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Disc Review

Life on the Flip Side / Jimmy Buffett (Mailboat Records)

ライフ・オン・ザ・フリップ・サイド/ジミー・バフェット

ハワイとか行くたび、この人が共同オーナーを務める“チーズバーガー・イン・パラダイス”で幸せなハンバーガー・ランチを取るのがごきげんな楽しみだったっけ。『ハワイ・ファイブ・オー』もずっと見ていて、この人が時々出演して演じる変人パイロットもわりと好きなキャラだった。

ジミー・バフェット。新作、出ました。2016年にクリスマス・アルバムを出しているけれど、オリジナル・アルバムとしては2013年の『ソングズ・フロム・セイント・サムホエア』以来。7年ぶりだ。

今年の頭、本拠地フロリダ州キーウェストで、いつものコーラル・リーファー・バンドとともにレコーディングがスタート。アルバムが完成したら当然ツアーに出る予定だったようだけれど、それは新型コロナ禍で延期に。“パロットヘッズ”と呼ばれる熱狂的なマニアたちを大いにがっかりさせた。しかし、アルバムのほうだけはこうしてきっちり到着。よかった。

音楽的には最初の3枚くらい、1970年代前半のアルバム群に通じるテイストか。この人、1977年にシングル「マルガリータヴィル」を大ヒットさせて、そのあたりから音楽的な幅も広げつつ全米的ポップ・スターの座を手に入れて、ベストセラー作家にもなって、ハンバーガー・チェーンも持って、マイナーリーグ・チームのオーナーにもなって…。日本には今ひとつちゃんと伝わらずじまいながら、とてつもない成功者になっていったわけだけれど。今回はそれ以前、激動の1960年代後半にいろいろな夢を追いながらも挫折していったヒッピー世代の代弁者として、まだ一部のファンだけから強く支持されていたころの感触が甦った感触もある。

1973年の「グレイプフルーツ〜ジューシー・フルーツ」とか、1974年の「カム・マンデイ」とか「ペンシル・シン・マスタッシュ」とか、あの辺。夢に破れ、挫折を経験し、何かをあきらめながら小さな幸せの中で毎日を過ごし、けれども心のどこかではかつて追い続けた夢を捨て切れずにいる情けなくも愛すべき男たちの物語。そんな世代ならではの奇妙なパラダイス幻想というか。そんな歌を、トロピカルでリラックスしたポップ・カントリー・サウンドに乗せて歌う。あの感じ。

ぼくがこの人の音楽に初めて出会ったのもその時期のことだったので、ちょっとうれしい。全編スティール・ドラムっぽい響きが音像を貫いていて。ワインまみれの哲学者がビーチでレイジーな午後を過ごしている、みたいなイメージは73歳を迎えた今なお健在だ。

グッド・オールド・タイミーな「ハーフ・ドランク」って曲とか、もう最高。大好き。半分酔っ払っていて、夜も半分くらい過ぎていて、いろいろ考えはあるけどどれも半分くらいまでしか煮詰まっていなくて、彼女のことも半分くらいしか口説けなくて…。いやー、ジミー・バフェット・ワールドだなぁ。トゥワンギー・ギターがうなるカントリー・ロック・チューン「ザ・デヴィル・アイ・ノウ」とかもかっこいい。

もちろん、ちょっとシリアスめの曲も入っていて。「リヴ、ライク・イッツ・ユア・ラスト・デイ」とか。まあ、タイトル通り、いつも最後の一日を過ごしているように生きなさい、というメッセージ・ソング。これは1994年に飛行機事故に遭ったり、2011年にステージから転落したりしたバフェットさんならではの本音を綴った1曲なのだと思うのだけれど。

でも、偶然にも昨今のパンデミックの日々にこそ響く内容だったりして。それがこのタイミングで世に出る不思議。この人、やっぱり何か“持って”るんだろうなぁ。ところが、その次の曲が超お気楽トロピカルな「フィフティーン・キューバン・ミニッツ」。キューバじゃ時間の感覚がなくなっちゃって、もう夢見心地、エアコンなくてもサイコー…みたいなドC調な曲で。この落差。ひどい。すさまじい。笑う。

先述の通り現在73歳。どこか力の抜けたテキトーな持ち味が売りだったけど、そういう味も50年続けてりゃ深みすら出てくる、ということか。所さんとか純ちゃんみたいな?

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© 2020 Kenta Hagiwara