Disc Review

Come Come Everybody: Original Soundtrack - Jazz Collection / Takahiro Kaneko (Sony Music Labels)

カムカムエヴリバディ〜オリジナル・サウンドトラック ジャズ・コレクション/金子隆博

みのるさん…。

的な? NHK連続テレビ小説。いわゆる“朝ドラ”を見る習慣というのは、個人的にずいぶんと長いこと途絶えていたのだけれど。音楽仲間のフラッシュ金子こと金子隆博が劇伴を手がけているもんだから。現在放映中の『カムカムエヴリバディ』でその習慣が復活しちゃいましたよ。

昔、中村とうようさんとお食事したとき、朝ドラの話を熱弁なさっていたこととか思い出すなぁ。竹内結子がどうとか言ってた覚えがあるので、もう20年以上前のことになるか。あと、大滝詠一さんも『あまちゃん』が大好きで、ものすごく詳細な深読み解説をしてくださったことがあったし。やっぱ、モンスター番組なのだと改めて思う。

で、その2021年度後期の最新作『カムカムエヴリバディ』。昭和という時代が始まる直前、1925年(大正14年)生まれの“安子”(上白石萌音)を起点に、その娘の“るい”(深津絵里)、さらにその娘“ひなた”(川栄李奈)へと連なる三世代のヒロインが紡ぐ100年のファミリー・ストーリー。安子ちゃんが生まれたのは日本でラジオ放送が始まった、まさにその日。ほどなくスタートしたラジオ英語講座との出会いが、安子の、そして彼女から始まるるいとひなたの未来を大きく切り拓いていくことになるわけですが。

忌むべき太平洋戦争を間に挟んで展開していく壮大な物語を、戦後まもなく放送開始になった“カムカム英語”ことラジオ英語講座とともに彩る重要な要素が、戦時中には“敵性音楽”として禁じられていたジャズだ。

というわけで、番組の背景には通常のサウンドトラック曲、いわゆる“劇伴”とともに、ちょいちょいジャズが流れる。それが楽しい。今のところ安子の時代を象徴するスウィング・ジャズやディキシーランド・ジャズがメインだけれど。ストーリーがるいの時代に突入すれば、今度はハード・バップやファンキー・ジャズが重要な役割を果たすことになるらしい。

今朝の放送ではジャズ喫茶にやってきたお客さんが「マスター、チャーリー・パーカー聞かせて」とか言ってたので、時代はすでにビ・パップ期に突入してきたのかなという感じ。そうした流れを汲む形でドラマ用の音楽を書き下ろしたり、アレンジしたりしているのが米米CLUBのメンバーとしてもおなじみ、金子隆博、キンちゃんなのでありました。

で、このほど、その劇伴アルバム『カムカムエヴリバディ〜オリジナル・サウンドトラック 劇伴コレクション』ってのとともに、『カムカムエヴリバディ〜オリジナル・サウンドトラック ジャズ・コレクション』って2枚組CDが出た。なので、今朝はそれを紹介します。ぼくも簡単なライナーみたいなやつ、書かせてもらってます。

ディスク1が安子の時代、ディスク2がるいの時代。キンちゃん率いるビッグ・ホーンズビーの面々(佐々木史郎、小林太、河合わかば、石川周之介、織田浩司)はもちろん、元ブラック・ボトム・ブラス・バンドのMITCHやOJIなど、活きのいい世代のミュージシャンを中心に、そこに北村英治、渡辺貞夫、外山善雄ら日本ジャズ界のリジェンドたちがゲスト参加した楽しい仕上がりだ。

やはり、ぐっとくるのは「オン・ザ・サニー・サイド…」「ティー・フォー・トゥー」「ローズ・ルーム」「聖者の行進」などに参加している北村英治さんの存在。北村さんといえば1968年から1984年、テレビ朝日系『モーニング・ショー』に自らのバンドを率いてレギュラー出演していたことでもおなじみで。日本の朝に素敵なスウィング・ジャズを提供してくれていた貴重な存在。学生時代、夏休みとか冬休みとか、午前中を家で過ごせるとき、いつもその演奏に触れていたものだ。

そんな北村さんが、今、朝ドラの音楽でまた日本の朝に戻ってきてくれたわけで。年輪を重ねた日本のジャズ・ファンにとって、これは本当にうれしいプレゼントだと思う。感慨深い。1970年代アタマに出たテディ・ウィルソンとの共演アルバムもよく聞いたっけ。その1曲目も「オン・ザ・サニー・サイド…」だったなぁ。懐かしい。

そしてディスク2のほうが、るいの時代を彩る1950〜60年代的なハード・バップ〜ファンキー・ジャズ系の作品群。こちらは時代背景を超えて使用されているらしき「オン・ザ・サニー・サイド・オヴ・ザ・ストリート」を除く全曲がキンちゃんのオリジナル曲だ。とはいえ、ここで描かれている時代に日本でも大いに人気を博したアート・ブレイキーとか、リー・モーガンとか、ハービー・ハンコックとか、そのあたりのスター・プレイヤーたちの人気曲を彷彿させる、というか、いい感じにパクった(笑)というか、影響を受けたというか、ごきげんなナンバーぞろい。

そんな中、「カムカムエヴリバディのテーマ」と「るいのテーマ」に参加しているのが、こちらもグレイトなリジェンド、渡辺貞夫!

ナベサダさんも『ナベサダとジャズ』とか『マイ・ディア・ライフ』とか、そういう名物ラジオ番組を通して、毎回毎回、ぼくたち日本の音楽ファンにたくさんのジャズ・スタンダードを教えてくれた恩人。演奏家にとっては、かの名著『JAZZ STUDY』でバークリー音楽院仕込みの現代ジャズ理論をたたき込んでくれた大先輩。

もちろん、全編で聞くことができる日本の若い世代のミュージシャンたちのプレイもごきげんだし。単にサントラとしてだけでなく、日本のジャズ・シーンの充実ぶりを再確認できる2枚組として、見逃したらちょっともったいないアルバムかも。ちなみに、来春早々、キンちゃんを招いてこの辺のジャズの話題でCRT開催の予感。詳細は決まり次第お知らせします。

それにしても、雪衣さんの存在が気になりすぎる…。

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