Disc Review

Kassi Valazza Knows Nothing / Kassi Valazza (Fluff and Gravy Records)

キャシー・ヴァラーサ・ノウズ・ナッシング/キャシー・ヴァラーサ

一見、1960年代モダン・フォーク・シンガーの再来のように見えつつ、しかし同時に今どきっぽいオルタナ感というかやばめのカルト感にも満ち満ちている面白い個性。往年のカレン・ダルトンやサンディ・デニーあたりを想起させるなんとも魅力的なシンガー・ソングライター、キャシー・ヴァラーサの新作です。

米アリゾナ州出身で、現在はちょっと屈折したルーツ・ミュージックの担い手たちがひしめくオレゴン州ポートランドを本拠に活動中。

2019年の初フル・アルバム『ディア・デッド・デイズ』も、グラム・パーソンズっぽいコズミックでちょっとサイケなカントリー・ロック・サウンドに乗せて展開する吸引力に満ちた1枚だったけれど。今回のセカンド・フル・アルバム『キャシー・ヴァラーサ・ノウズ・ナッシング』はよりシンプルでオーガニックな音作りに貫かれた一作。去年の4曲入りEP『ハイウェイ・サウンズ』での試行錯誤をさらに発展させた感じかな。

ポートランドの“アワ・レディ・オヴ・パーペチャル・ヒート・レコーディング・スタジオ&スパ”なるスタジオで、“ザ・ホーリー・ノウ・ナッシングズ”を名乗るミュージシャンたちとほぼ一発録りでレコーディングされたらしい。ほぼすべて自作曲で、ラストの「ワイルダギーシズ」だけ、オレゴン仲間のベテラン、マイケル・ハーリーのレパートリーのカヴァー。バンドの面々はスタジオで初めて素直な耳で曲を聞き、あまりいじり回すことなくナチュラルにバックアップ。それが奏功したか、彼女の曲作り、物語作りの巧みさがより際立つ1枚に仕上がっている。

オープニング・チューン「ルーム・イン・ザ・シティ」では、“風が舞うハイウェイの喧噪の中を漂う/銅色。孤独な意味探し/それらが私を連れ戻し、振り返らせる/私たちは都会で部屋を手に入れた/黄ばんだ壁が仲間でいてくれる…”とか歌っていて。どこか他の場所に行きたいという思いと、ひとつところに落ち着きたい思いとが複雑に入り乱れるさまがふわっと描かれていく。そうした複雑な感情の交錯具合が以降のどの曲にも魅力的に盛り込まれている感じ。

続く「ラプチャー」では、“孤独な宵がやってくる。この炎が私をつらく冷たいまま置き去りにする/私たちの身体が老いていくのを見届けよう/「あなたは正しかったわ」と私がささやくのが聞こえるはず/あなたは私の悲しみを笑う。とても空虚で、空っぽで、バカだった/そのことは私のほうがよく知ってる/このすべてのルールを作り上げたことを…”みたいなことを歌っていて。

まあ、ぼく程度の英語力だと、実は何言ってるのか今ひとつよくわかっていないのだけれど(笑)。なんだか惹きつけられるのは事実。うまくいかない恋愛とか、恋の終わりとかの描き方もけっこう切なくて。「コーナーズ」という曲に、“考える時間がほしいとあなたに告げてから朝がやってこない/今あなたはただの囁き、ただの概念/夜中に読むただの物語…”みたいな表現があったり。「スマイル」って曲では、“灯りを点けたままにしておくこともできた/確信が持てないと打ち明けることだってできた/風があなたを私のもとに連れてくる/けど、それもどうでもよくなっちゃったわ…”とか。

かと思えば終盤に出てくる「ウェルカム・ソング」とかでは決定的な憎悪をパートナーにたたきつけるようなことを歌っていたり。なんだか魅力的なストーリーテラーだと思います。

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