Disc Review

Stories from a Rock N Roll Heart / Lucinda Williams (Highway 20 Records)

ストーリーズ・フロム・ア・ロックンロール・ハート/ルシンダ・ウィリアムス

2020年の暮れ、ルシンダ・ウィリアムスが脳梗塞で倒れたというニュースにはドキッとした。まあ、ぼくも数年前に同じ病気をぶちかましちゃったことがあるし。人のこと言えた義理ではないのだけれど。心配しました。

でも、ルシンダ姐さんは帰ってきた。ぼくもそうだったのだけれど、左半身麻痺だったようで。これ、逆だと言語機能に支障が出たりするらしく。そこは幸いにもなんとか免れた、と。でも、左側が思うように動かせなくなるもんで、以前のようにギターを弾いたりはできなくなってしまい、厳しいリハビリの日々へ。

で、まずは2021年から22年にかけて、コロナ禍、辛い思いを余儀なくされてきたライヴ会場を支援するため、毎回ひとつずつテーマを決めてカヴァーしまくる配信スタジオ・トリビュート・コンサート・シリーズ“ルーズ・ジュークボックス”を6エピソード(テーマは“トム・ペティ”、“サザン・ソウル”、“ボブ・ディラン”、“1960年代カントリー”、“クリスマス”、そして“ローリング・ストーンズ”)、リハビリを兼ねながら続けて。CD化もして。

で、今年、いよいよカヴァーでなく、自作曲による回復後初の新作アルバムを制作。それが本作『ストーリーズ・フロム・ア・ロックンロール・ハート』だ。夫トム・オヴァビーとエンジニアもつとめたレイ・ケネディとの共同プロデュース。これまでのルシンダ姐からしたら珍しく彼らやジェシー・マリンと曲を共作もしている。このあたり、まだ完全に本調子というわけではないということなのかな。

ルシンダさんならではの、聞く者の胸を鋭くぶち抜くような歌詞表現とかテーマ素材の選び取り方とか、曲によってはその辺に物足りなさがあるのは残念ながら事実。それでも、本調子とは言えなくとも、あの声とあの感触がまた帰ってきてくれたことも確かなわけで。やはりうれしい。創作への意欲も衰えてはいないようだし。

アルバムのオープニングを飾る曲のタイトルが「レッツ・ゲット・ザ・バンド・バック・トゥゲザー」、つまり“またバンドを集めよう”というのが象徴的かも。ルシンダ・ウィリアムスというアメリカーナ〜ルーツ・ロック系の超強力なソロ・アーティストとしてではなく、まずは彼女をフロントに据えたバンドとしてシーンに本格復帰してきた、と。

バックアップしているのはスチュアート・マシス、ダグ・ペティボーン、スティーヴ・フェローニ、エンジェル・オルスン、マーゴ・プライス、ジェレミー・アイヴィー、バディ・ミラーら頼もしい顔ぶれ。「ニューヨーク・カムバック」と「ロックンロール・ハート」にはブルース・スプリングスティーン&パティ・スキャルファ夫妻も客演。掛け合いでヴォーカルを聞かせている。特に前者、コロナ禍からのニューヨークのカムバックと自身の病魔からのカムバックとが重なって、ぐっと来る。

リプレイスメンツのトミー・スティンソンを迎えて故ボブ・スティンソンの亡くなる前の思いを描いたという「ハムズ・リカー」や、故トム・ペティとの思い出を綴った「ストールン・モーメンツ」など、“死”を意識した者ならではの曲もあって。泣ける。まだ左側が動かない感じのまま、ブルー・キッチンTVで「ハムズ・リカー」を訥々と歌ってる映像も貼っておきますね。周囲の心強いサポートの下での堂々たるカムバックをまずは歓迎しよう。で、すでに制作に着手しているという次作にさらなる期待を…!

サブスクでは今のところシングル4曲がバラバラに配信されているだけで、アルバム全体のストリーミングはされていない模様。国内盤も出ているので、ぜひブツを手に入れましょう。

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