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Practise Man, Practise: Carnegie Hall Broadcast 2004 / Brian Wilson (Unicorn)

プラクティス・マン、プラクティス:カーネギー・ホール・ブロードキャスト2004/ブライアン・ウィルソン

ブートまがいの…というか、完全にブートレッグ(笑)。2月ごろに出た1枚ではありますが。スロウバック・サーズデイってことで。17年前、2004年を懐かしんじゃおうかな、と。

ブライアン・ウィルソンが自慢のバック・バンドを引き連れて、2004年、米国ニューヨークの音楽の殿堂、カーネギー・ホール内のアイザック・スターン・オーディトリアムに出演したときのライヴ音源。FMでオンエアされたものだとか。それを、デヴィッド・ボウイだのニール・ヤングだのスティーリー・ダンだのモリッシーだの、そのあたりの放送音源をこの2〜3年、次々世に送り出しているユニコーン・レーベルがCD化。もちろん非公式リリースです。ダメだよ、と思いつつも、また手を出しちゃいました(笑)。まあ、放送のためということもあって、コンサートの完全収録ではなく、途中、かなりの曲数が省かれて1時間20分くらいに乱暴にエディットされてはいるのだけれど。

ただ、個人的な話でキョーシュクながら。このコンサート、ぼくも客席にいたもんで。思い出の一幕というか。詳しいことは当時のブログとか、以前もご紹介した拙著『50年目のスマイル〜ぼくはビーチ・ボーイズが大好き』とかにあれこれ書かせていただいたのでくどくは繰り返しませんが。

ご存じの通り、ブライアンはビーチ・ボーイズの新作として1967年にリリースが予定されていながら、もろもろの事情から途上で制作中止となってしまった幻のアルバム『SMiLE』を、2004年2月、英国ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールのステージ上、37年の歳月を経てついに完成へと導いた。それに続いてレコーディング・スタジオ入り。腕ききバック・バンドとともに『SMiLE』のスタジオ録音盤を作り上げ、同年9月にリリースした。このカーネーギー・ホール公演は、そんなスタジオ盤の『SMiLE』をプロモートするための全米ツアーの一環として行なわれたもの。で、アルバムがリリースされたあとの『SMiLE』をライヴで体験するのがどんな感じなのか味わってみたくて、ぼくは思わず無謀にも単身渡米しちゃったのでありました。

10月12日と13日、2日にわたって行なわれたコンサート。今回のブートに収められているのは13日の模様を編集したもの。ちょうどMLBアメリカン・リーグのチャンピオンシップ・シリーズの開幕と重なっていて。松井秀喜が在籍2年目を迎えていた地元ヤンキースとボストン・レッドソックスが因縁の闘いを繰り広げようとしている中での公演でもあり。客席でそっちも気にしてそわそわしている人が少なからずいたことを覚えている。懐かしい。

ライヴは、前半、まずアンプラグド・パートで始まって、『SMiLE』以外の様々な楽曲を披露するフル・バンド・パートに突入して、そのあと休憩を挟んで後半、『SMiLE』全曲演奏があって、アンコール。内容的には2月のロンドン初演とほぼ変わらず。でも、『SMiLE』パートは、スタジオ盤のレコーディングを経て、さらに細部、特にホーンやストリングスのアレンジが刷新されていた。新鮮だった。

「英雄と悪漢(Heroes and Villains)」の中盤に登場するアカペラ・パートにもストリングスが加えられていたり、“イン・ザ・カンティナ”パートの直前にベースのピックアップ・フレーズが付いていたり、「キャビネッセンス」のコーラス・パターンがより複雑になっていたり。ライヴを重ねる中で、少しずつ改良されてきていた感じ。ブライアンもけっこう随所随所、リード・ヴォーカルをフェイクしていたりして。

翌年1〜2月に実現した日本公演でも改めて感じたことだけれど、ほんのちょっと前までは誰ひとり完成形を思い描くこともできなかったあの幻の『SMiLE』が、こうしてちゃんと完成していて、アルバムとしてもオフィシャル・リリースされていて、ライヴの場でさらに進化しているという事実にたじろいだというか、うろたえたというか(笑)、泣けてきたというか…。

時の流れとか、リスナー側のスキルアップとか、そういったものが積み重なって、たとえばバルトークも、エリック・ドルフィーも、フランク・ザッパもすべてが古典として語られるようになっていくわけで。

そういう意味では、かつて世界最大の謎のひとつだった幻のアルバム『SMiLE』も、今やごくごくフツーのロック名盤のひとつ。『SMiLE』が謎にまみれた世界最大の幻のアルバムから、そういうフツーの名盤へと変質したまさに転換期を確認するものとして、このブート、軽く楽しもうかな、と。まあ、それでもブートはブートなので、おすすめはしません。コンサート前半からはもちろん、なんと『SMiLE』全曲演奏パートからも曲がカットされちゃったりしていて、ほんと、メモ程度に楽しむことしかできない1枚だし。ブログで取り上げておいてなんだそれはって感じですが(笑)。すんません。

しかし、『SMiLE』完成という歴史的な事件から、もう17年かぁ…。

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