プロディガル・サン(放蕩息子)/ダン・ペン
これ、ちょっと見逃してました。6月に出てたのね。ブログお休みしたり、バタバタしてた時期だったからなぁ。いかんいかん。あぶなかった。こんな素敵な1枚を聞き逃していたなんて。もったいなかった。
本ブログでもちょいちょいピックアップしているダン・ペン。2020年、ちゃんとしたソロ・アルバムとしては実に26年ぶりとなる『リヴィング・オン・マーシー』を取り上げた際、彼のキャリアについてはざっくりご紹介しましたが。
そこでも軽く触れた通り、この人、ちゃんとしたスタジオ・アルバムの他に、自身のインディ・レーベルから宅録系の“デモ・シリーズ”ってやつを不定期にリリースしている。2000年に日本で先行発売された『ブルー・ナイト・ラウンジ』を皮切りに、2007年の『ジャンクヤード・ジャンキー』、2013年の『アイ・ニード・ア・ホリデイ』、2016年の『サムシング・アバウト・ザ・ナイト』…と続いて。
そんなデモ・シリーズ、6年ぶりの新作です。なんでも一昨年『リヴィング・オン・マーシー』をリリースした後、心臓関連の手術を受けたりもしていたようで。1941年11月生まれというから、間もなく81歳。いろいろな思いもあったのか。今回のアルバムは彼なりのゴスペル集だ。カントリー・ソウル・ゴスペルって感じ。沁みます。
収録されている全10曲中、8曲がフランク・キャノンとの共作。キャノンとはデモ・シリーズの過去作でも何曲か共作していて。本作のアルバム・タイトルにもなっている聖書の例話“プロディガル・サン”について歌われた「セット・ザ・テーブル」という曲は、前述、2013年の『アイ・ニード・ア・ホリデイ』に収められていたペン&キャノン作品のひとつ。今回はその再演版だ。
録音はフランク・キャノンの自宅スタジオで。ダン・ペン自ら奏でるアコースティック・ギター以外、キーボード、ベース、ギターなど残りすべての楽器をキャノンが手がけているようだ。コーラスもしている。心強いパートナーだ。もともと曲作りに主眼を置いたプライベート録音で、CDにするつもりなどなかったらしいけれど、フランク・キャノンのサポートが素晴らしく、録音自体もうまくいったため、こうして1枚にまとめられた。
キャノンとの共作8曲以外の2曲のうち、「アウト・オヴ・ザ・ブルー」はカーソン・ウィットセットとの共作曲。ウィットセットのピアノ1本をバックに淡々と綴られる。もう1曲「イン・ザ・ガーデン」は、2019年、盟友ドニー・フリッツが亡くなったとき、お別れの会で歌われたライヴ音源。「園にて」という邦題でも知られる古い聖歌だ。エルヴィス・プレスリーやジョニー・キャッシュらの名唱でもおなじみだろう。
そう思うと、本アルバムに収められたダン・ペン作品、どれもエルヴィスやジョニー・キャッシュが歌ったらかなりぐっときそうな曲ばかり。でも、もちろん作者自らの訥々とした歌声もたまらなく魅力的で。聞きながら、しんみり我が人生をも振り返っちゃいますよ。ダン・ペンの極上のソウルフル感覚の背景には、こういう敬虔で、穏やかで、でも内なる熱さをたたえた神への想いみたいなものがあるのだな、と。そんなことを改めて思い知る素晴らしい1枚です。
サブスクとかにまったく入っていないし、動画とかもないし。盤ゲットするしか聞きようがないのに、本人のウェブサイトでも宣伝すらしていない、今どきひどくめんどくさい1枚ですが(笑)。ご興味ある方、ぜひゲットしてみてください。国内流通盤が普通にネットで買えるので、たぶん日本がいちばん本CDを入手しやすい状況なのかも。