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Disc Review

Fine / Lenny Williams (Bridle Ridge Records)

ファイン/レニー・ウィリアムズ

日本時間だと昨日、日曜日の朝9時からライヴ配信された『One World: Together at Home』。Twitterでもつぶやかせてもらったけど、音楽家だけでなく司会者、俳優、スポーツ選手、医療最前線の方々、関係各団体のスタッフ、スーパーの店員さん、流通/デリバリーの担い手たち…。多分野の人たちが集っての現状報告と励まし合い。素敵な2時間だった。“One World”という副題。日本はちゃんと胸を張ってその“世界”の一員でいられているのかな…という複雑な思いも、ちょっと脳裏をよぎったり。

改めて、しっかり日々を過ごさねばと思ったものだ。あのイベントに参加したたくさんのミュージシャン以外にも、多くの人たちがネット上に今この危機を乗り越えるための作品をアップしてくれていて。これに続く2曲目の未発表曲「アイ・コンテイン・マルティテューズ」を届けてくれたボブ・ディランとか。自身が司会をつとめる番組『ライヴ・フロム・ヒア』の公開収録が中断している中、“ライヴ・フロム・ホーム”という企画で様々な凄腕音楽仲間の自宅からの演奏をつないでくれているクリス・シーリーとか。毎日2〜3曲ずつ往年の名曲をピアノ弾き語りで聞かせ続けてくれているニール・セダカとか。自然体で、毅然と、ナチュラルな歌声を届けてくれた杏さんとか…。

あと、こちらもすごかった。先日、やはりTwitterでリツイートさせてもらったのだけれど。創設メンバー、エミリオ・カスティーヨの呼びかけで、われらがタワー・オヴ・パワーの歴代リード・ヴォーカリスト6人が、それぞれ自宅から参加した「ホワット・イズ・ヒップ」のソーシャル・ディスタンシング・スタイル・ヴァージョンってのがYouTubeで公開されて。

最高だった。中には、おー、こんな姿になってしまったのか…と衝撃を受けたメンバーもいたりして(笑)。いろいろ懐かしかったなぁ。参加していたのは1975〜1976年に4代目リード・ヴォーカルとして在籍していたヒューバート・タブズ以降の顔ぶれ。その後を受けたエドワード・マギーはすでに他界。次のマイケル・ジェフリーズも不参加。でも、その後は全員。エリス・ホール(1985〜1988年)、トミー・ボウズ(1988〜1994年)、ブレント・カーター(1994〜1999年)、ラリー・ブラッグズ(1999〜2013年)、そしてレイ・グリーン(2013〜2016年)。

全員が思い思いにシャウトしていて、痛快だった。でも、ふと寂しく思ってしまうのは、ヒューバート・タブズのひとり前、3代目リード・ヴォーカルだったレニー・ウィリアムズの不在だ。この人、在籍していたのはほんの3年。オリジナル・アルバム3枚に参加しただけではあるのだけれど、その3枚というのが、1973年の『タワー・オヴ・パワー』、1974年の『バック・トゥ・オークランド』、1975年の『アーバン・リニューアル』という鉄壁の超傑作3枚なもんで。ぼくのような世代のタワー・オヴ・パワー・ファンにとってはいちばん聞き込んだリード・ヴォーカリストなのだ。

だから、参加してくれていればなぁ…とは思うのだけれど、いろいろあるんだろう。1976年にバンドを脱退する前からソロ・アルバム出しちゃったりしていたし。あるいは、もしかしてもう75歳だから、年齢的に歌えなくなっちゃってるのかも、とか、ふと余計な詮索をしたりも。最後にこの人歌声を聞いたのは、2年前、自らが設立したブライドル・リッジ・レコードからリリースした2曲のシングルで。アルバムは2012年の『スティル・イン・ザ・ゲーム』以来出ていなかったし。それらは間違いなくいい出来だったものの、今はどうなのかな、と、勝手に心配していたのだけれど。

出ました。そんな余計な心配を一気に吹き飛ばす新作アルバムが。先述した2曲のシングル、スムースなハイR&Bふうの「ファイン」と、必殺のソウル・バラード「ユー・ビーン・グッド・トゥ・ミー」を含む15曲入り。もちろんブライドル・リッジから。なんだ、元気じゃんか。ちょっとほっとしつつ、でも、それならなんとか例のスーシャル・ディスタンシング・ヴァージョンにも参加できなかったものか、と。複雑な気分になったりも。まあ、ファンというのは貪欲なもんで、ね。

というわけで、1975年に初ソロ・アルバムをリリースして以降、ワーナーとかモータウンとかABCとかMCAとか、あちこち流浪しながら着実に活動を続けてきたレニー・ウィリアムズ。近ごろはあれこれサンプリングねたになっていることとかでもおなじみみたいだけど。

この人、タワー・オヴ・パワーを脱退後も、アレサ・フランクリン、ボビー・ウーマック、アル・グリーン、オハイオ・プレイヤーズ、フランキー・ビヴァリー&メイズ、リック・ジェイムス、アンソニー・ハミルトン、ウィスパーズ、アリシア・キーズ,アッシャー…など、本当に幅広いアーティストたちと共演してきていて。今回のアルバムはそうした経験というか、蓄積というかを存分に活かした1枚。レニー・ウィリアムズが持ち前の柔軟な表現力を駆使して、ソウル・ミュージックのいろいろなフォーマットというか、偉大な先達/同輩/後輩たちとそのスタイルに敬意を表した1枚というか、そういう仕上がりだ。

アルバム中、先行シングル2曲を含めて半分ちょいをニュー・パワー・ジェネレーションのリーヴァイ・シーサーと共作/共同プロデュース。その他は、コリー・ザ・ポエットことコリー・ペイジ、サミュエル・D・サンダース、デレク・アレン、トーマス・シェルビー(レイクサイドの人?)、ケンドリックス・デイヴィス、バンドで一緒にやってるルカ・フレデリクスン、そしてお孫さんらしきレクサス・ウィリアムズらとの共作だ。ジョージ・ジャクソン作、ジョニー・テイラーの「ラスト・トゥー・ダラーズ」のカヴァーと、チャールズ・スパイクス作「ブルース・アンド・BBQ」の2曲はけっこうアーシーなブルース。曲によってジーニー・トレイシーとの男女デュエットとか、親族共演らしきものも。

というわけで、ヴァラエティには富んでいるけれど、実にストレートなソウル・アルバムです。新しいものなんか何ひとつないけれど、“変わらないもの”“変わっちゃいけないもの”が何なのか改めて教えてくれるというか。年齢を重ねて、自分の使命をやり通してきたな、やり遂げたなという確信を持った者だけが達することができる柔軟な境地というか。そういうのを感じさせてくれる1枚です。

“朝早く起きて/まっさらな日/陽光がブラインドから射し込む/一杯のコーヒーとモーニング・キス/今日を楽しむ/それが最優先…”というアルバム表題曲「ファイン」の歌詞が、今、この非常時にちょっとまぶしいような、泣けてくるような…。

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© 2020 Kenta Hagiwara