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Disc Review

Rollins In Holland: The 1967 Studio & Live Recordings / Sonny Rollins (Resonance)

ロリンズ・イン・ホランド:1967スタジオ&ライヴ・レコーディングズ/ソニー・ロリンズ

ぼくがソニー・ロリンズという偉大なサックス・プレイヤーに興味を持ったのは1972年。高校生だったころ。当時、新作としてリリースされた『ネクスト・アルバム』をFMで聞いて、たぶん曲は「ジ・エヴリホエア・カリプソ」だったと思うけれど、そのなんとも外向きで雄大な歌心をたたえたプレイにノックアウトされたのがきっかけだった。

調べてみたら、このアルバムが1966年以来、久々のカムバック作だったとのことで。そんなタイミングでの放送だったのだろう。これで一気にハマって。まあ、お小遣いも少なかったころだから、あまりロリンズのレコードをたくさん買うことはできなかったものの、そこはFMのエアチェックを最大限に活用しながら、あれこれ彼の名演に接するようになった。

翌年には来日もあって。確か中野サンプラザだったと思うけれど、見に行ったっけ。楽しかったなー。「セント・トーマス」とか「モリタート」とか「アルフィー」とか、ロリンズの代表曲もたっぷり味わうことができて。最高だった。

ただ、編成的にはちょっと中途半端だった覚えもある。当時、渡米して武者修行中だった増尾好秋がレギュラー・クインテットのギタリストとして参加していた時期で。レスポールを抱えた増尾さんとか、エレキ・ベースを弾くボブ・クランショウとか、そのあたりのメンバーの姿が、ロリンズの圧倒的にアナログなたたずまいと妙な違和感を醸し出していた。まあ、ジャズ界全体がそういう、なんとなく中途半端にロック化しているような過渡期ではあったのだけれど。

というのも、そのころまでにぼくはたぶん『ウェイ・アウト・ウェスト』(1957年)とか『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜(A Night At The "Village Vanguard”)』(1957年)とか『フリーダム・スイート』(1958年)とかも後追いで聞いていて。ロリンズって、それらの名盤で聞かせてくれたサックス+ベース+ドラムというピアノレス・トリオ編成でこそ最強の個性を発揮するな、と。まだひよっこジャズ・リスナーなりに確信していたもんで。クインテットという当たり前の編成ですら、ロリンズにはでかすぎる気がして。ギターはいらないんじゃないかなー…とか(笑)。ひよっこのくせして偉そうに感じたりしていたものだ。いやー、いっちょ前気取りが恥ずかしい。けど、懐かしい。

とはいえ、ロリンズがもっとも効果的に個性を発揮できるバンド編成はいわゆるワン・ホーン形式だと、それは今なお、年齢を重ねてからもぼくは確信し続けている。普通、ワン・ホーンというと名盤『サキソフォン・コロッサス』(1956年)とかで聞けるサックス+ピアノ+ベース+ドラムというカルテット形式が多いけれど。ロリンズはそこからさらに踏み込んで、前述のような斬新なピアノレス・トリオ形式に積極的に挑んだ。和声感を決定づけるピアノを外すことで、もともと奔放な個性で知られるロリンズはさらに自由な演奏空間を手に入れ、思う存分暴れまくることができた。

そんな彼の個性が存分に発揮された未発表音源集が、今日ピックアップする『ロリンズ・イン・ホランド』だ。1967年、単身オランダを訪れ、短い期間ながら濃密に演奏活動をこなしたソニー・ロリンズのパフォーマンス集。すべてピアノレス・トリオ編成での録音だ。前述した1966年以降のレコーディング休止期間の実に貴重な記録でもある。

冒頭に1967年5月5日、ヒルフェルスムのVARAスタジオでレコーディングされたスタジオ録音ものが4曲入っていて。続いて、同日、テレビ放送用にロープスドレヒトのクラブで収録されたライヴ録音が2曲。さらにそれらよりも前、5月3日にアーネム(アルンヘム)芸術アカデミーで収録されたライヴが5曲。

バックアップしているのはオランダの腕利き、ストレート・アヘッドな持ち味のルード・ジェイコブズ(ベース)と、アヴァンギャルド方面へも個性を伸ばしつつあったハン・ベニンク(ドラム)。当地を訪れたジョニー・グリフィンとか、ベン・ウェブスターとか、ウェス・モンゴメリーとか、クラーク・テリーとか、そういった米国のジャズ・ジャイアントたちのサポートも手がけてきた連中だ。ベニンクのほうはエリック・ドルフィーの『ラスト・デイト』への参加でもおなじみだろう。彼らもロリンズに触発されながらなかなか手応えたっぷりの演奏を聞かせてくれる。

5月3日のライヴ音源はブート化されていたけれど、5月5日のものはスタジオ、ライヴ、両音源とも近年の発掘ものだ。スタジオの4曲が特にうれしい。名盤『ニュークス・タイム』(1957年)に収められていた「チューン・アップ」と、『ヴィレッジ・ヴァンガード…』のコンプリート盤で聞くことができた「フォア」。この2曲のマイルス・デイヴィス作品が要か。ガーシュウィン・ナンバー「ラヴ・ウォークト・イン」は前年の欧州ツアーでマックス・ローチとジミー・メリットを従えたライヴ演奏が発掘リリースされたりしたもとあったけれど、ここでもスタジオおよび2種のライヴ、すべての機会に取り上げている。この時期のお気に入り曲だったのだろう。全部違うニュアンスの演奏で。さすが奔放かつ豪放なロリンズという感じ。

音質は悪いのだけれど、5月3日のライヴもさすが強力ではある。前述「フォア」とロリンズ作の「ソニームーン・フォー・トゥー」という2曲の『ヴィレッジ・ヴァンガード…』関連曲の他は「スリー・リトル・ワーズ」「ゼイ・キャント・テイク・ザット・アウェイ・フロム・ミー」「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」「ラヴ・ウォークト・イン」と、お得意の歌ものスタンダードを、がんがんメドレーにしたりしながら吹きまくる長尺ヴァージョンばかり。

溢れ出る歌心は誰にも止められないって感じ。そういえば、かつて来日したロリンズと共演を果たした渡辺貞夫が語っていたことだけれど。いわゆる“フォー・バーズ”、参加メンバー全員が4小節ずつアドリブ・フレーズを一人ずつ順番に披露していくパートでのこと。普通ならば自分の順番が回ってきたときにだけ演奏すればいいのに、ロリンズは他のメンバーがソロをとっている間もずっとサックスのマウスピースをくわえ、指を動かし続けていたのだとか。音を出していないだけで、ロリンズは他のメンバーが演奏している間もずっとサックスを吹き続けていたってこと。

一見もったいなくも思えるこの姿勢こそが、彼の歌心豊かなプレイを支える最大の秘密なのかも。それと同じように、レーベル契約が結べず正規レコーディングがまったくなされなかった時期も、ロリンズの歌心は途絶えることなく世界のどこかで放たれ続けていたのだなぁ、と。そんなことを教えてくれるうれしい発掘ものでありました。

本人への最新電話インタビューや貴重な写真も満載されたものすごく充実したブックレットもついているのだけれど、情報満載すぎてまだ全然読めてません(笑)。これからじっくり取り組みます。

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