Disc Review

Mambo Sinuendo / Ry Cooder, Manuel Galban (Nonesuch)

マンボ・シヌエンド/ライ・クーダー、マヌエル・ガルバン

フィル・スペクター、殺人容疑で逮捕…って。それもジョー・ミークの命日に。なんとも不気味な符合。もちろん、いまだスペクター逮捕に関する真相は明らかになっていないわけですが。彼にまつわる新たな伝説がまた生まれてしまった、と。これが最後の伝説にならないことを心から祈るばかりです。

で、こないだの金曜日、1月31日、東京国際フォーラムAでシカゴ見てきました。ブライアン・ウィルソンにせよ、ポール・マッカートニーにせよ、チャック・ベリーにせよ、ジェームス・ブラウンにせよ、その種の超ベテラン・アーティストのライヴを体験するときにいつも思うことだけれど、むちゃくちゃよかったと言えばむちゃくちゃよかったし、全然ダメっちゃ全然ダメだし(笑)。が、とにかく、今40歳代のアメリカン・ロック・ファンとして、思い切り楽しいひとときを過ごせたことだけは確かです。

今、シカゴの音源の権利を管理している米ライノ・レコードのスタッフも同行していて。知人なもんで。ライヴが終わったあと、バックステージに入れてもらえました。今やシカゴは結成以来のオリジナル・メンバーが4人だけ。ヴォーカル/キーボードのロバート・ラムと、ジェームス・パンコウ、ウォルト・バラゼイダー、リー・ロクネインというホーン・セクションの3人。このうち、ロバート、ジェームス、ウォルトと話をすることができた。みんな、「今日は観客のノリが最高だったので、本当に気分よくやれた」と盛り上がっていて。まあ、多少の社交辞令も含まれていたかなとは思うけど。実際、かなり高めの年齢層にもかかわらずぼくを含む観客はそれなりにノリノリだったし。「明日はもっと盛り上がるぞ」と、メンバーみんな、けっこう心から満足しているふうには見えた。

セットリストも載せておくけど、一目瞭然、往年のビッグ・ヒット連発のグレーテスト・ヒット・ライヴ。同趣向のセットリストで去年の暮れ、ぼくたちを驚喜させてくれたポール・マッカートニーでさえ数曲交えていた新曲のようなものはまるでなし。純粋な新作オリジナル・アルバムってのがしばらく出ていないだけに、当然っちゃ当然か。この辺をどうとらえるかが、このライヴの成否を判断する大きな境目になりそう。そういえば、今から15~16年前、ロバート・ラムと途中加入のジェイソン・シェフにTVインタビューしたことがあって。その撮影の合間、ビーチ・ボーイズと一緒にやっていた往年の“ビーチカゴ・ツアー”のこととか、いろいろ雑談していたら、ロバートがひとことぽつりと「We live in past」って言ったことがあって。

ぼくとロバートと、ふたりだけで雑談していたので、それまでは周囲もそれぞれざわついていた。ロバートの口調も冗談っぽいものではあった。けど、このひとことをきっかけに、シカゴのスタッフも含めた全員が一気にシーンと静まりかえったのを今でも鮮明に覚えている。このポイントがね。なかなかやっかいで。ただ、ぼくはそのとき「シカゴやビーチ・ボーイズが今、過去に生きているのかどうか、それはメンバー自身にしかわからないだろうけど、あなた方が過去に生み出した音楽自体は、そのままの形で今も確実に現役で生き続けていると思う」というようなことを答えた。で、今回もまさにそんなことを思い知らされたライヴだった。

確かにオリジナル・メンバーが4人のみ。テリー・キャスも、ピーター・セテラもいないこのバンドをシカゴと呼べるのかという疑問を呈する人もいるとは思う。まあ、たとえばドゥービー・ブラザーズとか。野太い個性が売り物のオリジナル・ドゥービーズが、徐々にメンバーを増やしていって。けど、マイケル・マクドナルドの加入をキッカケに洗練されたアダルト・コンテンポラリー・バンドに変身。やがてリード・シンガーのトム・ジョンストンらオリジナル・メンバーが次々脱退。すっかり別物のバンドになって。解散。その後、マクドナルド抜きのオリジナル・ラインアップで再結成。またまた野太いアメリカン・ロックで返り咲いたり…。メンバー・チェンジを頻繁に重ねるバンドは、そのたびにサウンドの手触りを変え、やがて別物バンドになっちゃうことが多い。

