Disc Review

The Gospel Truth / Mike Bloomfield (Sunset Blvd Records)

ザ・ゴスペル・トゥルース/マイク・ブルームフィールド

以前、フリートウッド・マックの初期音源集を本ブログで取り上げたときにも書いたことの繰り返しになるけれど。1970年代半ばになって、『ニュー・ミュージック・マガジン』とかでブルース特集が組まれたりして、ちょっとしたブルース・ブームが盛り上がるまで、ぼくたち日本の一般的な音楽ファンはブルースの何たるかとか、ほぼわかっていなかった気がする。

特に1960年代末から1970年代アタマにかけて。ぼくが中学生だったころ。情弱な時代だったから。日本で普通にラジオとか聞きながら体験できた黒人ブルースマンといえばせいぜいB.B.キングくらいで。それも「スルリ・イズ・ゴーン」的なやつだったし。それだけに、ロック・フィールドでもわりと取り上げられることが多かった白人のブルース好きアーティストの存在は、実はけっこうありがたかった。

英国勢としては初期フリートウッド・マックとかジョン・メイオールとかチキン・シャックとか。で、米国勢ではキャンド・ヒートとかポール・バタフィールド・ブルース・バンドとか。当時、こうした白人ブルース・ロック・アーティストたちから教わったことは本当に多かった。ニセモノ呼ばわりされたりしたこともなくはなかったけれど、彼らの若き情熱がその後のブルース・リバイバルの気運へとつながったことは間違いない。

そしてこの人、マイケル(マイク)・ブルームフィールドだ。個人的にはブルース・ロック系白人ギタリストの中でこの人こそが最大のヒーロー。最初のショックは、アル・クーパーと組んだ1968年のアルバム『スーパー・セッション』の冒頭に収められていた必殺のスロー・ブルース「アルバートのシャッフル(Albert's Shuffle)」だった。一発でノックアウト食らった。

その後、ちょっとさかのぼってバタフィールド・ブルース・バンドでのプレイとかにも接するようになって。さらにバタフィールドの元を去ってから結成したエレクトリック・フラッグとして1968年にリリースした『ア・ロング・タイム・カミン』でのブルースの枠を超えた多彩なプレイにもぶっとんだ。

あのアルバムの冒頭に入っていたハウリン・ウルフの「キリング・タイム」のカヴァーも、ほんと、やばかった。まずジョンソン大統領が投票権に関する新たな公民権法案の提出を約束したときの有名なスピーチの録音を流し、それを切り裂くようにファンキーなイントロがスタート。イントロがブレイクしたところでブルームフィールドのギターがうなりをあげる。この瞬間のスリルは今もまったく色あせていない。白人でありながら黒人の音楽に魅せられ、両者を取り巻く本当の状況を肌で知っていたブルームフィールドならではの気合いと怒りが伝わってくる。

ブルームフィールドをいち早く、自らのアルバム『追憶のハイウェイ61(Highway 61 Revisited)』で起用したボブ・ディランは“自分が聞いた中では最高のギタリスト”と讃え、エリック・クラプトンも“あいつは歩く音楽だ”と形容した。

1960年代のパフォーマンスがとにかくごきげんなのは疑いなし。もちろん1970年代以降のプレイも素晴らしい。けれども、彼の生涯は短かった。ドラッグへの依存と極度の不眠症に悩まされ続けた彼の生活は1970年代以降、ひどく荒れた。スタンフォード大学で音楽学を教えたり、アメリカ音楽の歴史を研究に勤しんだり、音楽研究家としての活動も続けていたものの、身体、精神、両面の不調からドラッグへの依存がさらに深まった。奇行も目立つようになった。そして、1981年2月15日、ドラッグの過剰摂取が原因で他界。享年37。遺体は自身の車の中で発見された。淋しい最期だった。

と、そんな晩年、音楽愛あふれるマニアックな姿勢で知られるジョン・フェイフィのタコマ・レコードに在籍していたころの姿をざっくりまとめたベスト盤と、まだまだ若々しく突っ走っていたころ、1971年のライヴ音源とを組み合わせた2枚組が本作『ザ・ゴスペル・トゥルース』だ。

ディスク1が『ベスト・オヴ・アコースティック&エレクトリック・セッションズ』と題された1枚。1977年のタコマ移籍第1弾『アナライン』から6曲、1978年の『マイケル・ブルームフィールド』から5曲、1979年の『ビトウィーン・ザ・ハード・プレイス&ザ・グラウンド』から1曲、1981年の『クルージン・フォー・ア・ブルージン』から4曲、さらに1997年に編まれた『ザ・ベスト・オヴ・マイケル・ブルームフィールド』で世に出た2曲という計18曲。

周囲の期待と本人の思いとが常にすれ違う中、しかし卓抜したギタリストとしてのテクニックを武器に、音楽の未来に向かって突き進むのではなく、アメリカ音楽のルーツへと向かう旅を淡々と実践し続けていた時期のブルームフィールドの真摯な思いが伝わってくる名演ぞろい。特にほぼすべての楽器をひとりで演奏した大傑作『アナライン』からの6曲がうれしい。よく聞いたなー。グッド・オールド・タイミーな「ピーピン・アン・ア・モーニン・ブルース」とか、フィンガー・ピッキングの妙技を堪能できる「フランキー・アンド・ジョニー」や「エフィノナ・ラグ」とか、ブルージーな「ムード・インディゴ」とか、スピリチュアルなスライド・プレイがたまらない「アット・ザ・クロス」とか、ハワイ風味満点の「ヒロ・ワルツ」とか、どれも泣けます。

ディスク2はライヴ。こちらは1971年2月19日カリフォルニア州サンバーナーディーノのスウィング・オーディトリアムで行われた貴重な未発表音源だ。音は今いちですが。ホーンを絡めたファンキーなものとか、ブルージーなギターを満喫できる長尺スローとか、ビートルズ・ナンバーとか、なかなか楽しいです。

来週には国内盤(Amazon / Tower)も出るとか。

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