes You』が大好きだったそうで。一緒にデモを録らないか、と。

で、ロサンゼルス郊外のパサディナ・ガレージ入り。ルーサーがプロデューサー役をつとめ、ほぼ二人だけで大方の楽器をこなして、なるべくデジタルに頼らないアナログ・レコーディングを敢行した。どうやら懐かしの4トラック・マルチ・カセット・レコーダーを駆使しての作業だったらしい。が、デモとはいえかなり納得のいく音に仕上がったため、去年の夏、急遽リリースが決定。それが本作『Mirage Garage』だ。ただし、もともとカセットで録ったのだから、とかいう理由で、当初はカセットのみでのリリース。しかもリアムのWEBサイトだけでの限定通販だった。

カセットだけかぁ、もうテレコなんか持ってねーよ…と、情けなくもぼくは及び腰になって。去年は手を出さずじまい。ありがたいことに、音だけは YouTube に転がっていたので、そっちで聞いてすませていたのだけれど。ようやく Spotify や Apple Music でもストリーミングが始まりました! ダウンロード販売も開始。ぼくはとりあえずアマゾンで mp3 をゲット。今月下旬にはアナログも出るみたい。相変わらずCDは出さないようで。そこらへんには強いこだわりがあるのかも。

ちょいダウナー気味のマイナー調のフォーキー物とかも交えながら、相変わらずふわっと胸を高鳴らせてくれる素敵なコード進行を操りつつの1枚。ブライアン・ウィルソン、トッド・ラングレン、ジョージ・ハリスン、ジミー・ウェッブ、ハリー・ニルソン、ローラ・ニーロ…。魅力的な先達からの影響が目まぐるしくフラッシュバックしながら、でも今どきのクリエイターっぽいメンタリティが思いきり匂い立つ世界観へと帰結していく感じは、もう、間違いなくいつものリアム/プラッシュではある。

けど、なんか、こう、内省的な初々しさを取り戻したような。そんな感じも。つまり、ルーサー・ラッセルが大好きだったというデビュー作『More You Becomes You』へと立ち返ったかのような…。

ご存じの通り、『More You Becomes You』はほぼ全編ピアノ弾き語りふうの実にシンプルな1枚だった。ひたすら内省的で、不安定で、でも、ほのかにポップな香りに貫かれていて。妙に吸引力のある傑作。その後の彼のアルバムはもっとパワー・ポップっぽかったりグラム・ロックっぽかったり、だいぶ外向きに作り込まれるようになっていって。それはそれで成長だし。ぼくも存分に楽しませてもらってきたのだけれど。

ただ、今回はルーサーのおかげもあってか、明らかに『More You Becomes You』寄り。もちろん、あのアルバムのような弾き語り作ではなく、いろいろ他の楽器もそれなりに賑やかに入ってはいる。でも、感触というか空気感は間違いなく原点帰り。いい意味でパーソナルなベッドルーム・ポップ感満載だ。先述の通り、もともとはデモ・セッションだったことが奏功したのかも。

前作は1曲ほぼ2分前後みたいな、超コンパクトなポップ・アルバムだったけれど、今回はいきなりオープニングの「In Me/Again」から7分弱のプチ組曲ふう。今度の俺はちょっと違うよ…的な? この曲も含め、曲によってはヴォーカルを完全に片チャンネルに振っちゃっていたり。なんとも懐かしくシンプルな音像も西海岸のガレージで制作された4チャンネル音源っぽくて。とことんパーソナルな手触りに頬が緩みます。

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