Disc Review

My Finest Work Yet / Andrew Bird (Loma Vista/Concord)

FinestWork

マイ・ファイネスト・ワーク・イェット/アンドリュー・バード

チャペル・ヒルを本拠に、ポスト・パンク世代ならではのネオ・スウィング・ミュージックをぶちかましていたスクィーレル・ナット・ジッパーズというバンドが、もう、ぼくは大好きで。このブログを開設する前、手探りでホームページを立ち上げた90年代後半から新作が出るたびに紹介してきたものだけれど。

そんなバンドの元メンバーで、脱退後も何かとコラボしていたフィドル奏者、アンドリュー・バードのことも当然大好き。アンドリュー・バーズ・ボウル・オヴ・ファイアってバンドのアルバムとか、ずいぶんと楽しく聞きまくったものだ。ノスタルジックな表層の裏側に、なんか、こう、デイヴィッド・リンドレーとかにも一脈通じる毒とか、やばい感触とかが流れていて。やけに気になる存在だった。

その後、ループを駆使してひとりで多彩な楽器を重ねていくライヴ・パフォーマンスが話題を呼んだり、納屋でアコースティック・アルバムを録音したり、峡谷や川辺でインスト・アルバムをフィールド・レコーディングしたり、映画音楽を手がけたり…。多彩かつ多才。そんな彼の新作は、2016年作品『アー・ユー・シリアス』以来のヴォーカルもの。ロサンゼルスのベアフット・スタジオにミュージシャン仲間とともに入り、それぞれセパレーションすることもなく、ヘッドフォンも装着せず、互いの音かぶりまくりでライヴ録音したらしい。彼にとってはこれもひとつのフィールド・レコーディングの在り方なのかも。

彼ならではのヴァイオリンの響きや、お得意の口笛も美しい。深みのあるアンサンブルのもと、しかし歌詞は相変わらず辛辣だ。ギリシャ神話、スペイン内戦、エドガー・フーヴァー、ヘイト、敵、戦争、爆弾、血、苦闘、怒り、政治的無関心など、刺激的な語が次々耳に流れ込んでくる。“地球が急速に自転する/口笛(警笛?)が通り過ぎる/耳に死をささやく/聞こえないふりをするな/ふりをするな…”と歌ったあと、美しい口笛が響く「マニフェスト」って曲とか、なんだかいろいろな意味で響く。

“今のところ最良の作品”というアルバム・タイトルも、ジャック=ルイ・ダヴィッドがフランス革命の指導者の死を描いた油彩画『マラーの死』をパロディにしたアルバム・ジャケットも、やけに意味深だ。

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