Disc Review TBT

Cool for Cats + Argybargy + East Side Story (Hi-Res) / Squeeze (A&M/UMG)

クール・フォー・キャッツ+アージーバージー+イースト・サイド・ストーリー(ハイレゾ版)/スクイーズ

“ポップ”というコンセプトの周りをくるくると飛び回りながら、あ、今こっちに行けばものすごくおいしい展開になるのに…というときとか、しかし必ずふっと引き返しちゃうみたいな、そういう感じでえんえんひねくれ続けるクールなソングライター・チーム。ぼくにとって、クリス・ディフォード&グレン・ティルブルックというのはそんなイメージだ。

というわけで、この二人が核を成すバンド、スクイーズ。特に何か新たなフィジカル・リリースがあるわけではないのだけれど、1980年前後の代表作3枚がこのほどめでたくハイレゾ発売されたもんで。で、それ買って超うれしいもんで。スロウバック・サーズデイでもあるし、軽く振り返っちゃおうかな、と。

今回ハイレゾ化発売されたのは、1979年のセカンド・アルバム『クール・フォー・キャッツ』、1980年の『アージーバージー』、1981年の『イースト・サイド・ストーリー』の3作。

デビュー当初はジョン・ケイルのプロデュースの下、憧れのヴェルヴェット・アンダーグラウンドの風味もそれなりにたたえたパンク〜ニュー・ウェイヴ・サウンドを聞かせていたスクイーズ。いわゆるニュー・ウェイヴもの一般が今ひとつ苦手だったぼくは若干、腰を引き気味にしながら接していたのだけれど。それでも、そうした音像のところどころに見え隠れするディフォード&ティルブルックならではの甘いコーラスとかオールディーズっぽいコード進行とか、そういう隠し味的ポップ・テイストには妙に惹かれたことを覚えている。

なもんで、ディフォード(ギター)、ティルブルック(ギター)、ギルソン・レイヴィス(ドラム)、ジュールズ・ホランド(キーボード)というデビュー以来の4人に、メンバーチェンジでジョン・ベントリー(ベース)が新たに加わったラインアップで録音された『クール・フォー・キャッツ』が出て、そのあたりのユニークなポップ感覚がぐっと表に出てくるとともに、ぼくは一気にスクイーズにハマっていくようになった。

オープニングのミュンヘン・ディスコっぽい「スラップ&ティクル」の音像は、正直、当時のぼくにはピンとこなかったのだけれど、そこにもふんわか漂っていたビートルズ・テイストにはやられた。マージー・ビートの最新型的展開みたいな「レヴュー」も好きだった。ぐいぐいロックンロールする「タッチング・ミー、タッチング・ユー」とか「イッツ・ソー・ダーティ」とか、あとシングルとしてもヒットした「アップ・ザ・ジャンクション」とか、もう最高にごきげんだった。

続く『アージーバージー』もよく聞いた。若者の恋愛と、彼らの両親との関係性というか、距離感というか、探り合いというか、なんかそういう微妙な心情を屈折した眼差しで綴った「セパレイト・ベッズ」とか、ソングライターとしてのディフォード&ティルブルックの底力が発揮されているようで、はっとさせられたものだ。やはり彼ららしい屈折感が楽しめるオープニング曲「プリング・マッスルズ」の途中でちらっと聞こえるニューオーリンズR&Bっぽいジュールズ・ホランドのピアノ・プレイとか、たまらなくかっこよかった。「恋の傷跡(Another Nail in My Heart)」の音像の奥で鳴っているオルガンのチープな響きもよかった。ジュールズってすごいんだなとこのとき本格的に思った。

が、個人的にも、世の中的にも、スクイーズといえば何と言ってもその次。ジュールズがテレビの仕事を優先させるために脱退して、代わりに元エイスのポール・キャラックが加入したラインアップで制作された『イースト・サイド・ストーリー』。これが最高だ。思いきり個人史的に言えば、これ、ちょうどぼくが某出版社を退職したタイミングで出たアルバムだったこともあり。特によく聞いたなぁ。なにせ毎日、特に仕事もなく、超ヒマだったもんで…(笑)。

エルヴィス・コステロがプロデュース。ソングライターとしてのディフォード&ティルブルックの多彩さ、幅広さがいい形で結実した1枚だった。オープニングを飾るポップ・ソウル・チューン「イン・クインテッセンス」だけはデイヴ・エドモンズのプロデュースだったけれど。もう、この曲から快調で。スティーヴ・クロッパーみたいなギター・リフに導かれながら、まあ、たぶん、こう、マスターベーションのことを歌っているんだろうな、みたいな曲で(笑)。さすがスクイーズ。内向きなんだか外向きなんだかわからない感触に感服したものです。

ポール・キャラックがリード・ヴォーカルをとった「テンプテッド」も忘れられない名曲だった。アメリカでもちょこっとヒットした。ジュールズ・ホランドとはまたひと味違う、キャラックならではのソウルフルなオルガン・プレイも存分に楽しめた。去年の秋に本ブログでも取り上げた最新ソロとかに比べて、ぐっと若々しいポール・キャラックもやっぱりいい。

そういえば、プロデュースを手がけたエルヴィス・コステロもこの年、ちょっと後になってから彼なりの傑作カントリー・アルバム『オールモスト・イン・ブルー』をリリースすることになるのだけれど。その前哨戦という感じだったのか、スクイーズも彼らなりのカントリー・ソング「レーベルド・ウィズ・ラヴ」をアルバムに収めていた。シングル・ヒットもした。これものほほんとしていて好きだったな。

あと、デル・ニューマン編曲による弦楽アンサンブルが素敵な「ヴァニティ・フェア」とか、この年の始めにデビューしたストレイ・キャッツを意識したというロカビリーもの「メスト・アラウンド」とか…あ、いやいや、すんません、だらだらと好きな曲を書き連ねているだけになってしまった(笑)。今回のハイレゾ版を聞きながら、すっかり懐かしい気分にずぶずぶのめり込んだハギワラでした。真っ向からのスロウバック・サーズデイのエントリーだな、これ。何の役にも立たない記事で、ほんと申し訳ないです。

ハイレゾに興味のある方、チェックしてみてください。ベースとかキックとか、すげえかっこよく響いてます。レコード棚のどこか奥のほうにしまい込まれているスクイーズのオリジナル・アナログ盤、がんばって引っ張り出そうかな…。

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