Disc Review

The Jester / Wallice (Dirty Hit)

ザ・ジェスター/ワリス

2020年のシングル「パンチング・バッグ」で一気に注目を集めたシンガー・ソングライター、ワリス。米ロサンゼルス出身ながら、お父さんが日本の方で、自身も一時東京で暮らしていたことがあるそうで。フル・ネームはワリス・ハナ・ワタナベさん。数年前、「ジャパン」ってシングルを出したりもしていた(カップリングは「日本」という邦題の下、それを日本語で歌ってたっけ)。

そんな彼女が数枚のシングルやEPのリリースを重ねた後、ようやく初のフル・アルバムを届けてくれましたー。

去年、某人気バンドのアジア・ツアーにオープニング・アクトとして同行したとき、会場を埋め尽くした観客たちが、しかし誰ひとり彼女の名前も知らず、その音楽にもまったく興味を示してくれず、でも自分は自分の歌を歌うだけ…みたいなシビアな体験をしたらしく。そんな思いを綴った「ジ・オープナー」って曲でアルバムはスタートする。

“私はただのオープニング・アクト/どうぞ私の歌にかまわずおしゃべりを続けて…”とか静かに、淡々と、シニカルな歌詞を綴ったかと思うと、ノイジーなギターを炸裂させて苛立ちをぶちまけてみたり。でもって“どうせ帰るころには/私のことなんか忘れちゃうんでしょ/私なんか新鮮味なし/メロディは2音だけ/レディオヘッドのパクリよ/1993年なら成功できたかもね”とか歌ってて。いい感じにやさぐれてます。

その後もほんわかしたシンセサイザーが印象的なベッドルーム・ポップっぽいアプローチあり、パワー・ポップふうあり、アルバート・ハモンド・ジュニアを迎えたスピーディ&キャッチーなインディ・ロックあり、インダストリアルっぽい世界観の曲あり、テイラー・スウィフトあたりに代表される今どきのシンガー・ソングライター調あり、ホーンを伴ったミディアム・テンポのブルー・アイド・ソウル調あり。

面白い子だなぁ。すでにストリーミングなどデジタル・リリースはスタートしているけれど、フィジカルは12月になってからみたい。これは断然アナログかなー。

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