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Logan Ledger / Logan Ledger (Rounder)

ローガン・レジャー/ローガン・レジャー

なにやら1970年代からタイムスリップしてきたような、不思議な魅力を放つ新人シンガー・ソングライターの登場だ。ローガン・レジャー。サンフランシスコのベイエリア育ち。祖母の影響で幼いころからエルヴィス・プレスリーやロイ・オービソンのようなロックンローラーとか、プラターズのようなヴォーカル・グループを聞いていたのだとか。

12歳のころにギターを弾き始め、スミソニアン・フォークウェイズ系の発掘CDでドク・ワトソンやミシシッピ・ジョン・ハートなどにハマるようになって…という、もう、いつの時代の子だかわからない感じ。ニューヨークのコロムビア大学に通っていたころにはキャンパス・ラジオのブルーグラス番組の司会もつとめ、自身のブルーグラス・バンドで演奏したりもしていたという。

卒業後はサンフランシスコに戻り、1年半ほど地元でアマチュア音楽活動を続けたのち、ふと思い立ってテネシー州ナッシュヴィルへ。西海岸→東海岸→西海岸→南部という流れ。ナッシュヴィルでは当地のバーで、おなじみのヒット曲ばかりを歌うカヴァー・バンドの一員として活動していたが、やがてギタリストのマーク・ソーントンと出会い、彼のホーム・スタジオで今回出たデビュー・アルバムの冒頭に収められているオリジナル曲「Let The Mermaids Flirt With Me」のデモ・レコーディングを行なった。

このデモがベーシストのデニス・クロウチの手を経て、Tボーン・バーネットのもとへ。興味を抱いたTボーンは、さらに数曲のデモをローガンに要求し、それらを聞いたうえでデビュー・アルバムのプロデュースを引き受けた、と。こうして、めでたく名匠Tボーン・バーネットのプロデュースによる本作が完成へと至ったわけだ。

レコーディングはナッシュヴィルのハウス・オヴ・ブルース・スタジオで。Tボーンも自らギターを弾いているが、さらなるバックアップ・ミュージシャンとして、マーク・リボー(ギター)、ジェイ・ベルローズ(ドラム)、デニス・クロウチ(ベース)らを招集。そう、Tボーンがプロデュースを手がけたロバート・プラント&アリソン・クラウスの名盤『レイジング・サンド』をがっちりサポートしていた腕ききたちだ。そこにラス・パール(ギター/ペダル・スティール)が加わったラインアップで、深く、豊かで、柔らかく、でも、どこか憂いがあって、ちょっとダウナーで、うっすらダークなサウンドを作り上げている。ローガン自身もギターをプレイしているようで、グレッチの59年ホワイト・ファルコン、63年のフェンダー・ジャズマスター、46年のマーティンD-18などで、なかなか小癪な音を鳴らしているみたい。

ジョー・ヘンリーがプロデュースしたミルク・カートン・キッズのアルバム『All The Things That I Did & All The Things That I Didn't Do』(2018年)ともがっちり共通する顔ぶれ。スタジオも同じ。ちなみに、このミルク・カートン・キッズのアルバムにはローガンくんもバック・コーラスで参加していた。

本人作の楽曲を中心に、スティーヴ・アール、ノア・ジャクソンらとの共作曲や、Tボーンの作品などを交えた全11曲。ジミー・ロジャースっぽいノスタルジックなカントリー・ワルツあり、ロイ・オービソンを想起させる哀切ナンバーあり、ホンキー・トンク調あり、トゥワンギー調あり、ロカビリー調あり。『モダン・タイムズ』以降のボブ・ディランとも共通する、いかにもTボーンっぽい世界観が基調になってはいるのだけれど、曲によってはボスト・パンク世代ならではのスピード感みたいなものを感じさせてくれたり、ニュー・ウェイヴっぽいコード感が見え隠れしていたり。そのあたりはTボーンの思惑からローガンがはみ出してしまった部分なのかも。で、そのはみ出し部分のバランスもまた面白い。

まだあまり深くは味わえていないのだけれど、死の影すらうっすら漂う、ちょっと歪んだ歌詞の世界観も興味深いような…。南部っぽいカントリー感覚と、東海岸っぽいクールな精緻さと、西海岸っぽいグルーミーでコズミックな手触りが交錯する1枚です。

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