Disc Review

Countdown to Ecstasy (Vinyl, Remastered 2023) / Steely Dan (Geffen/UMG)

エクスタシー(2023年リマスターLP)/スティーリー・ダン

去年の11月にスタートしたスティーリー・ダンのアナログ盤再発シリーズ。ドナルド・フェイゲン自らによる監修の下、1972年から1980年にかけてリリースされたオリジナル・アルバム群をバーニー・グランドマンのリマスター、アレックス・アブラッシュのマスタリング/カッティングによる最新音源で超高品質180グラム重量盤ヴァイナルLPで順次復刻していくというもので。

その第1弾『キャント・バイ・ア・スリル』のことは本ブログでもここで紹介したけれど。いよいよ第2弾が届けられましたよー。1973年7月リリースのセカンド・アルバム『エクスタシー(Countdown to Ecstasy)』。

以前のエントリーでも触れたことを繰り返すと、もともとソングライター・チームとして活動していたドナルド・フェイゲン&ウォルター・ベッカーが自身アーティストとしてデビューするため、プロデューサーのゲイリー・カッツの後押しを受けつつとりあえず結成したバンドがスティーリー・ダンだった。

メンバーはフェイゲン(キーボード、ヴォーカル)、ベッカー(ベース)、デニー・ダイアス(ギター)、ジェフ“スカンク”バクスター(ギター)、ジム・ホッダー(ドラム)。さらに、フェイゲンがまだリード・シンガーとして自信が持てなかったということで、元ミドル・クラスのヴォーカリスト、デヴィッド・パーマーも参加。この6人体制で1972年にデビュー作『キャント・バイ・ア・スリル』を制作して。シングル「ドゥ・イット・アゲイン」もヒットして。

が、以前も書いた通り、当時の彼らにとってライヴ活動がネックになった。スタジオ志向の強いフェイゲン&ベッカーにとって、ライヴ活動は苦痛そのもの。ということで、スティーリー・ダンは以降、アルバムを重ねるごとに正規メンバーをひとり、またひとりと削り落とし、徐々に普通のバンド形式ではない、フェイゲン&ベッカーを核に据えた、編成的には変幻自在のスタジオ・プロジェクトへと変化していくことになるわけだけれど。

そんな変化が本格化する直前、過渡期に制作された1枚が本セカンド・アルバム『エクスタシー』だ。ヴォーカルのデヴィッド・パーマーが正式メンバーを外れてバック・コーラスに参加するのみとなり、バンドは5人編成に。基本的にはこのバンドのアルバムとしてアレンジされてはいるものの、曲によってはベースのレイ・ブラウン、ギターのリック・デリンジャー、ヴィブラフォンのヴィクター・フェルドマン、ホーンのアーニー・ワッツやジョニー・ロテラ、コーラスのシャーリー&マーナ・マシューズやパトリシア・ホールなど、前作以上に外部ミュージシャンを大胆かつ効果的に導入。フェイゲン、ベッカー、そしてゲイリー・カッツという3人によるプロジェクトとしての野望がぐんぐん露わになってきている感じだ。

とはいえ、まだバンドらしさも残っているところが本作の面白いところ。このアルバムではドナルド・フェイゲンが全曲でキーボードを弾いているのだけれど、そんなこと、その後2003年の『エヴリシング・マスト・ゴー』まで一度もなかった。音楽的にも、後の『エイジャ』あたりで炸裂するジャズっぽさのようなものの萌芽が聞き取れはするものの、同時に、よりロックっぽい感触も強い。

ロック・バンドっぽさと非ロック系サウンド・クリエイト・ユニットっぽさとのスリリングな共存。それが本作『エクスタシー』の魅力だろう。「菩薩(Bodhisattva)」とか「ユア・ゴールド・ティース」とか大好きだったなぁ。

ぼくは今回も『キャント・バイ・ア・スリル』同様、盤ではなく192kHz/24bitのハイレゾ音源でゲットしました。通常の33 1/3回転180グラム盤が5月26日に出た他、それに先駆けて3月、アナログ・プロダクションズによる45回転UHQR版(Amazon / Tower)ってのも出てます。これは細部までこだわってプレスされた200グラム透明ヴァイナル2枚組で。豪華なボックス仕様。ただ、アホみたいに高価で手が出ません(笑)。SACDハイブリッド盤もあって、こっちは少しは安いけど…。まあ、いいや。昔のアナログ日本盤、持ってるんだから。ここはハイレゾでぐっと我慢しますよ。

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