Disc Review

These 13 / Jimbo Mathus & Andrew Bird (Thirty Tigers)

ジーズ13/ジムボ・マサス&アンドリュー・バード

ジムボ・マサスとアンドリュー・バード。けっこう古くからの仲で。二人は1994年、ノース・カロライナのフォーク・フェスで出くわしたのをきっかけに意気投合。バードさんがマサスさん率いるレトロ・スウィング・バンド、スクィーレル・ナット・ジッパーズに合流する形で、1996年の『ホット』から、97年のEP『ソールド・アウト』、98年の『ペレニアル・フェイヴァリッツ』のあたりまでメンバーとして在籍していた。

その後、バードは独立して自らのバンド、アンドリュー・バーズ・ボウル・オヴ・ファイアを結成。ソロ活動を開始した。とはいえ、ジッパーズとの関係も継続していて。2000年の『ベッドラム・ボールルーム』あたりまではなんだかんだとレコーディングにも客演していたものだ。ただし、ジッパーズの核を成していたジムボ・マサスとキャサリン・ホエイルン夫妻がそのころ離婚したこともあり、バンドはいったん休業。メンバーは散り散りに。そのため、マサスとバードはしばらく別々の場で活動することになった。

ジッパーズは2007年にライヴ・シーンで再始動。2010年代にかけてレコーディング活動も再開した。一方、アンドリュー・バードのほうは2003年以降、ソロ名義で次々と個性的なアルバムをリリースして、がっつり我が道を突き進んでいた。2010年、来日して見せてくれたソロ多重演奏ももはや伝説。2019年の傑作アルバム『マイ・ファイネスト・ワーク・イェット』は本ブログでも軽く取り上げました。

なもんで、この両者の共演、なかなか昔のような形で頻繁には聞かれなくなっていたのだけれど。そうは言っても、たまにバードがFacebookで披露しているミニ・コンサート・シリーズ“ライヴ・フロム・ザ・グレイト・ルーム”にマサスがゲスト出演していたり、反対にジッパーズの去年のアルバム『ロスト・ソングズ・オヴ・ドク・スーション』に収められていた「トレイン・オン・ファイア」って曲にバードのほうがゲスト参加して独特のフィドルを聞かせてくれていたり。その都度、うれしいような懐かしいような気分になったものだ。で、今回、こうして二人のデュオ・プロジェクトのレコーディングが本格的に実現することとあいなったのでした。めでたい。

ところが、これ、ジッパーズが得意とするホット・ジャズ/レトロ・スウィングものではなく、ジムボ・マサスのアコースティック・ギターと、アンドリュー・バードのフィドルと、たまにマンドリンとかバンジョーとか足踏みオルガンとかピアノとかと、二人それぞれの声と、もうそれだけで構成された、トラディショナルで、アパラチアンで、ホワイト・ゴスペル・ライクで、セイクレッドで、ナチュラルで、アーシーで、フォーキーで、ロウで、レアで、ウォームな…って、だんだん何書いてるんだかわからなくなってきましたが(笑)、そんな1枚。

世界がパンデミックに本格的にのみ込まれる前、2019年初頭と、2020年初頭にそれぞれセッションが行なわれたらしい。プロデュースはマイク・ヴァイオラ。スタジオにRCA-44リボンマイクを一本だけ立てて、その両側にマサスとバードがそれぞれ位置して、全曲、基本的にはアナログ・テープレコーダーで一発録りされたのだとか。ダビングも最低限。ほどなく世界中を巻き込む悲劇を予感していたかのような、シンプルかつ本質的なセッティングかも。

アルバム・タイトル通り、収録曲は全13曲。すべてマサスとバードの共作曲だ。大恐慌時代を思わせる悲嘆、落胆、喪失感、孤独感などに深く踏み込みながら、それらを巧みに現代へと二重写しにしていく。二人のコンビネーションもさすが昨日今日じゃない感じ。ブランクは長くとも、互いの持ち味をよく理解し合っている者たちならではの交歓というか。20年以上ずっと一緒にやってたかのよう。聞いていてじわじわくる。

21世紀のルーヴィン・ブラザーズだな、これ。

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