ザ・シングルズ:エコーズ・フロム・エッジ・オヴ・ヘヴン(デラックス)/ワム!
ぼくはワム!が大好きだった。1980年代、ポップス好きのぼくにとって彼らこそが希望の星だった。
今さら説明など不要だとは思うけれど、ノース・ロンドンに住むごく普通の音楽好きの少年、ジョージ・マイケルが、幼なじみのアンドリュー・リッジリーと結成したポップ・ユニット。デビューは1982年、ジョージ・マイケルがまだ18歳のときのことだった。
デビュー曲「ワム・ラップ!」は残念ながら全英チャート最高105位…と、不発に終わったものの、続く「ヤング・ガンズ」が全英3位まで上昇したのをきっかけに、翌1983年からは「バッド・ボーイズ」「クラブ・トロピカーナ」とヒットを連発。デビュー・アルバム『ファンタスティック』も初登場ナンバーワン。
こうしたイギリス/ヨーロッパでの成功を下地に、1984年からはいよいよアメリカ進出。「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ(Wake Me Up Before You Go-Go)」「ケアレス・ウィスパー」「フリーダム」の3曲を連続で特大ヒットさせ、1980年代のトップ・アイドルの座を揺るぎないものにしたのだった。
特に「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」。ごきげん。まじ、大好きだった。後世に残る名ポップスだな、と聞いてすぐに思った。この曲以前のワム!は、よりコンテンポラリーなソウル音楽系のノウハウをストレートに反映したものだったけれど、この曲では視野をより大きく広げて、もっとエヴァーグリーンなポップっぽさ、キャッチーさを自分のものにしていた。
ぼくにとってワム!最大の魅力というのは、彼ら…というか、当時のジョージ・マイケルのいい意味での“パクリ”のセンス。これだ。この曲の場合、スモーキー・ロビンソンあたりを筆頭とする、のちに“ノーザン・ソウル”と呼ばれるようになるタイプのポップ・ソウル系ソングライターたちが1960年代に残したおいしいフレーズたちを随所にパックリいただいて、そこにロンドンの若者ならではの若々しさをまぶした感じ。この“ちゃっかり”感がたまらなかった。
あー、クール&ザ・ギャングとかギャップ・バンドとかが大好きなんだろうなー…という、ひたすら無邪気なファン気質もごきげんだった。泣けた。何年か前、クール&ザ・ギャングのニュー・アルバムが出たときもそんな話、書かせてもらったことがあったっけ。懐かしい。
そんなワム!のデビュー40周年を記念して、Netflixで長編ドキュメンタリー『WHAM!』の全世界同時配信がスタート。それに合わせて、彼らが本国イギリスでリリースした全シングル・ナンバーを一気にまとめあげたコンピレーション『ザ・シングルズ:エコーズ・フロムジ・エッジ・オヴヘヴン』も、多彩なフォーマットで発売された。16曲入りの1枚ものCD版をはじめ、通常のブラック・ヴァイナルLP2枚組、そのカラー・ヴァイナル版あたりがいちばんお手頃のパターン。
でも、ここはCD10枚組、あるいは7インチ・アナログ・シングル12枚組+カセットによるデラックス版をセレクトしたいところ。12インチ・シングルでリリースされたリミックス、カラオケなども含め、全33トラックを収録。もちろんデジタル・ダウンロード版、ストリーミング版もある。ただ、ストリーミングとかでずらーっと聞いていると同じ曲の各種ヴァージョンが次々再生されるので、飽きるかも(笑)。ストリーミングするなら1枚もの仕様のほうがいいかな。
ブツとして魅力的なのはやらり限定アナログ・シングル箱だ。スペシャル・キャリー・ケース仕様のボックスに、彼らが残した全11タイトルの7インチ・シングルをひとつずつ復刻ジャケットに収め、さらにもう1枚「クリスマス・メッセージ」の7インチも加えて。で、12インチものとかの別ヴァージョンはカセット・テープにぶちこんで、ハードカバー・ブックレット、キー・リング、バッヂ、ポストカードなどオマケを添えた豪華版だ。
あれ? 全部って言うけど、「ケアレス・ウィスパー」が入ってないじゃん…と言われるかも。ただ、あの曲、日本では確かに“ワム!”名義で出たし、アメリカでも“ワム! フィーチャリング・ジョージ・マイケル”名義で出たものの、イギリスでは“ジョージ・マイケル”というソロ名義でのリリースだった。ということで、イギリスでのリリース形態にこだわったこのボックスには入っていない、と。そういうことみたい。
いずれにしてもワム!、やっぱ最高です。