Disc Review

Various Reviews: 12/3/1999 / Andrew Bird's Bowl Of Fire, Buddy Miller, Guy Clark, Dolly Parton, CSNY, Beck, Matthew Sweet, Fiona Apple, Stone Temple Pilots, Alanis Morissette, etc.

Oh! The Grandeur / Andrew Bird's Bowl Of Fire (Rykodisc)

スクォーレル・ナット・ジッパーズとも深い付き合いのフィドル・プレイヤーが率いるグッド・タイム・ミュージック・ユニットのセカンド。8月ごろに出た盤らしいけど、ぼくはなぜかなかなか入手できなくて。今ごろ手に入れて、ようやく聞いてます。今回もすっげえいいです。

スクォーレル・ナット・ジッパーズ同様、かつてのレオン・レッドボーンとかダン・ヒックスとかジェフ&マリアに通じるノスタルジックものなのだけれど、なんか、こう、デイヴィッド・リンドレーとかにも一脈通じる毒とか、やばい感触とかもあって。気になる存在。

Tales Of A Traveler / Blue Mountain (Roadrunner)

for Music Magazine

アメリカーナとかオルタナ・カントリーとか呼ばれる一連のバンド群の中でも、とびきりラウドでスピーディなのがこのブルー・マウンテンだ。通算3作目だが、去年ベーシストを補強し4人組にパワーアップしてからは初の新作。これまではサン・ヴォルトのジョン・スターラットの妹ローリーちゃんがベースを担当していたが、これで乱暴なギター・サウンドがトレードマークの中心メンバー、ケアリー・ハドソンとローリーとの2枚看板バンド的な感触がぐっと強まった。いいかも。

プロデュースを手がけるのは元ジョージア・サテライツのダン・ベアード。最近は自ら歌わずギタリストに徹するバンドをやっているらしい彼だが、その鉄壁のルーツ・ロック感覚は衰えず。ベアードならではのぶっといギターはもちろん、パーカッションやホーンなども導入しながら、プライドに満ちあふれた最強のアメリカン・ロック・グルーヴを作り上げてみせる。もはやオルタナ・カントリー云々じゃないね。ベアードの助けを借りて、ブルー・マウンテンはアメリカン・ロックンロールという核そのものを目指して雄々しい疾走を開始した。サン・ヴォルトやウィルコの近作にも共通するパワフルな手触りが痛快だ。まあ、オクスフォードのローカル・バンドっぽいニュアンスが拭い切れていないことに関して賛否あるかと思うけれど、ぼくは断固支持です。

Full Western Dress / The Derailers (Sire)

デイヴ・アルヴィンと組んだ新作。オルタナ・カントリーとかアメリカーナというよりは、今なおグルーヴを失っていないストレート・アヘッドなベイカーズフィールド・カントリーって感じかな。つまり、いかしたアメリカン・ロックンロールってことですよ。

ときおり60年代ブリティッシュ・バンドっぽいニュアンスも顔をのぞかせたりするけれど、その辺は世代のなせる業か。特に意識的に伝統を受け継ごうとか、そういう偉そうなことを考えず、今聞いてもかっこいい昔ながらのロックンロール・ビートをストレートにぶちかましている感じで、好感ばっちりです。

Cruel Moon / Buddy Miller (Hightone)

以前、奥さんの盤も紹介しましたが。オルタナ・カントリーの重要人物のひとりである旦那さんの盤が後追いで登場。

奥さんのジュリーとの共作曲、ジム・ロンダーデイルとの共作曲のほか、客演もしているスティーヴ・アールの曲、ポール・ケナーリーの曲、マン&ワイル作のジーン・ピットニーのヒットのカヴァー、ステイプルズのカヴァーなどが入り乱れる通算3作目だ。アールさんのほか、ともにスパイボーイのメンバーであるエミルー・ハリスや、タミー・ロジャース、アル・パーキンスらがゲスト参加。出来も悪いはずもなく、もちろんミラー自身のギターもごきげんにうなる。

