Disc Review

Blind Date Party / Bill Callahan & Bonnie "Prince" Billy (Drag City)

ブラインド・デイト・パーティ/ビル・キャラハン&ボニー・プリンス・ビリー

アルバム・タイトルも含め、パンデミックによるロックダウンのただ中ならではの好企画って感じ。

“自分たちの好きな曲を好きな人たちと演奏する”というのがテーマだとか。本ブログでも以前、2019年のアルバム『シェパード・イン・ア・シープスキン・ヴェスト』を取り上げたビル・キャラハンと、ボニー・プリンス・ビリーことウィル・オールダムのふたりがホストとなり、彼らが在籍するドラッグ・シティ・レーベル関連の多彩なゲストを迎えて、リモート環境でセッション。興味深い選曲のカヴァーに挑む、と。そういう趣向の2枚組だ。

去年の10月ごろから、ちょいちょいシングルとして数曲ずつバンドキャンプあたりでお披露目されてきた音源群だけれど。ついにアルバムとしてまとまりました。ただ、去年の12月に配信されたネイサン・サルズバーグとの共演音源とか、入っていないのもいくつかあるのでその辺は気をつけたいところかな。

CD,LP、カセットなどフィジカルは来年1月のリリースみたい。でも、ストリーミング配信およびダウンロード販売がスタートしたので取り上げておきます。ドラッグ・シティのアーティスト・カタログとしてもよくできているし、現在のアメリカーナ〜インディ・フォーク〜ポスト・ロック・シーンの広がりのようなものを象徴するコンピレーションとしても手応えたっぷり。

収録されたカヴァー曲にはおなじみのビッグ・ヒットもあれば、激シブ系のインディ・ナンバーも多数。レナード・コーエン、ジェリー・ジェフ・ウォーカー、ジョン・プライン、デヴィッド・バーマンら、ここ2年ほどの間に亡くなったかけがえのない才能に対する追悼の思いが全体に漂う仕上がりで。そこに、ロウエル・ジョージ、ルー・リード、ウォルター・ベッカーらもっと以前に亡くなった先達の曲と、さらには“今”を象徴する現役アーティストたちの楽曲と、それらを巧みに交えながらの全19曲。実に興味深いラインアップだ。

ということで、カヴァー曲の出典と参加ゲストをざっくりおさらいしておくと——

オープニングを飾るユスフ(キャット・スティーヴンス)の「ブラックネス・オヴ・ザ・ナイト」(1967年)は、シカゴを拠点とするイラン系のノー・ウェイヴ・アーティスト、アジタとの共演。ハンク・ウィリアムス・ジュニアの「O.D.ド・イン・デンヴァー」(1979年)には元チャヴェス~ズワンのギタリスト、マット・スウィーニーが参加。デイヴ・リッチのカントリー・ゴスペル「アイヴ・メイド・アップ・マイ・マインド」(1964年)には、スコットランドのフォーク・アーティスト、アラスデア・ロバーツ。ケンタッキー州ルイヴィルを本拠にするデュオ“ジ・アザー・イヤーズ”の「レッド・テイルド・ホーク」(2018年)には、オースティン本拠のギタリスト、マット・キンジー。ビリー・アイリッシュの「ウィッシュ・ユー・ワー・ゲイ」(2019年)には、ハイ・ラマズのショーン・オヘイゲン。ビル・キャラハンの自作曲「アワ・アニヴァーサリー」(2010年)には、シカゴのエクスペリメンタル・バンド“デッド・ライダー”。冒頭に「ケ・セラ・セラ」の一部もダークに引用。と、ここまでがアナログ盤だとA面。

ルー・リードの「ルーフトップ・ガーデン」(1983年)には、ギリシャ出身のシンガー・ソングライター、リュート奏者のジョージ・シロリス。スティーリー・ダンの「ディーコン・ブルース」(1977年)には、これまたシカゴ人脈のビル・マッケイ。ジェリー・ジェフ・ウォーカーの「アイ・ラヴ・ユー」(1975年)には、スリント〜ズワンのギタリスト、デヴィッド・パジョー。ここまでがB面。

ロバート・ワイアットの「シー・ソング」(1974年)には、オーストラリアのインストゥルメンタル・トリオ“ダーティー・スリー”のミック・ターナー。リトル・フィートの「アイヴ・ビー・ザ・ワン」(1971年)には、エスパーズのメグ・ベアード。ジョニー・フライアーソンの「ミラクルズ」(1960年代半ば?)には、シンガー・ソングライターのタイ・セガール。イギー・ポップの「アイ・ウォント・トゥ・ゴー・トゥ・ザ・ビーチ」(2009年)には、ケイヴなどでの活躍も知られるクーパー・クレイン。ここまでがC面。

もうひとつジェリー・ジェフ・ウォーカーが歌っていたベトナム帰還兵のマイケル・バートン作品「ナイト・ライダーズ・ラメント」には、ロサンゼルスのアシッド・ロック・バンド“ワンド”のコリー・ハンソン。ボニー・プリンス・ビリー/ウィル・オールダムが“パレス・ミュージック”名義でリリースした「アライズ、ゼアフォー」(1996年)には、ベン・チャズニー/シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンス。レナード・コーエンの「ザ・ナイト・オヴ・サンチアゴ」(2019年)には、元バストロ〜ガスター・デル・ソルのデヴィッド・グラブズ。デヴィッド・バーマンやスティーヴン・マルクマスが結成していたバンド“シルヴァー・ジューズ”の「ザ・ワイルド・カインドネス」(1998年)には、デヴィッドの奥さまのキャシー・バーマンをはじめ、デヴィッド・パジョー、アジタ、ベン・チャズニー、ビル・マッケイ、マット・キンジー、マット・スウィーニー、メグ・ベアード、ミック・ターナー、ショーン・オヘイゲン、ジョージ・シロリスらが大挙参加。エア・サプライの「ロスト・イン・ラヴ」(1980年)には、ザ・カイロ・ギャングのエメット・ケリー。ジョン・プラインの「シー・イズ・マイ・エヴリシング」(2005年)には、サン・シティ・ガールズのサー・リチャード・ビショップ。これらがD面。

まさに超豪華ドラッグ・シティ・オールスターズ。パンデミックが今後どうなっていくのか、なかなか予断を許さない状況ではあるけれど。この2年にわたるパンデミック、最悪の環境の下で、しかしこういう新鮮なコラボレーションがオンラインを通じてたくさん生まれたのかと思うと、まあ、もちろんコロナ・ウィルスに感謝するなんて気はさらさらないけれど、最悪の状況というのも意識的なアーティストたちのクリエイティヴなパワーをそれなりに喚起してくれるものなのだな、と。改めてそんな事実を思い知る。

みんな、すごいや。

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