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Disc Review

Living on Mercy / Dan Penn (The Last Music Company)

リヴィング・オン・マーシー/ダン・ペン

すんません。今回もまた極私的な思い出話から始めますが。

その昔、この人、ダン・ペンが盟友スプーナー・オールダムと連れ立って来日した際、幸運にもインタビューさせていただいた。某音楽誌からの依頼で行なったインタビューだったのだけれど、ちょっといろいろ事情があって結局掲載されずじまい。別に内容がショボかったとか、そういうこともなく。とても興味深い話をたくさん伺うことができたのに。残念でならない。

ただ、これがけっこうハードルの高い取材で。通訳さんなし。ぼくの拙い英語でのインタビュー。それだけでもけっこう緊張ものだったのだけれど。加えて、ダン・ペンさん、ばりばりの南部男だけに、もう訛りが強力で。最初のうちは大丈夫かなと心配だったものの。ところがインタビューが始まってみると、これがむちゃくちゃすんなりいって。なぜだか言ってることがとてもよくわかる。

なんでかな…と、自分でもちょっと不思議だった。で、ふと考えてみたら、この訛りの感触、エルヴィスのしゃべりそのものというか。エルヴィス・プレスリー。もちろんエルヴィスに会ったことなんかないけど(笑)。彼のライヴでのMCとか、インタビュー・テープとか、映画での台詞とか、そういうのでおなじみの発音だったもんで。すごく親しみがあったというか。

そんなこんなで、うれしいことに話も大いに盛り上がった。チップス・モーマンとか、ジーン・クリスマンとか、ノーバート・パットナムとか、エルヴィスゆかりの人たちの話題もふんだんで。とても貴重な時間を過ごすことができた。

で、今回のダン・ペン、なんと26年ぶりの本格的スタジオ・レコーディング・アルバム。その事実だけでもうれしくて何度も何度も聞き返してしまうのだけれど。聞けば聞くほど、1960年代末のメンフィス・セッションとか、1970年代初頭のナッシュヴィル・セッションとか、そのあたりのエルヴィスが歌ったらきっと最高だったろうなと思えるカントリー・ソウル系の名曲だらけで。なんだかさらにうれしくなってしまうのでありました。

ジェイムズ&ボビー・ピューリファイ「アイム・ユア・パペット」、ジェイムズ・カー「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」、アレサ・フランクリン「ドゥ・ライト・ウーマン、ドゥ・ライト・マン」、ボックス・トップス「クライ・ライク・ア・ベイビー」、アーサー・アレクサンダー「レインボウ・ロード」、ウィルソン・ピケット「ユー・レフト・ザ・ウォーター・ラニング」、スウィート・インスピレーションズ「スウィート・インスピレーション」など、1960年代以来、ソングライターとして無数の名曲を生み出してきたダン・ペン。

とはいえ、自らパフォーマーとしてのアルバムというと、まず1973年にベル・レコードからリリースされたファースト・アルバム『ノーバディーズ・フール』があって、1994年にサイアから出たセカンド・アルバム『ドゥー・ライト・マン』 があって。そのあと、1999年にスプーナー・オールダムとのライヴ盤『モーメンツ・フロム・ジス・シアター』があって。続いて2000年の『ブルー・ナイト・ラウンジ』を皮切りに、2007年の『ジャンクヤード・ジャンキー』、2013年の『アイ・ニード・ア・ホリデイ』、2016年の『サムシング・アバウト・ザ・ナイト』と、プライベート録音系の音源を集めたいわゆる“デモ・シリーズ”が続いて。それと並行して、1960年代にマッスル・ショールズのフェイム・スタジオで録音された若き日の歌声を英エイス・レコードが編纂したアンソロジー『ザ・フェイム・レコーディングズ』がVol.1、Vol.2と出て…。

でも、しつこいようだけれど、何というか、こう、ちゃんとしたというか、しっかりしたスタジオ録音アルバムということになると今回の『リヴィング・オン・マーシー』がたったの3作目なのだ。寡作も寡作。フェイム・レコードから初めてのシングル「クレイジー・オーヴァー・ユー」をリリースして、コンウェイ・トウィッティにプロのソングライターとして初めて「イズ・ア・ブルーバード・ブルー?」を提供したのが1960年。以来60年のキャリアにおいて、本格的スタジオ・アルバムを3作しか出してこなかったというのだから。これはこれですごい。

今回の新作に収められた全13曲は、ダン・ペン単独で、あるいはウェイン・カーソン、スプーナー・オールダム、ゲイリー・ニコルソン、カーソン・ウィットセット、ウィル・マクファーレン、バッキー・リンゼイ、バズ・カーソン、アール&アーニーのケイト兄弟ら、おなじみの仲間たちとの共作で書いたもの。もちろん、いい曲ぞろい。

インタビューで“13曲中2曲は去年書いた”と発言していたけど、他の曲がいつごろ書かれたものかとか、よくわからない。ただ、スプーナーとの共作曲「アイ・ドゥ」だけは知ってた。フェイムでの初期音源集にも入っていた古い作品で。でも、それにしても若き日のパフォーマンスよりも80歳を目前にした現在の歌声のほうが断然いいというか。そんなことも含めて、アルバムごとに横たわる長い長いインターバルもまたダン・ペンの歌心を熟成させ醸造するうえで大切なものなのかも…という気分にさせられる。

アラバマ州シェフィールドのザ・ナットハウス・スタジオとテネシー州ナッシュヴィルのクリエイティヴ・ワークショップ・スタジオでの録音。クレイトン・アイヴィ(キーボード)をはじめ、ミルトン・スレッジ(ドラム)、マイケル・ローズ(ベース)、ウィル・マクファーレン(ギター)ら信頼できる仲間たちがバックアップ。そんな的確かつソウルフルなサウンドをバックに、けっしてシャウトしたり、唸ったり、これ見よがしなフェイクをかましたりはせず、ひたすら淡々と、訥々と、自ら紡いだメロディと歌詞を歌い綴るダン・ペン。それがなんとも豊潤なソウル感覚を現出させる。まさに離れ業だ。オリジネイターならでは。かっこいい。

10月に限定アナログも出るみたい。ヴァイナル、欲しいっすね、これは。

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© 2020 Kenta Hagiwara