歌もさらにうまくなってきたみたい。

Melic / Hayseed (Watermelon/Sire)

これは去年のリリース。ルシンダ・ウィリアムスが客演してるってんで、一所懸命探していたんだけど、なかなか見つからず。ようやく買いました。

ヘイシードことクリストファー・ワイアントによるハードコアなカントリー系シンガー・ソングライター盤。ルシンダのほか、ジョー・リン・ホワイトもゲスト参加。カントリー、ブルーグラス、ゴスペルなどが実にいい塩梅で混じり合う1枚だ。オールマン・ブラザーズ・バンドの必殺の名曲「メリッサ」のカヴァーもよいです。

Cold Dog Soup / Guy Clark (Sugar Hill)

必殺の『オールドNO1』でおなじみ、ベテラン・シンガー・ソングライター、ガイ・クラークの新作だ。今もコンスタントに活躍している人だけに、充実した仕上がり。今なお若いのか、昔からおっさんだったのか、『オールドNO1』のころとほとんど変わらぬ歌声が聞ける。

ほとんどガイ・クラーク自身を含む3人編成のアコースティック・ユニットで一発録りされたもの。そこに軽いオーバーダブがほどこされただけのシンプルな音像が気持ちいい。ここにもエミルー・ハリスさんが客演してます。

The Grass Is Blue / Dolly Parton (Sugar Hill)

ホイットニーの“アーイヤーイヤー…”で大儲けした巨乳おばさん。余裕しゃくしゃくで自らのルーツ探訪の旅へ。

って感じでしょうか。ジェリー・ダグラスやサム・ブッシュをバックに従えて、見事なアコースティック・カントリー/ブルーグラスの世界を聞かせてくれる。ルーヴィン・ブラザーズからビリー・ジョエルまで、幅広いカヴァーもあるけれど、やっぱりご本人のペンによるナンバーが素晴らしい。歌もずば抜けてうまいし。

“トリオ”で組んだリンダ&エミルーが二人で新作をリリースしたけれど、そっちよりぼくはこっちの盤のほうが胸にしみた。

Looking Forward / Crosby, Stills, Nash & Young (Reprise)

for Music Magazine

『デジャ・ヴ』から約30年、再結成盤『アメリカン・ドリーム』から12年。三たびCとSとNとYが結集した1枚だ。全12曲中、4人の自作は11曲。内訳はC2曲、S3曲、N2曲、Y4曲。存在感的にもだいたいこの割合か。つまり、主役はYさん。4人の中で最も現役感のある男が主役なわけで。そこだけ取り出せば実はそんな悪くない1枚かも。

『アメリカン…』同様、ヤングはジョー・ヴァイテールやマイク・フィニガンらに交じって他の3人の作品に積極的にギタリストとしても関わっているが、自作曲のオケはほぼジム・ケルトナー、ダック・ダン、スプーナー・オールダム、ベン・キースという自分好みのリズム隊で録音。コーラス以外はまるっきりソロ作って感じだ。CSN寄りの視点に立つとなんともわびしいものがあるけれど。が、考えてみればこの人たちの場合、『デジャ・ヴ』も『アメリカン…』も、いわゆる“バンドらしさ”とは無縁。4人のソロ・アーティストが各々自分の作品を数曲持ち寄り、それぞれのやり方で録音したオムニバス盤って感じだった。今回もそのノリは変わらずってことだ。でも、Sがディランの「サブタレイニアン・ホームシック・ブルース」に触発されて作った曲にYがごきげんなギターで絡む「シーン・イナフ」とか聞くと、やっぱこの二人には特別な何かが…と、見果てぬロマンで胸いっぱいにしちゃうぼくは、おぢさん?

