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Disc Review TBT

TBT: Surfer Girl / The Beach Boys (1963, Capitol)

【スロウバック・サーズデイ】サーファー・ガール/ザ・ビーチ・ボーイズ

今朝は仕事で早く出かけなければならないので、ニュー・リリース紹介はちょっとお休み。閑話休題。そしてTBT、スローバック・サーズデイってことにも引っかけて、リリース・タイミングとはあまり関係のない旧譜の話題をちらっと。このTBTシリーズ、これからもレギュラー化しちゃおうかな。

もう昨日の日付ではあるのだけれど、今から57年前の1963年9月16日、1枚のアルバムがリリースされた。ビーチ・ボーイズのサード・アルバム『サーファー・ガール』。ということで、“今日は何の日”ならぬ“昨日は何の日”だけれども、そういうエントリーをちゃちゃっと軽くお届けして、早々に出かけます(笑)。

2012年、バンド結成50周年の年にミュージック・マガジン社から出していただいた『ビーチ・ボーイズ・ディスク・ガイド』という本にも書かせていただいたエピソードなのだけれど。

ぼくが初めてビーチ・ボーイズのレコードを買ったのは1969年。中学2年生になったばかりのころ、ちょうどそのころ新作だった『20/20』を手に入れたのが最初だった。だから、それまでのビーチ・ボーイズ作品に関して、ぼくはすべて後追いで接している。初めて買った『20/20』以前に遡ろうと思っても、キャピトルが意図的に初期のオリジナル・アルバム群を廃盤にしていた時期だったため、買えたのは1枚前の『フレンズ』のみ。仕方なく『ビーチ・ボーイズ・デラックス』なる14曲入りベストLPで、なんとか初期の音源を楽しんでいた。

が、高校生になり輸入盤屋さんにも出入りするようになったころ。1970年代初頭のある日。登校中読んでいた音楽雑誌で、新宿の某輸入盤店に『サーファー・ガール』のUS盤が限定入荷したという広告を発見した。値段はわりと安かった気がする。でも、その日の財布に入っていたお小遣いは残りわずか。その盤を買って、帰りの電車賃を出したら全額消えてしまいそうな状態だった。

でも、欲しくて欲しくて。限定入荷という文字がぼくを焦らせた。その日、授業を受けながら、ずっとそのことばかり考えていた。放課後、友達に頼んで、高校があった早稲田から一緒に新宿まで歩いて付いてきたてもらった。その友達は別にビーチ・ボーイズを好きだったわけでも何でもないのだが。申し訳ない。ひとりじゃ寂しかったから。

あれこれ青春トークを交わしながら新宿へ。お店でついに『サーファー・ガール』を手に入れて。幸せの絶頂。でも、財布にはぎりぎりの電車賃のみ。うれしいんだか悲しいんだか、複雑な表情のぼくを見て、友達はなんだかかわいそうだと思ったらしく、新宿駅近くの甘味処でクリームあんみつをおごってくれた。甘かった。すごくおいしかった。帰宅して聞いた『サーファー・ガール』も素晴らしい1枚で。夢見心地。持つべきものは友達だ。今もなお心から感謝している。

1962年10月に出たデビュー・アルバム『サーフィン・サファリ』、1963年3月に出た『サーフィン・U.S.A.』の2枚はともにキャピトルの専属スタッフ、ニック・ヴェネーのプロデュースによるものだったけれど、1963年9月リリースの『サーファー・ガール』からいよいよグループの中心メンバー、ブライアン・ウィルソンが自らプロデューサーとしてクレジットされた。まあ、実際、前2作でもスタジオ内で音作りの実権を握っていたのはブライアンだったようだけれど、この3作目に至ってついにビーチ・ボーイズというバンドがブライアンのアイデアを具現するための存在であることが公式な形で宣言されたわけだ。

これは画期的なことだった。当時、米ポップ界の頂点に君臨していたエルヴィス・プレスリーですら自らのレコードをセルフ・プロデュースなどしていなかった。同時代の人気者フォー・シーズンズにもボブ・クルーという名プロデューサーがいた。やがてビーチ・ボーイズの強力なライバルとなるビートルズにもジョージ・マーティンがいたし、だいいち彼らはまだ米国上陸を果たしてさえいなかった。そんな時代にブライアンはビーチ・ボーイズのサウンドをすべて自分の思うように構築できる権利を手にしたのだ。

全体を貫くテーマは、前2作同様、サーフィン、車、女の子…といった西海岸のティーンエイジ・ライフにまつわるものばかり。が、音楽的には格段の進歩が見られた。従来のサーフィン/ホットロッド路線の完成度をより高めた「キャッチ・ア・ウェイヴ」「リトル・デュース・クーペ」「ハワイ」「アワー・カー・クラブ」といった躍動的な楽曲とともに、初めて本格的にストリングスを導入し、ブライアンの一人二重唱をフィーチャーした「サーファー・ムーン」や、やはりブライアンのソロ・ヴォーカルによる「ユア・サマー・ドリーム」のような憂いに満ちた、メロウな佳曲が存在感を発揮し始めた。新鮮な転調も随所に顔を見せ、ブライアンの作曲家としての急速な成長ぶりを印象づけた。

この「ユア・サマー・ドリーム」が好きで。毎日えんえん聞いていたなぁ。Aのキーの曲なのだけれど、サビの4小節目だけ一瞬キーがF#に移調。でも、1小節だけですぐ次の小節、あっけなく元キーに戻る感触とか。もうたまらなかった。途中、コードを刻むギターがちょこっとトチったりするところもかわいくて大好きだった。

先述した通り、US盤で買ったアルバムだったもんで歌詞カードが付いてなくて。歌詞の2行目“All the while you build a scheme…”という部分が聞き取れず。というか、もともとスキームなんて単語自体知らなかったし(笑)。でも、歌いたいから“オーザワイリュー・ベネスキー…”とかテキトーに歌いながら、ベネスキーって何だろうな、よくわからないけど、きっと楽しいってことなんだろうな、と胸ときめかせていたものだ。

ともあれ、夏の爽快さを売り物にしていたビーチ・ボーイズに、もうひとつ、夏の夕暮れ時にふとよぎる寂しさのような味わい深い魅力が加わった重要な1枚がこの『サーファー・ガール』。特に再発があるタイミングでもなく、いわれはないのだけれど、もし気が向いたらちょっと振り返って接し直してみてください。ちょうど今の時期、夏の終わりに聞くといっそうしみる1枚だと思います。

なんて、早々に出かけなきゃいけないのに、長々とすみません。ビーチ・ボーイズ話は止まらないっすね。今週土曜日にお届けする“リモートCRT”もビーチ・ボーイズにまつわる回です。よかったらわれわれの暴走するビーチ・ボーイズ愛(笑)をリモートで受け止めてやってください。よろしく!

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