Disc Review

Amazing Grace: The Complete Recordings (4LP) / Aretha Franklin (Rhino/Atlantic)

AmazingGrace

アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン

スコット・ウォーカー他界の報せ。ショックだ…。

つい先日、このブログでディック・デイルの追悼をしたばかりだったし、ハル・ブレインのことを新聞に書かせてもらったりもした(有料会員でないと全文は読めないのかもしれないけれど、とりあえずリンクはこちらです)。去年の年末以降のことだけ思い起こしてみても、ハル・ブレインの偉大な相方でもあったジョー・オズボーン、レジー・ヤング、キャプテンことダリル・ドラゴン、ペギー・ヤングなど、数多くのベテラン音楽家たちがこの世を去った。

年齢的なこともある。仕方ないのかなとは思う。ぼくは今、60代前半で。俯瞰して見れば、誰もが人生の中で必ず体験せざるを得ないそういう時期を過ごしているだけなのかもしれない。彼らが残してくれたものが自分の中にどう息づいているか。それをいかに自分なりに躍動させられるか。大切なのはそっちだとは思う。とは思うけど。でも、寂しい。自分がもっともいきいきと、多感に文化に接していた時代というものの終焉を力尽くで思い知らされ続けているようでもあり。なんともやりきれない日々だ。

去年の夏、ソウル音楽の女王、アレサ・フランクリンが亡くなったときもショックだった。そのときも新聞に思いを綴らせていただいたっけ。そんな女王が半世紀近く前に行なったコンサートの模様を収めたドキュメンタリー映画『アメイジング・グレイス』が様々な曲折を経て、間もなくアメリカで一般公開されるらしい。

この映画、公開に至るまで本当にややこしい歴史をたどってきた。撮影されたのは1972年1月、ロサンゼルスのワッツ地区にあるニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で。監督はシドニー・ポラック。なんでも、カーティス・メイフィールドが音楽を担当したブラック・ムーヴィー『スーパーフライ』との2本立てで公開される予定でワーナー・ブラザーズが制作が進めていたものだとか。

ところが、撮影したものの、音がまったく同期されておらず、当時としては編集がほぼ不可能。音のほうだけは大傑作2枚組『Amazing Grace(邦題:至上の愛〜チャーチ・コンサート〜)』と題されてリリースされたが、映画は結局お蔵入り。幻の1本としてマニアの間で長らく語り継がれてきた。が、2007年、プロデューサーのアラン・エリオットがワーナーからプロジェクトの権利を買い取り、デジタル技術を駆使して音と映像の同期に成功。2015年ごろ、ついに上映が実現するかと思ったのもつかの間、なんと今度はアレサ・フランクリンの弁護士が上映中止を求める訴訟を起こしたため、公開中止に…。

ごたごたが続いた。が、2008年にポラック監督が、2018年にアレサがそれぞれ他界。さまざまな思惑のすれ違いも歳月が解決したか、アレサの遺族もこの映画が伝えるアレサの底力のようなものの大切さを鑑み、去年の末、映画祭での上映が決定。今年の4月からアメリカでの一般公開も実現するようだ。素晴らしい。予告編を見るだけで鳥肌もの。と、そんな映画公開に合わせて、米ライノ・レコードがライヴ音源の完全版をアナログ盤LP4枚組としてリリースした。それが本作だ。

先述したオリジナル・ライヴ・アルバム『至上の愛〜チャーチ・コンサート〜』は72年1月13日と14日、2日にわたって行なわれた教会コンサートから出来のいいパフォーマンスをセレクトして、オーヴァーダビングなどもほどこしたうえでLP2枚に凝縮したものだった。それはそれで、実に感動的な2枚組だったのだけれど。その2日にわたるコンサートの音源すべてを、1日ごと1枚ずつのCDに完全収録したCD2枚組が1999年にリリースされたことがあって。これにはぶっとんだ。

コーネル・デュプリー(ギター)、バーナード・パーディ(ドラム)、チャック・レイニー(ベース)らがバックアップする演奏も、聖歌隊のコーラスも、ジェームズ・クリーヴランド牧師の深いスピーチと渋い歌声も、もちろんアレサの歌唱とピアノも、すべてが素晴らしすぎ。著名な牧師であり公民権運動活動家だったアレサの父親、C.L.フランクリンも登場する。ソウル・ミュージックというものがどんな土壌の上に成り立っているのか、その一端を力強く垣間見せてくれたものだ。聴衆の中には重要なゴスペル作家/歌手でもあるクララ・ワードや、レコーディングのためにロサンゼルスを訪れていたミック・ジャガーの姿もあった。

それを初めてアナログ盤化したのが本LP4枚組。すでにCDでお持ちの方には必要ないっちゃ必要ないセットではある。ストリーミングですませることもできる。もちろん、いつものようにアップル・ミュージックのストリーミングにリンクは張っておきます。でも、やっぱりこういう決定的な音楽的瞬間の記録は、あくまでもぼくの世代としての感覚での話ではあるのだけれど、昔から慣れ親しんできたアナログ盤で持っていたいんだよなぁ…。一緒に傷ついたり、すり切れたり、ちょっと汚れたりしながら時をともにしていくアナログ盤で、ね。

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