Midnite Vultures / Beck (Interscope/Geffen)

for Music Magazine

相変わらずかましてくれます。ファースト・シングルとしてカットされる「セックスロウズ」はスティーヴ・クロッパーふうのギターやソウルフルなホーン・アンサンブルに彩られて展開するキャッチーなポップ・ソウル曲。なのに、途中のブレイクでいきなりバンジョーやペダル・スティール・ギターが登場して、以降はソウルとカントリー・ロックとが絶妙に交錯しつつの大騒ぎ。

徹底的に韻を踏みながらバリー・ホワイトばりの官能的な歌詞をハイパーなアプローチでばらまく「ニコチン&グレイヴィー」は、基本的にはプリンスとかキャメオあたりに通じる80年代ふうエレクトロ・ファンク・チューンなのだけれど、ブリッジ部でサイケデリックなストリングス・アンサンブルが突如切り込んできて、全盛期のスライ・ストーンみたいなシャウトやアーニー・アイズレーみたいなギターや中東っぽいエキゾチックなフレーズが無秩序に渦巻くなか、混乱しつつフェイドアウトしていく。

「ゲット・リアル・ペイド」にしても、アフリカ・バンバータふうの初期ヒップホップ系デジタル・ファンクというか、クラフトワーク系のこれまた初期テクノ・ポップふうというか、そのテのサウンドをより混沌とさせた仕上がり。やはりプリンスを彷彿させる「ピーチズ&クリーム」には、オズモンズの往年のヒット「クレイジー・ホース」みたいなシンセのいななきが入ってるし。ジョニー・マーと一緒にやったらしい「ミルク&ハニー」は、ロバート・パーマー~パワー・ステーション的なファンキー・ロックで導入したあと、しまいちゃアコースティック・ギターとシンセサイザーが奏でる流麗な世界へと聞き手を連れ去っちゃうし。ハーモニカやペダル・スティールのようなカントリー系の楽器が活躍するベス・オートンとのデュエット・バラード「ビューティフル・ウェイ」にしても、そのリズムの組み立てには妙にソウルフルなセンスが漂っているし…。

ロバート・ジョンソン+ヒップホップとか、ハンク・ウィリアムス+オルタナ・ロックとか、これまでも様々な新旧米国音楽の融合・再構築を続けてきたベックだけれど、この新作に至ってそのアプローチはさらに過激になったようだ。今回は明らかにソウル/ファンクに傾倒した仕上がりなのだけれど、その背景にはベックならではの深く幅広い音楽素養および底なしの好奇心がしっかりと横たわっているわけだ。楽しい。

本人は本盤こそを『オディレイ』に続くメジャー・リリースと考えているそうで。気合ばっちり。気合の入った才人はすごいね。ちなみに「デブラ」は「アイ・ウォント・トゥ・ゲット・ウィズ・ユー」としてライヴでおなじみの曲。ファルセットでセクシーに聞かせる。

In Reverse / Matthew Sweet (Volcano)

for What's In? (Revised)

間違いない。91年のサード・アルバム『ガールフレンド』以来の傑作が誕生した。

というか、正直言って『ガールフレンド』以降、マシューは今ひとつ煮え切らない状態だった。もちろんいい曲もたくさん書いてはいたけれど、迷いをはらんだ曲も多かった。97年の『ブルー・スカイ・オン・マース』とか、コンパクトでポップな1枚ではあったものの、どこか箱庭的な、おさまりきっているイメージもあって、ファンとして複雑な気分だった。でも、今回はいいぞ。本アルバムの収録曲のひとつ「君の曲」でマシューは“自分で曲を書けばいいじゃん/僕のがお気に召さないなら/コケまくるかもしれないけれど/ヒットが出るかもしれないよ/きみにぴったりのを書いてほしいんだろ/きみに必要なこと、何もできずにいた僕を”と歌っている。ずいぶんと開き直ったものだけれど、この開き直りが功を奏したか。メロディックで切ない楽曲と、ワクワクするようなジャングリー・ギター・ポップとがきっちり分けられ、それぞれ焦点を絞り込んだ作りになっているのも好感触。

