Disc Review

Bewitched / Laufey (Self Released/AWAL Recordings America, Inc.)

ビウィッチド/レイヴェイ

6月に実現した一夜限りの初来日公演がいまだ忘れられないレイヴェイ。本ブログでも何かあるたびに盛り上がり続けてきましたが。

新作、出ましたー。フル・アルバムとしては去年の『エヴリシング・アイ・ノウ・アバウト・ラヴ』に続く2作目。途中に故郷アイスランドのレイキャビクでアイスランド交響楽団と共演したときのライヴ『ア・ナイト・アット・ザ・シンフォニー』のデジタル・リリースなどを挟んでの登場です。

来日コンサートのときも、声をひそめながら「セカンド・アルバム、実はもう完成してるの。今日はマネージャーがいないからその中からも歌っちゃうわ」とか、いたずらっぽくMCしていて。セットリストには本作の収録曲もいくつか。6月25日、ブルーノート東京では「フロム・ザ・スタート」、「ビウィッチド」、「プロミス」という先行公開されている自作曲、およびエロール・ガーナー作の「ミスティ」のカヴァーの4曲を披露。新作への期待感を大いに盛り上げてくれたっけ。

というわけで、そんな待望の新作。期待通りというか、期待を上回る仕上がりで。昨深夜、ストリーミングが解禁されてから、もう幸せ気分にひたりっぱなし。この子、ほんと偉い。

恋に不器用だった女の子が少しだけ成長して…みたいな歌詞世界はさすがにおじさんとして特に深く思い入れることができるわけもなく(笑)。まあ、オクテだった13歳の頃の自分に“くせっ毛のこととか、みんなに笑われた外国名のこととか、心配しなくていいのよ”と歌いかける「レター・トゥ・マイ・13イヤーズ・オールド・セルフ」あたり、ちょっとぐっときたりもするのだけれど。それはそれとして。

今回も曲がいい。カヴァーの「ミスティ」以外はすべてスペンサー・ステュワートらとの共作も含むレイヴェイのオリジナル曲。往年のパイド・パイパーズとかアニタ・カー・シンガーズのようなふくよかなアカペラ・コーラスで幕開け。以降、コーラス・ハーモニーやストリングス・アンサンブルをこれまで以上に導入しつつ、グレイト・アメリカン・ソングブックっぽいもの、映画音楽的なもの、クラシカルなもの、ボサノヴァものなどがずらり続く。

1曲だけ、ちょっとコンテンポラリーなグルーヴの曲が交じっているのは前作同様。でもその他はノスタルジックかつエヴァーグリーンな美メロの雨アラレだ。ともすれば古臭い文化として見過ごされがちな音楽性を今の時代へと有機的に受け継ぐこともまた、ものすごくポジティヴな在り方なのだという事実を改めて思い知らせてくれるうれしい新作アルバムです。

前出「レター・トゥ・マイ・13イヤーズ・オールド・セルフ」に、まわりのみんなと違うことに悩んでいた13歳の自分に“大丈夫、あなたはとても素敵よ”と伝えて抱きしめてあげたい…みたいな歌詞が出てくるのだけれど。いやいや、ほんと違っていてくれてありがとう、みたいな?

時代とともに“いい曲”の定義というか、受け止め方みたいなものはどんどん移ろってゆくわけですが。すべて新しいもののほうがいいわけではなく。時代の流れの中で単に“過去のもの”と見なされ、正当に評価されずじまいになりがちなポピュラー音楽の伝統的美学に大いなる未練を抱くぼくのようなタイプのリスナーにとって、そうした古き良き美学を全うするオリジナル曲を次々と書き、ギターやピアノやチェロを奏でながらキュートに、繊細に、ジェントルに、歌い綴ってくれるレイヴェイの存在は本当に頼もしく心強い。すごく興味深いのは、この子、ピアノも上手なのに、わりとギターの弾き語りにこだわっているところ。それがまた音像にいい感触をもたらしているような気がする。

フィジカルは10月27日発売だとか。今回もカラー・ヴァイナルを彼女のサイトで予約オーダーしているんだけど。まだ先だな。仕方ない。ブツが届くまではストリーミングで堪能します。もちろん今日からダウンロード販売はされているので、ハイレゾ、買っちゃおうかな。

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