でも、中にはそうじゃない頼もしいバンドもいる。タワー・オヴ・パワーとかもそうだね。彼らの場合、バンドの顔であるところのリード・ボーカルでさえコロコロ変わる。ドラムも変わる。ベースも変わる。ギターも変わる。これだけ変わればサウンドが変わったって不思議はないのだけど。でも、変わらないのだ。メンバーが変わっても、歌声が変わっても、TOPがぼくたちにプレゼントしてくれる痛快なサウンドの手触りは全く変わらない。秘密は。そう。ホーン・セクション。名手グレッグ・アダムズを中心とする、無敵のホーン・セクションが不動である限り、TOPの音は変わらない。シカゴもこれとほぼ同じだ。ホーン・セクションがオリジナル・メンバーのまま残っていて、デビュー当時3人いたリード・シンガーのうちのひとりであり、重要なソングライターであるロバート・ラムがいて。これだけで、きっちりシカゴであり続けられる。

今回、ジェイソン・シェフとも話をしたのだけれど、途中加入とはいえ、シカゴに入ってもう17年と言っていた。オリジナル・メンバーみたいなものだね…と言ったら、「いやー、とんでもない」って笑っていたけど、なんだかすごくうれしそうだった。ビル・チャンプリンに至っては82年に参加しているから、もう21年目。67年にバンドが結成されてから85年まで在籍したピーター・セテラよりも、すでに長い期間、シカゴの一員でいるわけだ。もちろんオリジナル・ラインアップの絶対的な“力”ってのがあって。それを超えることは、たぶん無理だとは思うものの。これはこれで、ベテラン・バンドのひとつの在り方って感じ。再結成リトル・フィートあたりにも同じ肌触りがある。

そんなことで、たっぷり楽しんだシカゴの最新来日公演。セットリストはこんな感じでした。

  1. Ballet For A Girl In Buchannon
    1. Make Me Smile
    2. So Much To Say, So Much To Give
    3. Anxiety's Moment
    4. West Virginia Fantasies
    5. Colour My World
    6. To Be Free
    7. Now More Than Ever
  2. Your're The Inspiration
  3. If You Leave Me Now
  4. Hard Habit To Break
  5. Old Days
  6. Look Away
  7. (I've Been) Searchin' So Long ~ Mongonucleosis
  8. Dialogue (Part I & II) 
    --Acoustic Set--
  9. Canon
  10. Here In My Heart
  11. Happy Man
  12. Another Rainy Day In New York City 
    --Full Band--
  13. Saturday In The Park
  14. Feelin' Stronger Every Day
  15. Just You 'n' Me
  16. Beginnings
  17. Does Anybody Really Know What Time It Is?
  18. I'm A Man
  19. Hard To Say I'm Sorry ~ Get Away 
    --Encore--
  20. Free
  21. 25 Or 6 To 4

てことで、ずいぶんと長い前置きに続いて、ようやく今回のピック・アルバムです。ライ・クーダーの新作。50年代、キューバで大人気だったというロス・サンフィーロスのメンバーでもあるギタリスト、マヌエル・ガルバンとの共作によるインスト盤だ。ブエナ・ビスタ系のアルバムでもすでに共演していたふたりだけれど、ここではギターを主役にがっちりタッグを組んでいる。ライ・クーダー側から見ると、サントラではない本人名義のアルバムとしては87年の『ゲット・リズム』以来。共演盤としては、93年のアリ・ファルカ・トゥーレとの『トーキング・ティンブクトゥ』や、V・M・バットとの『ミーティング・バイ・ザ・リバー』以来。

ジム・ケルトナーと、ライの息子ヨアキムとがダブル・ドラムで参加。そこに元イラケレのパーカッション、ミゲル・“アンガ”・ディアスと、ベースのオルランド・“カチャイート”・ロペスが加わり、ライとマヌエルのダブル・ギター…というアメリカ/キューバ混成の6人編成で展開するめくるめくスウィンギン・キューバン・ミュージック・ワールドだ。たった6人で、これほど深く、雄大なグルーヴを紡ぎ出せるなんて。もう最高。余裕とユーモア感覚も心憎い。

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