フィル・スペクター・サウンド、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』といったポップ・ヒストリーの財産を愛し、魅力を知り抜いたマシューならではのサウンド・メイキングの力量が存分に楽しめる。一連のスペクター作品や『ペット・サウンズ』などでもプレイしている名手、キャロル・ケイが参加しているのも、なんだかうれしい。

When The Pawn Hits The Conflicts He Thinks Like A King… / Fiona Apple (Sony)

for What's In? (Revised)

邦題は『真実』と、ずいぶんシンプルになっているものの、原題のほうはライヴ前に必ず暗証する90ワードの詩をそのまま丸ごと使用。タイトル欄にもとても入りきらないので、途中までしか書かなかったほど長いアルバム・タイトルを冠した新作だ。17歳までに書きためたというみずみずしい楽曲を詰め込んだアルバム『TIDAL』で衝撃のデビューを飾ったのが96年のこと。98年になってからグラミーをはじめとする音楽賞を総なめにしたりしていたため、そんなに長く待たされた気はしなかったのだけれど、いやいや、3年ぶりになるんだね。

で、当然のように20歳代に突入したフィオナ。天才少女アーティストが年齢を重ねてただの凡人なる……という展開を、ぼくたちはこれまで飽きるほど体験してきているだけに、さて彼女はどうなのか、正直なところ不安だった。結論から言えば、彼女は実にうまく自らの成長を音楽に取り込んでみせたって感じ。彼女は成熟を恐れていないのだろう。若いからこそ発揮できたある種奔放な個性に未練がましくこだわることなく、本盤での彼女はより焦点を絞り込んだ表現へとポイントを移している。もともと18歳とは思えぬ孤独さとか喪失感とかこそが彼女の歌最大の魅力でもあったわけで。その部分がさらに深く突き詰められた仕上がりだ。

前作にも参加のジョン・ブライオンがプロデューサーに昇格。個人的にはランディ・ニューマンばりの「アイ・ノウ」がベスト・トラックだ。

No. 4 / Stone Temple Pilots (Atlantic)

もう絶対解散したもんだとばかり思っていた。

スコットのドラッグ問題でごたごたしたため、スコット以外のメンバーがトーク・ショーってユニットをやって、スコットもソロを出して。てことは、もう一緒にはやらないのかと思っていたら、こうして見事に再会。うれしい。

大傑作だった前作のような、きっちり構築されたポップ・チューンはあまり見られないものの、むしろ現在のシーンを牛耳るオルタナティヴ・メタル系のバンドたちと渡り合おうという強い意志が聞き取れる1枚。これはこれで痛快かも。復帰第一作には絶好か。飽きるっちゃ飽きるけど…。

Alanis Unplugged / Alanis Morissette (Marverick)

確か、チベタンのコンサートかなんかだったと思うんだけど。たまたまアメリカにいたとき、この人のステージをテレビで見た。アコースティック・ギターだけをバックにライヴを展開していて。それが、なんだかすごくよかったのだ。静かな曲調から、いきなりどかーんとラウドなギターが炸裂する…みたいな、この人の普段の持ち味みたいなやつとはがらり変わって、シンガー・ソングライターとしてのアラニスの顔がぐっと強調されていて。

そうそう、いわばニルヴァーナの『アンプラグド』を聞いたときみたいな感じ。あれ聞いて、ぼくはシンガー・ソングライターとしてのカート・コバーンの底力を改めて思い知ったのだけれど。それと同じ感触が、あのチベタンのときのアラニスにはあったのだ。

なので、そんなぼくにとってこの新作は待望の1枚。弦とかも入っていて、もっとシンプルにしてくれれば…という贅沢な願いはあるけれど、これでもOK。この人のソングライターとしての才能と、歌い手としての才能と。両方をとっぷり味わわせてもらいます。

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