Disc Review

Barn / Neil Young & Crazy Horse (Reprise)

バーン/ニール・ヤング&クレイジー・ホース

どこからどこまでがオリジナル・アルバムなのか、定義が微妙なので自分ではもう数えてませんが。プレス・リリースによれば、ニールさんにとって41枚目のオリジナル・アルバムで、クレイジー・ホースと組んだものとしては14作目だとか。

『ジス・ノーツ・フォー・ユー』『フリーダム』『リヴィング・ウィズ・ウォー』などで組んでいたニコ・ボラスとニールさんの共同プロデュース。1850年代、コロラドのロッキー山脈に建てられたという古い木造の納屋を改造/再建し、盟友クレイジー・ホースとともにそこにこもってレコーディングされた新作だ。なもんで、タイトルはずばり『バーン』。佐野元春かと思った(笑)。

再発・発掘もの交えてとんでもない勢いでリリースをたたみかけているニール・ヤングではありますが。新作としては、やはりクレイジー・ホースと組んで2019年に発表した『コロラド』以来。以前、本ブログで『コロラド』を取り上げたときにも触れたことだけれと、ニール・ヤングはクレイジー・ホースと組んだときがとにかく特別だから。今回もものすごく期待していて。先行音源が公開されるたびワクワク胸を躍らせてきた。

ご存じの通り、ニール・ヤングにはざっくりふたつの顔があって。ひとつはアルバムで言うと『ハーヴェスト』とか『カムズ・ア・タイム』とか、あのあたりのメロウなシンガー・ソングライター路線。もうひとつは『ズマ』とか『ラギッド・グローリー』とか、あの辺の轟音ロック路線。今回はどっちに行くのか、先行トラックが出るたび予想していた。

先行トラックには前者っぽい「ソング・オヴ・ザ・シーズンズ」もあれば、後者っぽい「ヘッディング・ウェスト」もあった。直前に演奏シーンをおさめたビデオクリップとして公開された「ウェルカム・バック」も、往年の「コルテス・ザ・キラー」とか「ドント・ビー・ディナイド」とかを彷彿させるハード・スロー路線(なんだ、それ?w)で。なるほど、つまり、どっちもか、と(笑)。で、実際にリリースされてみたら、結果は予想通り。さすが年の功というか。アルバム収録曲全10曲中、きっちり半々、5曲ずつその両要素をバランスよく配して提示してくれた感じだ。

子供時代、両親が離婚したことをきっかけに西へ向かった日々の思いを綴る「ヘッディング・ウェスト」とか、気候変動を巡る政府の対応に疑念をぶちまける「ヒューマン・レース」とか、LPガスに依存する状況がまったく変わらないことに怒る「チェンジ・エイント・ネヴァー・ゴナ」とか、米国籍をとったカナダ人+アメリカ人である自らを題材にした「カネリカン」とか、独特のロー・コード・カッティングに導かれて始まる長尺もの「ウェルカム・バック」あたりが轟音もの。ニールさんはもちろん、引退を宣言したポンチョ・サンペドロに代わって前作からクレイジー・ホースに返り咲いたニルス・ロフグレンと束になって骨太なギターワークをたっぷり聞かせている。

一方、残り半分はぐっとシンガー・ソングライターっぽいリリカルなアプローチ。オープニング・チューン「ソング・オヴ・ザ・シーズンズ」など、イントロのハーモニカの音色が、いきなり『ハーヴェスト』あたりを想起させて。泣ける。つかまれる。ニルス・ロフグレンによるアコーディオンも味わい深い。ただ、聞き進めていくと、“女王が今も統治する宮殿が見える。彼女が築いた壁と寂しい門扉の向こうに。王は去る。彼女は残る。彼女の軍旗が雨の中で波打つのを感じる…”とか。歌詞の世界観がなんだかよくわからなくなってくるのだけれど。この謎めいた“え、どゆこと?”感は、なんともニール・ヤングっぽい。

かと思えば、現在の奥さま、ダリル・ハンナへの愛を綴ったというポップな「シェイプ・オヴ・ユー」では、もう真っ向から“君はぼくの人生をより良く変えてくれた。ぼくの愛を大好きなセーターのように着ている”みたいなストレートなこと歌っていて。これもまたニール・ヤング。喪失感漂う「ゼイ・マイト・ビー・ロスト」とか、男女の愛を描いているようでいて実はバンド仲間とのことを歌ってるのかなとか思ってしまう「タンブリン・スルー・ザ・イヤーズ」とかも素敵だ。

“何かを奪われたとき、何かを与えることができる。死んだときにこそ、生きることができる。愛を忘れないで、愛を忘れないで…”と、音を削りに削ったバッキングに乗せて、枯れた、きわめてシンプルなフレーズを繰り返すラスト・ナンバー「ドント・フォーゲット・ラヴ」も妙に心に残る。諦観の果てのほのかな希望というか。そんなものを感じさせてくれる。

全体的に、何らかの関係性というか、つながりのようなものを描いた1枚なのかなと思う。76歳になったというニール・ヤングならでは。“俺は長いこと、こういうやり方で歌ってきた。この嵐を乗り越えてきた…”という「ウェルカム・バック」の歌詞に思いきりしびれます。

ぼくはニール・ヤングのサイトのショップでいちばん豪勢なバンドルもの(LP+CD+ブルーレイ)を注文。そこでしか買えないのかと思ったら、これ、普通に日本(Amazon / Tower)でも売ってるじゃないのさ。失敗した(笑)。

なので、もちろんまだブツは手元に届いておらず。もれなくハイレゾ・ダウンロードも付いているはずなのだけれど、そのお知らせメールも未達だ。ぼくはニール・ヤング・アーカイヴズの会員でもあるので、サイトでハイレゾ・ストリーミングもできるはず。が、それまた時差の関係か、まだ配信が始まっていない。というわけで、仕方なく昨夜の深夜というか今朝の早朝というかに解禁された、サブスク・ストリーミングで普通に楽しんでいる状況ではありますが。それでも十分盛り上がっております。

とはいえ、早くおっきなジャケット眺めながらアナログ盤で聞きたいなぁ。ブルーレイにダリル・ハンナが監督したという制作ドキュメンタリーも入っているそうで。それも楽しみ。

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