Disc Review

Cahoots: 50th Anniversary Edition / The Band (Capitol/UMe)

カフーツ:50周年デラックス・エディション/ザ・バンド

ザ・バンドのオリジナル・アルバム発売50周年記念デラックス・エディション・シリーズ、また出ました。今年2セット目。2月に出た『ステージ・フライト』に続く第4弾の登場です。今回の題材は、もちろん1971年9月リリースの4作目『カフーツ』。

この10月、ネットで「カーニバル(Life Is A Carnival)」の新リミックス・ヴァージョンが先行公開されたときは、驚いた。まじぶっとんだ。今回も過去3作同様、オリジナル・マルチトラック・マスター・テープからのリミックスを手がけたのはボブ・クリアマウンテン。ザ・バンドの中心メンバー、ロビー・ロバートソンからの全幅の信頼を背景に、楽器バランスや音質の改善にとどまらず、途中、間奏明けのところでドラムとベースをミュートしてオリジナル・ミックスにはなかったブレイクを事後処理的に作っちゃったりしていて。

まあ、かっこいいっちゃかっこいい気もしなくはなかったものの。ここまでしなくても…と思ったのも事実。前デラックス・エディション『ステージ・フライト』ではリミックスのみならず曲順までいじっちゃってたし。デラックス・エディションを重ねるたびに、ロビーさん、勢いづいちゃってるのかなと感じた。悪い意味で。

リチャード・マニュエル、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルムら“ザ・バンドの声”とも言うべき3人が他界して、今では“静かなザ・バンド”ガース・ハドソンとともにたった2人のオリジナル・メンバーとなってしまったロビーさん。自らの視点を貫いた伝記映画とかも作ったり、ザ・バンドの歴史を自分史観で再構築しようとしているのかな…と。

なので、デラックス・エディション全体が今回どんなことになっているのか、ちょっとドキドキしながら発売を待っていたのだけれど。悪い予感は半ば当たり、でも、別の意味で、あ、これはこれでありなのかな、とも思える仕上がりだった。

今回のデラックス・エディション、国内盤は2CD+1LP+ブルーレイ+7インチ・シングルで構成された豪華版“スーパー・デラックス・エディション”と、CD部分だけでリリースされた“2CDデラックス・エディション”の2パターンでのリリース。

CD1はボブ・クリアマウンテンによるオリジナル・アルバムの最新リミックス・ヴァージョン。「カーニバル」は前述した通りのラディカルな仕上がりで。続く「傑作を書く時(When I Paint My Masterpiece)」の冒頭、極小ボリュームでスタートしてフェイドインしてくる個所の楽器バランスとか、定位とか、質感とかも、新鮮というか、違和感があるというか。

ただ、『カフーツ』というアルバムはもともとけっこう微妙な存在で。前作に引き続き、ザ・バンド自らがプロデュースも手がけた1枚ではあったものの、アルコールやドラッグでやばい状態に陥っているメンバーも多く、グループ内はぐしゃぐしゃ、アルバート・グロスマンが創設したベアズヴィル・スタジオの使い勝手もまだちゃんと確立されてはいなかったようで、もはや他のメンバーに頼れなくなってしまったロビーはたったひとりのソングライターとして孤軍奮闘。でも、当時はなかなか思うような作品作りを実現できずじまい。『カフーツ』は音楽的にも音質的にも中途半端な仕上がりの1枚となってしまった。セールス的にも世間の評価的にも今ひとつ爆発せずじまい。

思えば、ザ・バンドのオリジナル活動期の最後を飾る『ラスト・ワルツ』のコンサートで演奏されたセットリストに、『カフーツ』収録曲から選ばれたのは「カーニバル」1曲のみだった。

このアルバム以降のザ・バンドのリリースというと、ライヴ・アルバムの『ロック・オヴ・エイジズ』(1972年)、オールディーズのカヴァー・アルバム『ムーンドッグ・マチネー』(1973年)、ボブ・ディランのバッキングをつとめた『プラネット・ウェイヴズ』とライヴ『偉大なる復活(Before the Flood)』(ともに1974年)、発掘音源による『地下室(The Basement Tapes)』(1975年)。新曲によるオリジナル・スタジオ・アルバムとなると、1975年暮れに出た傑作『南十字星(Northern Lights - Southern Cross)』まで待たなくてはならないわけで。『カフーツ』での不本意さはずいぶんと尾を引いた、と。そういうことなのだろう。

そういうある種不本意さを、ロビーは今回、ボブ・クリアマウンテンの技術と感性によって払拭しようとしたのかもしれない。ロビーはボブに“オリジナル・ミックスはラフ・ミックスだと思って、『カフーツ』の完成品を作ってくれ”と依頼したのだとか。実際、今回のリミックスによって、ものすごくクリアに、タイトに生まれ変わった音を聞いてみて、あ、こんな音が入っていたんだとか、ガースってこんな変なフレーズぶちこんでいたんだとか、3人のヴォーカルがこんなふうに絡み合っていたのかとか、細かいことがすごくよくわかった。

「リヴァー・ヒム」とか、もともと好きな曲ではあったけれど、今回のミックスでさらにぐっとくる感じになった。「ラスト・オヴ・ザ・ブラックスミス」、「スモーク・シグナル」、「火山(Volcano)」、そしてヴァン・モリソンをゲストに迎えた「4%パントマイム」あたりも存在感を増したような…。プラシーボかもしれないけど(笑)。『カフーツ』再評価の気運がちょっと盛り上がりそう。ロビーも“今回の形こそが望んでいた『カフーツ』だ”とか盛り上がっているみたいで。んー、まあ、そこまで言われるとオリジナル・ヴァージョンを長年聞き込んできた身としてはまた複雑な気分になったりもしますが。前のミックスもちゃんと現行CDとして流通はし続けるようなので、今回のものは今回のもので別物として楽しめばそれでよし、か。

CD1にはオリジナル・アルバム収録曲のリミックスに加えて、「エンドレス・ハイウェイ」や「ドント・ドゥ・イット」のスタジオ・ヴァージョン、「傑作をかく時」や「4%パントマイム」の別テイク、のちに『地下室』で初お目見えした「ベッシー・スミス」などもボーナス追加。以前の再発CDのボーナス・トラックとかでもおなじみの音源が多いけれど、ヴァン・モリソンが先発する「4%パントマイム」のテイク1(途中で終わっちゃうけど)はなんだかやけに新鮮で興味深かった。

で、CD2はかつてフランスでテレビ放映された1971年5月25日のパリ・オランピア劇場でのライヴ音源がメイン。でも、すんません、これは正直そんなに盛り上がらなかったかな。『カフーツ』の収録曲ひとつもやってないし。この年のツアーに関しては、のちに『ロック・オヴ・エイジズ』にまとめられる大晦日のニューヨーク公演のほうが断然充実しているわけで。おまけ感強し。CD2にはそれに加えて、収録曲のインスト・ヴァージョンや音数を減らしたストリップト・ダウン・ヴァージョンも追加されている。

これが2CDデラックス・エディション。今回の再発に関してはこれで十分かなとも思うけれど、スーパー・デラックス・エディション(Amazon / Tower)のほうにはさらに、ニュー・リミックス音源のドルビー・アトモスおよび5.1サラウンド・ミックスをハイレゾで収録したブルーレイや、「カーニバル」の日本盤を復刻した7インチ、本編のニュー・ミックスを収めたLPも付いてます。輸入盤だとリトグラフ付き/リトグラフなしのLP単独もあり。

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