Disc Review

No Matter What: Revisiting the Hits / Badfinger (Cleopatra Records)

ノー・マター・ホワット:リヴィジッティング・ザ・ヒッツ/バッドフィンガー

去年の秋、本ブログでも久々の新作ソロ・アルバムを取り上げたジョーイ・モーランド。

以前のそのエントリーでも書いたことだけれど。元バッドフィンガーの一員で。オリジナル・メンバーというわけではないけれど、彼らがアイヴィーズという名前で活動していたバンド黎明期を経て、やがてバッドフィンガーと改名することになった時期、1970年にギタリストとして加入。以降、出たり入ったりしながら1981年まで在籍していた。

一般的にバッドフィンガーというと、まだパンサーズと名乗っていた創設期からの中心メンバーであるピート・ハム(ギター)と、アイヴィーズに改名してから加入したマイク・ギビンズ(ドラム)とトム・エヴァンス(ギター、ベース)、そしてこのジョーイ・モーランド…という4人のことを指す場合が多い。

でも、ご存じの通り、ピートは1975年に、トムが1983年に、そしてマイクも2005年に他界。他にも時期によってボブ・ジャクソンとかジョー・タンシンとかトニー・ケイとかイアン・ウォレスとかマーク・ヒーリーとか、いろいろなメンバーが出入りしてはいるけれど、主要メンバーという意味で今や存命なのはジョーイだけ。なもんで、ジョーイは今やピートやトムが果たしていた役割まで担いながらバッドフィンガー独自のパワー・ポップ・サウンドを今の時代へと継承。それを自身のソロ名義で聞かせてくれたのが去年のソロ・アルバムだったわけだけれど。

ジョーイは今度、なんと、バッドフィンガーというずばりのバンド名を使いながら、往年の代表曲を再演するアルバムを作り上げてみせた。それも1曲ごとに豪華な音楽仲間たちを迎えながらの黄金時代再訪企画だ。おいおい、そんなことしちゃっていいのかよ…とか思わないと言ったらウソになるけれど、それでもやっぱり、往年の彼らから多くのパワー・ポップならではの快感を受け取らせてもらってきた身としては、ちょっとうれしい(笑)。

去年の半ばごろからちょこちょこシングル・リリースされてきたものも含めて、ついにアルバムが完成。オープニングからけっこう意外なゲストが登場してくる。まずはファンキーでドラマチックなオルガン・プレイとソウルフルな歌声でおなじみ、ヴァニラ・ファッジのマーク・スタイン。彼を迎えて今回のアルバム・タイトル・チューンでもある「嵐の恋(No Matter What)」をぶちかます。

以降、リック・ウェイクマン、バッキンガムズのカール・ジャマリーズ、ジェスロ・タルのイアン・アンダーソン、テリー・リード、リック・スプリングフィールド、マシュー・スウィート、ザ・レジェンダリー・ピンク・ドッツ、サニー・ランドレス、アルバート・リー、そしてトッド・ラングレンらが次々登場。

絶対に外せない縁深いゲストもいれば、かなり意外な人選も見られて。楽しい。アレンジ的にもオリジナル・ヴァージョンにほぼ忠実に展開するものもあれば、オリジナルとはひと味違う展開を聞かせるものもある。ピンク・フロイドっぽい音像が新鮮なカール・ジャマリーズ参加の「アイ・ドント・マインド」とか、イアン・アンダーソンのフルートとマンチェスター弦楽四重奏団による室内楽的アンサンブルが付加された「デイ・アフター・デイ」とか、レジェンダリー・ピンク・ドッツの、メロウだけれど、どこかエクスペリメンタル的なアプローチが興味深い「ミッドナイト・コーラー」とか、サニー・ランドレスが“スライド・ギターってのはこうやって弾くんだぜ”とばかりに暴れる「スーツケース」とか…。かつてバッドフィンガーのプロデュースを手がけたこともあるトッド・ラングレン参加の「ウィズアウト・ユー」とか、人脈的にも聞きものだ。

もちろんどの曲も、正直、オリジナル・ヴァージョンに勝ることができるわけもないのだけれど。それでも、これだけの顔ぶれがジョーイ・モーランドの呼びかけに応えて一堂に集い、しかも“バッドフィンガー”というグループ名の下、代表曲を再演するアルバムを作ったという事実には胸が高鳴る。ストリーミング、ダウンロード、フィジカルCDなどに加えて、ユニオンジャックの三色仕様限定ヴァイナル(Amazon / Tower)も…!

バッドフィンガーとラズベリーズはやっぱり特別です。別格です。

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